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学会遠征編ショート版 第28話

現地の飯

 荷物も軽くなったところで食事処を探すことにした。前述のとおりマクドナルドなど有名なチェーン店ならどこにでもあるが、ここまできたなら現地のタイ料理を食べてみたい。何が有名なのか、下調べが浅かったのは要反省だが、ここまでの道もそうだが歩けば飲食店はいくらでもあった。バンコクは人口の多い首都なのでそのあたりに関しては心配いらないだろう。ただ、Googleマップを見たところでタイ語でしか書かれていないのでどこが何の店なのかわからない。実際にその店の前にある展示物やメニュー表などを頼りに飲食店かどうか、何が食べられるのかを判断するのだ。ドリアンや謎のフルーツが外で売られていてユニークだ。路上で買い食いでもいいが、ここから午後も長いのでエアコンの効いた涼しいところで食べたい。1ついいところを見つけたのでここはどうかとCRAZYに提案した。CRAZYは店の入り口から定員さんに少しやり取りをし、不満そうに出てきた。ここでは食べないらしい。どうしたものかと聞いたらどうやらクレジットカードが使えないとのことだった。そうなるならなおさら現金を持っておけと忠告したが頑なに断ってきた。歩けばATMはそこら中にある。そこでやれと強く言い、CRAZYは日本円を変換しに行くが、何の成果も挙げずに戻ってくる。うまくできなかったらしい。それでも変換しようとしたことに対して納得してほしかったのか、
"Are you happy?"
と煽ってきた。さすがに腹が立ってまたもや喧嘩になった。彼は日本に留学に来てからは働いておらず、お金が厳しいというのはよくわかる。怒ってはいけないと思いながらも自分の都合でこちらが食べたかったこと、やりたいことを封じられるのは不満が残るので勘弁してほしいという、複雑な心境に立たされていた。前半の徳島一人旅がいかに気が楽であったことか。特に彼とは性格が真反対なのもあってこういうアウェー戦ではイレギュラーに対して反発が起こりやすくなるのも仕方ない。仕事上の相性は良くてもプライベートでは馬が合わないのだろう。支払う手段がないのはどうしようもないので、ここの店は諦めることにした。
 その道中、一匹大きい犬を見かけた。僕の腰にその犬の胴体があるくらいの巨大な体だ。ホルスタイン柄だったので野良牛と呼ぶことにした。遠目に見れば子牛である。そういえば、高校の地理の授業で先生が、アジアの暑い地域では街の中を野良犬が平然と闊歩していると話していたのを思い出した。日本でもなくはないとはいえ、ここまで大きく育っていると恐怖すらある。こいつに嚙みつかれたら狂犬病にでもなるのだろうか。もともと犬は苦手なので、通り過ぎた後も十分遠くなるまでは自分の警戒心を強めに設定しておいた。しかしその野良牛はお皿に入った水を飲んでいるところだったので、誰かが面倒を見ているのだろう。ちなみに周りの現地人は気にも留めていなかったのでこの光景は珍しいことではないのだろう。彼らにとっては生活の一部なのである。
 もう少し歩くと、またもやいいお店を見つけた。CRAZYがお店に入りまた質問をするので、今度はその様子を見ていようと近くにいたら、
「VISAツカエマスカ?」
と日本語で聞いていた。店員さんが首をかしげるので僕が
"Is a cresit card available?"
と英語で補足したらYesと返答がきた。なんで僕が英語に通訳しているのか。CRAZYにとってアジアでは日本語が共通言語だとでも思っていたのだろうか。どちらかというと彼の母国語の一つである英語の方が伝わる可能性は高いだろう。英語の方が伝わると思うと彼にアドバイスしたが、あまりわかっていないようだった。英語での意思疎通のためにCRAZYを連れてきたつもりだったが、これでは完全に僕が試されているではないか。とはいえ、慣れない言語でも会話ができれば楽しいし自信がつく。お店はガラガラで店員さんは客席でくつろいでいたが、営業中なので我々2人を歓迎してくれた。
 メニュー表を開くと、タイ語の他に英語でも書いてくれていたのでわかりやすかった。ちなみにVISAを使える店は店頭に貼りだしてあったりするのでわざわざ聞かなくてもいい場合が多いが、あえて英語で会話することで、店員さんが英語でやり取りできる人なのかを判別することができる。これはつまり、観光客に慣れているかどうかを測ることができるのだ。もちろんクレカが利用可能という時点で観光人に目を向けていると推測できるが、店に入ってからこちらの意思が伝わらないのはまずい。この店はここの課題はクリアしていた。この店はタイ料理屋だが、その中でも特に米を使ったものが多かった。これがうわさに聞くタイ米だろうか。炊くとおいしくないと地理の授業では聞いていたが、実際のところどうなのだろうか。CRAZYは牛肉が好きなので牛入りのものを注文していた。卵は抜きと言っていた。それに対し僕はエビペーストの鶏肉入りフライドライスを注文した。写真で見ておいしそうだと思ったからだ。卵は有にした。おそらくチャーハンのようなものなのだろう。料理が提供された。これが現地の味というものだろうか。縦に切ってある唐辛子が丸ごと入っていたのでとてもスパイシーだが、ごろっと入った鶏肉と卵、エビの旨味とスパイスの数々がいい味を出していた。タイ米も炒めれば美味しいということだろう。おそらく日本人受けはいいだろうと思った。CRAZYの方もおいしく食べていた。先ほどの店はスルーしたものの、ここでも満足という感じだ。ただし、やはり辛いものは辛いので顔から火のように汗が出る。日本と違い水もおしぼりも提供されなかったので、持ち込んだペットボトルの飲み物を飲み、ハンカチで汗を拭いた。とはいえ水分が足りないのでお水を注文したら瓶に入った500mlの飲料水とグラスを2つくれた。意外にも人生でボトルに入った水は見たことがないので新鮮な気分になった。飯もうまいが、暑い日に飲む水も負けず劣らずおいしい。路上の物売りからは僕がCRAZYの分も買ったので、こちらではCRAZYに2人分払ってもらった。満足感とともに店を去った。

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