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学会遠征編ショート版 第41話 ベトナム料理

帰り道の苦難

 日が暗くなってきて、次第に暗くなる道をただひたすらに突き進んだ。ホテルへの帰り道はそんなに曲がらずに行ける。また5km歩くことになったのだ。脚は自動操縦モードに移行したので、意識がなくなっても目的地まではたどり着ける。しかし、今はただ、ただただ水が欲しい。できる限りコンビニのありそうなルートを探して帰ることにした。できればその道中で現金も補充したい。そう思ったが、銀行はもう軒並み閉まっているので街中のATMに頼ってみた。多少の手数料は構わない。200バーツだけでもいいからこの土地で使える通過が欲しかった。しかし、現実は思うようにいかない。キャッシュカードにクレジットカードなどいろんなカードを挿入して現金を引き出そうと試みたが、一向にうまくいく気配がなかった。現金での取引は諦めろという事なのか。ここで思い出した。そうか、だからCRAZYは現金を手に入れられないと項垂れていたのかということを。その点に関しては申し訳ないとおもったが、ここで現金が手に入らないのは致命傷である。小銭を数えてみたら、残り78バーツしかなかった。まず、コンビニで買い物ができない。厳密には買い物ができるが、クレカを使える金額にするために300バーツの無駄遣いをするなどのひと工夫が必要となる。それでも水が欲しい!そう思って9バーツの飲料水500ml1本だけ買った。残り69バーツ。これ以上使うと、明日空港まで行くお金が無くなってしまう。昨日の電車では、最初の1本目は終点まで乗る金額で45バーツ、乗り換えた後はいくらか必要になった。この後の飲食店はすべてクレカで賄うとして、電車に乗る金額だけでも死守したい。かと言って、空港へ向かう線は結構距離が長いので、この電車に乗れなくなるのはすなわち帰国できないことを意味する。まさか、暑さや脱水症状の他にこんなピンチが訪れるとは。CRAZYと別れてしまったので、タクシーの割り勘もできない。何なら、僕は彼にいくらか貸していた分もあるので、返してもらわないと現金が間に合わない。もしかして、別れたのは間違っていたのだろうか。とはいえここで再開するのはプライドが許さなかった。今はただ、ひたすらホテルへ帰るだけである。
 その道は初めて通るにしては見慣れたものだった。いろんな店が並んでいて、当然のように犬猫が野生でたむろしている。なるべく高そうな店は選ばないようにしようと思いつつ、気づけばホテルまで1kmを切ったところでよさげな店に入った。中では店員さんが席についてゆっくりしていた。クレカが使えることを確認したら6人掛けの大きな席に案内された。既にお皿もカトラリーも用意されていて、もしかして予約席なのではとも思ったが、まだそこまでお客さんが多いわけでもないので安心して席に着いた。メニューを見てみたら、ここはベトナム料理屋であることに気が付いた。タイに来てベトナム料理とは、まったく風情があるのかないのかわかりにくいところだが、食べてみたいものがいくつもあったので良しとしよう。とりあえず、フォーとビーフンを注文した。ついでに飲み物としてレモンソーダも頼んだ。これで一応300バーツも超えているので、コンビニのように金額が少なくてクレカが使えないといった事態も起きないだろう。
 出てきた料理は思っていたよりボリュームのあるものだった。特に量の指定はしていないが、日本だと大盛り判定されるくらいはある。それでも、味はやさしめで、そこまでのどの乾くような味ではなくすっきり味わうことができた。タイとベトナムはそこまで距離の離れた位置にあるわけではないが、料理の味は全然違っていてこれもまた面白い経験になった。機会があればぜひベトナムにも行ってみたい。
 食事中に、CRAZYから電話がかかってきた。どうやら彼は今、彼のホテルまでタクシーで帰ってきたようで、今なら借りていた分のお金を返せるということだった。断った。追加で1km、往復で2km歩く羽目になるからである。というかそもそも、食事中なのですぐに行くことはできない。こういった理由で断ったのだが、実際は奴が反省していなさそうだったのが気に入らなかったというこちらの感情もあった。自分も扱ったり余裕がなくなると感情で動いてしまうのか、と後日反省することにした。
 こうして何とかホテルに戻ってこれた。ホテルの1Fにお金を変換できそうな施設もあったが、行くとしたら明日だ。2Fのロビーで少しくつろいだ。なんて寝心地のいいソファーなんだ。こうやって汗だくの人間が横になることで、汚くなっていくのだろう。

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