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学会遠征編ショート版 第25話

入国審査

 飛行機を降りた瞬間から蒸し暑さがやってきた。これに備えて飛行機にはそんなに厚着せずにいたのだが、もっと薄くてもいいだろう。その服はスーツケースに入っているので荷物回収をスムーズに実行したい。その前に入国審査を済ませる必要がある。長い長いベルトコンベアの途中でCRAZYと再会した。いつも通り元気そうだ。彼は僕以上に出入国には慣れていると思うのでわざわざ言うまでもないが、君はビザも必要だと言っておいた。ケニア人なので入国にはビザが必要である。その後看板の指示通りに移動し、列に並んだ。手順はよくわからないが、日本人はパスポートと搭乗券を持っていればどうにかなるだろう。CRAZYは別のゲートに呼ばれていたのでいったん離れて、僕の番が回ってきた。パスポートを見せ、その後半券を出そうかと思ったが、ウエストポーチの奥底の方にクシャクシャになっていて取り出しにくいだろうなということで急遽領収書のコピーを出したらそれで許された。若干慌ててしまったが、無事入国できたので良かったのだが、問題はCRAZYの方である。別に怪しいものを持ち込んだりはしていないだろうが、審査が通るのが非常に遅い。結局15分くらい待った。ゲートを抜けて合流するや否やスマホの画面を見せつけてきた。そこには、Google翻訳で日本語訳された、「ここは最悪だ、差別のレベルが非常に高い」と表示されていたのだ。こればかりは仕方がないので怒ることではないが、彼は審査の厳しさに非常に腹を立てていたのだ。しょっぱなから人生最悪の国認定してしまったらしい。その後僕はトイレで着替えて日焼け止めを塗り、虫よけスプレーもかけた。CRAZYにも使うかと聞いたが、必要ないと答えた。確かに、皮膚は日本人より強そうである。次にすべきは両替だ。タイ国内では基本的にクレカで買い物しようと思っていたが、屋台も多いので現金もあった方がいいだろう。ちなみに、出発前の時点でHKDから330バーツは受け取っていた。数年前の学会に行った時の余りらしい。その時点では1バーツ=3円だったらしいが、現時点では1バーツ=4円程度だ。たった数年度そこまで変わるのかと驚きながらも、手持ちの日本円2,000円をバーツに替えた。空港内で変換するのがいちばん手数料が少ないらしいので、ここでの軍資金調達がカギとなる。CRAZYにも現金の変換を促したが、「オカネガアリマセン」の一点張りだった。確かにクレカでおおむね対応できるだろうが、現金は使うつもりがないのだろうか。ひと悶着起きたが、とりあえず100バーツだけ小遣いとして持たせた。次はsimカードだ。これも僕は1週間使い放題の物を用意しておいたので空港内で取り換えるだけで解決したが、用意の甘いCRAZYは未解決問題だ。空港内で売っているものでいいから3日分契約して来いとこちらが言っても伝家の宝刀no moneyで乗り切ろうとする。宿泊するホテルや学会会場内・空港ではフリーwi-fiが使えるとはいえ、それ以外は無しで乗り切ろうというのか。CRAZYが折れてsimを買おうと店に行き、並んだふりをして帰ってくる。買ってこいと突き返す。これを2,3度繰り返し、やっと購入したところで "Are you happy?" と煽ってきた。これには非常に腹が立ったが、一応解決はした。この煽り文句はイラついたとはいえ汎用性が高そうだとも勉強になった。空港でやることは終えたので外に出ようということで、空港の出口のドアを開けた。
 その瞬間から熱気と湿度が再び我々を向かい入れた。そう、この外は完全にタイである。日焼け止めも虫よけも無かったらここでダウンしていたことだろう。2人ともスーツケースを転がしながら駐車場を横断していった。何百台と停まるタクシーの数々。荷物を預けるためにホテルへ向かおうと思っていたが、その交通手段は当初僕からは電車を提案していた。ホテルの近くに駅があるし、安いからだ。しかし、この大量に停まっているタクシーを見てCRAZYはタクシーで行こうと言い始める。お金が無かったのではないのか。いろいろと意味が分からなかったが、タクシーの運転手に運賃を聞いたらやっぱり電車の方が安そうなので駅を探すことにした。時刻は午前の7時前だというのに、もう既に30℃近くある。まだ日が出てきたばかりではないか。そう思いながらもGoogleマップをもとに外から駅を探した。いかついスピードで走る車の合間を縫って道路を横断した。2人とも元気はあるので車はよけられるだろうが、スーツケースがあるので無理はできない。危険な道路横断だ。謎の大きな建物に大量の自転車が止まっている施設を見つけた。よくわからないが、記念にそれぞれ写真を撮った。もう汗だくだ。離陸前に買っておいたペットボトルの水とコーヒー1本ずつがしばらくのライフとなる。広く、危険で舗装されていない道を2人で歩き、目的地とされる場所に近づいていくが、一向にたどり着いた感覚がしない。ただただ広い土地があるだけに見えるからだ。これはどういうことなのか。駅とされる場所に到着したが、そこは駐車場だった。この時間はときどきバスが出入りする程度で、電車の要素は全くない。もしやと思い、近くの警備員さんに尋ねたら、駅は真下だと教えてくれた。電車は空港内の地下にあるということなのだ。やらかした。仕方がないので危ない道をまた引き返すことにした。

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