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学会遠征編ショート版 第13話

大麻町

 坂東駅を降りて少し歩いたところにドイツ館がある。どういう建物なのかはわからなかったが、行けそうだと思ったので行ってみることにしたのだ。だいたい駅から北西の方角にあるので、道は厳格にならず、気の赴くままに歩いてみた。駅から、ずっと男女数人の大学生ぐらいのグループが自分の後ろを歩いている。彼らは自分には関係ないし、僕のことを意識している気配は全然なかったが、なんとなく後ろにいられるのが嫌だったので、あえて誰も通らなさそうな細い道を通ってうまく撒くことにした。車すら通れない細い道。隣には温かい柑橘畑の景色が広がっている。すだちの実もたくさんなっていたが、僕は野生動物ではないので勝手に取ったり荒らしたりすることはない。のどかな村は、まるで地元を歩いているかのようだ。もしかして知らないうちに帰省していたのだろうか。何食わぬ顔して田舎町を歩く人間が、まさか観光客だとはだれも思わないだろう。こうしてマップのナビを無視しながら歩いていると謎の寺院、霊山寺があった。趣があって気になったが、ドイツ館の閉館時間も迫るので後で訪れることにした。その他にも、長く続く鳥居の道も気になったが、これもパスだ。ちなみに、天気は澄み渡るほどきれいな晴で、暖かく、来ていた上着もいらないほどだった。太陽の圧勝だ。さぞかし花粉も飛んでいるのだろうが、そのあたりの対策は怠っていない。数週間前から薬を飲んでいるので、どこにも異常は出なかった。それもあって散歩には最適の環境だ。ドイツ橋と名前が付いた、かわいらしい橋を渡ると、遠くに建物がいくつか並んでいるのを見つけた。南側から順に、賀川豊彦記念館、道の駅、そしてドイツ館だ。道の駅に少し寄ってみることにした。もちろんお土産になりそうなものがたくさん並んでいるが、お酒は今の自分には荷が重かった。ここで性懲りなく飲んでいては、またもや歴史が繰り返されるかもしれないからだ。深く深く反省している。何も買わずに外へ出て、ドイツ館の中へ入った。
 ここまで歩く道が完全な孤独だったのでもしやと思ったが、やはり中にはほとんど人がいなかった。1Fは受付と売店、2Fが資料館となっている。とりあえず入場料は払うことにした。そこでは、単純にここに入場する分以外に、鳴門公園の橋の入場券とセットになったプランもあった。これは昨日言ったところなのでもう行かないが、知らなかったので少し損をした気になった。まずは2Fへ。ここからは写真撮影には許可がいるとのことだったのでスマホはしまっておくことにした。展示物としては、戦時中にドイツの捕虜が使っていたものや、その捕虜たちについての待遇が書かれた板などがあった。市営の公民館くらいの規模である。そして、ここに来て、なぜこの場所にドイツに関する資料館が存在するのかというそもそもの疑問に解決していないことに気が付いた。どうやら、戦時中はこの大麻町に多くのドイツ兵捕虜がいたこと、そしてベートーヴェンの第9交響曲が日本国内で初めて演奏されたという事実を残すためのようだ。つまり、この地域は思っていたよりグローバルだったということだ。30分に一度、人形たちの演奏会(一定の動作をするだけで、音源は他にある)が始まったので、観に行ってみたら、その第9交響曲の一部始終を披露してくれた。誰もが効いたことのあるであろう、有名な曲だ。僕はエヴァQで記憶している。YouTubeのプレイリストに入れるくらいには好きな曲だったので、少し嬉しくなった。一周にはそれほど時間を要さなかった。午前の急ぎ足とは逆に、ゆっくりとした時間が流れた。気前よくアンケートにも答えておいた。そして、ご意見番のノートにも何か書こうと筆を執った。こういうのを見かけると遊ばずにはいられないたちなのである。その執筆者を見るに、教育者がプライベートで来て、子供たちに話したいという感じのものが多かった。中には今回の学会で来た、別の大学の研究室御一行も来ていたらしい。今日の日付が書かれていたので、午前にでも来たのだろう。まじめに感想を書いている人が多い中、ふざけるのは至難の業だ。とりあえず僕からは、人類の最終目標、ちょんちょんの絵を差し上げた。感謝の気持ちも忘れずに述べておいた。スタンプもあったので記念に押しておいた。1Fに降りて展示物や商品をいろいろ見ていた。楽譜があったので、写真に残しておいた※。またしてもビール… 確かにドイツはビールが有名であるのだが、先述の通り今日は飲まない。他にはかわいらしいグッズが多数そろっていたが、いちばん安い150円のカヌレを2個買った。

※ 1Fに撮影禁止の表記は無かった。

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