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学会遠征編ショート版 第8話

本編


こうしていい時間になったので車に戻ることにした。モドキと仲介人は徳島駅に付属のホテルに泊まっているのでそこに降ろしてもらうようだ。僕のホテルはもう少し向こうだが、近辺は停車しにくいだろうということと、そもそも方角が後輩のホテルとは真逆なので、同じく徳島駅で降ろしてもらうことにした。この時点で4時半ごろ。飲み会の会場までは徒歩30分程度なので、少しはゆっくりできそうだ。くれぐれもホテルで一睡しないようにだけ気を付けよう。この徳島駅からホテルまでのルートは行きと同じなので、また阿波踊り会館に寄れる。制限時間30分で、徳島のお土産を買っておこう。家族用のお菓子とバーで配るお菓子。あとは彼女と弟と、20日に会う予定のクゥちゃんと武人の分は買っておいた。ホテルに帰還。荷物を下ろし、私服に着替えて再出発だ。疲れもたまっているので軽くストレッチはしておき、荷物はスマホと財布、タオルとホテルのカードキーくらいにして歩き始めた。道中、見慣れないセブンイレブンやラーメン屋を見かける。鍋屋さんもおいしそうだなと思っていたところで気づく。進行方向が真逆ではないかと。歩いてちょうど間に合うくらいの時間に出たので、このロスは大きい。googleマップによれば、目的地まで2.7kmあり、徒歩なら遅刻する時刻に到着することになるそうだ。逆に考えよう。今気づいたのが大不幸中の小幸いだと。速やかにターンし、ランニングに切り替えた。まずは真逆に進んだ分の400m。これでもまだまだ間に合わない。徳島駅周辺は特に車どおりが多いので、信号も待ち時間が長い。それに中心部は自転車専用の横断歩道しかないところもあり、そもそも徒歩では横断できない。この2日間で学んだことをフルに生かし、階段ダッシュもした。できるだけ車道をカットするため、大きな歩道橋を使えるだけ使った。この時点でマップの予測では57分着になっていた。まだまだ走れる体のようだ。とはいえ、もう集合しているかも入れないので、できる限り早く着くためにまだ走ることにした。走るとはいえ3kmもないので、なれない道でも気合で何とかなりそうだ。ここからはほとんど曲がらず1直線。ありがたい。こうして何とか52分ごろに到着することができた。私服・軽装できて本当に良かったと思うばかりだ。到着したタイミングで、ちょうど逆方向から後輩が歩いてきた。ベストタイミングだ。他にはまだ誰も来ていないのだろうか。そんなことはないのだろうが、少し待っていたら黒も来た。彼も徳島駅のホテルに泊まっているはずだが、道中ですれ違うことはなかったので、もしかしたらスパ銭巡りから直接来たのかもしれない。たしかに、ホテルから来たのなら、他の3人も一緒のはずだろう。ということは店内に既に入っている可能性が高い。一応連絡してみたら、もう他全員いるということだったので、中に入った。走って汗だくだが、タオルはあるし全員男なので気にしないことにした。結果的には開始の6時より前なので、何も問題はないということだ。教授2人と学生6人、うち同期が自分含め5人と1つ下の後輩が1人、研究室メンバーの半分弱がここにきているのだ。1杯目はビールにした。黒はお酒が弱いのだが、他全員がビールを飲むので同町圧力でビールにしていた。危ないかもと思い、時々気に掛けることにして乾杯した。焼き鳥屋さんなので、あらゆる調理を施された鳥がやってくる。お高めのコースを頼んだのか、ボリューム満点でどれもおいしい。卓では、場を盛り上げるために学生側が必死に話題を探す。主にJAに関する話題だ。娘さんのことや家のこと。個人的すぎる内容なのでここには書かないが、いつか先生の家でバーベキューをしたいという話にもなった。面白そうではあるが、学生も、家にいる奥さんたちも気を遣うという気まずいパーティになりそうなので、この話は流れるだろう。その他、研究室でのフィールドワークとして、発電所や交直変換所などを見てみるのも面白いのではないかという話になった。JAはなんと大型の免許も持っているそうなので、みんなでバスに乗ってゼミ旅行というのももしかしたら実現するかもしれない。また、JAは朝飯の早さでホテルを選ぶと言っていた。どうやら毎日朝5時に朝ご飯を食べているらしい。いくら何でも早すぎないか。道理で朝一番から元気いっぱいなわけだ。そして、この会の裏の目的を実行することになった。それは、論文の著者の順番についてはっきりさせることである。これは、一人目は実際に書いて発表する学生本人だとして、2番目に誰を書くのかという問題である。基本的に、1人目に近いほどランクが高いので、指導教員ならできる限り前に書いてほしいと思うはずだ。その順番決めの判断材料としては、貢献度順であったり、若さであったりいろいろあるようだが、HKDの名前が2番目に書かれるとJAは少し嫉妬してしまうようなので、この際はっきりさせるのだ。結局、JAはどの順番でもいいとは言っていたが、少し投げやりな口調であった。おそらく、お酒が入っていなかったらもっと怒っていただろう。この席だからこそ聞ける内容なのだろう。そんな感じで盛り上がった。飲み放題なので、2杯目もビールを頼んだ。3杯目は違うものを頼んでみたいということで、ジンソーダを注文しようとしたら、これは飲み放題のメニューには入っていないらしく、仕方がないのでまたビールにした。この時点で黒はまだ1杯目の半分くらい。水分は大丈夫だろうか。そして、先生たちがそれぞれ今機になっている研究テーマについての話にもなった。JAは、現在のように幅広い手法でアプローチすることで研究の知見を深めたいというような方針でいるようだった。一方、HKDの方はというと、僕のテーマが今はアツいということだそうだ。すごくうれしく思う反面、JAはいまいち僕のテーマを気に入っていないようだったので、ここで考え方が二分している。そう、僕は今両極端の意見に押しつぶされているのだ。まるで二重スパイのような苦悩である。どうすればいいのだろうか。とりあえず、旅行終了後の打ち合わせについては考えないことにし、今は今を楽しむことにした。4杯目は徳島らしさを追求するため、すだちのチューハイにした。久しぶりの焼酎飲料なので、体がもつかわからないが、面白そうなので注文した。出てきたのは親指くらいの小さなすだちが数粒入ったサワー。かわいらしい飲み物で、すっきりとした味わいだった。後輩は翌日に発表があるので、ビールを2杯程度飲んだところでアルコールは打ち切りたいようだった。ウーロン茶を注文しようとしたところ、バカな先輩仲介人がわざとウーロンハイを頼んでしまった。仕方がないので後輩はそれを飲もうとするが、思いのほか濃いようで飲めなかった。誰かが処理しなければ、飲み放題に余計な金額がついてしまう。そう思ったので、最後に僕が肩代わりすることにした。濃いと言ってもしれているだろう、そう高をくくっていたら、1歩目から階段を踏み外した気分になった。いくら何でも濃すぎないか。8割アルコールだ。これはどう楽しめばいいのだろうか。半分はサンタさんが持って行ってくれた。彼は僕よりも水分量が多そうな体格をしているので、アルコール分解容量が僕よりあるのかもしれない。「確かに濃いなぁ」と言いながら飲み干し、黒の残りのビールも肩代わりする様はまさしくサンタクロースそのものであった。その代わり、サンタさんはお酒が入るとしゃべり上戸へと変わり果ててしまう。もともとおしゃべり好きではあるが、エタノールの力は計り知れない。先生二人が主役であることを忘れ、声のボリュームも一段大きくなってしまった。僕としては、あれを1杯飲むよりは耐えられるので今回は許そう。黒に、「もう酔っ払ったんだろ、ノンアルでも飲んで体内のアルコール濃度下げなよ」とウーロン茶(本物)を勧めたが、これは僕の分のウーロン茶も頼めるようにするためでもある。後輩の分も含め3杯注文した。JAは最後までビールだった。以前の飲み会でもそうだったが、終始ビールが胃に入るらしい。この時点の気分は決していいものではない。しかし、教授二人の仲はそれなりに取り持てたのではないのだろうか。清算し、店の外へと出た。

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