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学会遠征編ショート版 第33話

食べに行こうか

 夕食の場所を探す前に荷物を整理することにした。これまでは財布に日本円もタイバーツも一緒に入れていたが、これでは支払いのときに困るということで分けた。ちょうど、路上で買ったゾウさんの小銭入れがある。これにバーツとクレカ、キャッシュカード、ホテルキーを入れて持ち歩くのだ。自分用に買ったお土産が早速有効に使えて嬉しい。あとは洗濯物を持っていくことにした。少し歩くが、外にコインランドリーがあるらしい。その道中で良さげなレストランも探すという作戦だ。
 早速出発した。薄暗くなる時間だが、電光掲示板には気温が33℃と書いてある。こんな時間でも容赦はしてくれないらしい。ところどころ工事中なのか、道のタイルが剝がれたままになっていたが、おそらくあまり気にしてはいけないのだろう。それとコンビニのような出現率でタイ古式マッサージの店があった。その店の前では必ず女性が何人か待機している。どんなものなのかはネットで調べた程度には知っているが、今は空腹を満たす方が先と考えスルーした。こんなところでサービスを受けてしまったら自分は究極生命体になってしまい、後々大変になりそうだ。
 コインランドリーは大通りから小道へ、不審なところへ入り込んだところにあった。店内は日本のコインランドリーと大差無く、洗濯機の複数ある部屋だ。違う点といったら、洗剤を横の自販機で購入して投入する点だろう。つまり、洗濯・乾燥+洗剤代が必要なのだ。そこまでは事前に調べてあったのでわかっていたが、具体的な使い方はわからないので手探りでやってみた。まずは洗濯物を中に入れよう。その後は…40,50,60と表示されたタッチパネルが横にあるが、タイ語が読めないのでよくわからない。おそらく、これを押せば始まるのだろうとは容易に予測できるが、どんなサービスなのか理解していないのは沼だ。この数字はおそらく金額だろう。お金はあるが、できれば最小金額に収めたい。とはいえ最低サービスでは満足いかないかもしれない。ここは恐怖の選択(洗濯)だ。どうしよう…
 今までの自分は忘れていた。Googleレンズで読めばいいじゃないか。というか最初からそれである程度対応できたじゃないか。そんなことは今気にする必要ないが、アプリをインストールして早速使ってみた。なるほど、金額の違いは水温の違いだったのか。40バーツは冷水、50はぬるま湯、60は熱湯らしい。汗をかいただけで、そんなに熱水を必要としていなかったので40にした。洗剤と合わせれば50バーツだ。これでやっと動くと安心できた。開始したら謎のカウントダウンが始まったので少し奇妙に感じたが、それでもまぁ動くだろう。プール後虫除けスプレーをしていないことを思い出したので一旦引き返した。あれ、もう汗をかいているじゃないか。なんのために洗濯を持っていったというのだろうか。高々数百mの距離を往復しただけじゃないか。これは無限ループだ。今着ているやつも洗濯しようと外へ出るとその次着る服が汗まみれになる。もうこれは受け入れるしかないと思って外に出た。汗もプールの水のようだ。
 気を取り直して再出発。どうせなら明日の会場の下見も兼ねてその方角で探してみた。よくわからないがメニュー表が外に置いてある店があったので気になって覗いてみた。すると中から店員さんが出てきて営業してきた。クレカは300バーツ以上から使用可能ということを聞き、そこで食べることにした。ここもタイ料理のお店だ。皆水色のポロシャツを着ている点が気になった。思い返せば、街の外でも高確率で水色ポロシャツ人とすれ違っていた。これは国民の服なのだろうか。昼は米料理を食べたので今回は麺に挑戦してみたい。あとはスパイシーなカレーもだ。物価の安さと300以上という制約から、2品くらいは食べても良さそうなのでこれらを注文した。店員さんが辛いけど大丈夫かと聞いてきたので少し辛めでと頼んだ。念の為ラッシーもつけておいたが、これが地獄の始まりだった。
 料理はどちらも美味しそうだった。しかし、この「美味しそう」という直感は、深みのある赤系統の色から掘り起こされた感想だ。つまり、見た目の時点で辛そうだということである。僕自身は辛いものがそこまで苦手というわけではない。日本でもジャワカレーはよく食べるし、キムチも常備してある。ただ、激辛を愛しているかと言われると、頷いたら悲しくなりそうだと思っている。痛いのは好きではないからだ。あくまでも美味しく食べたいだけだ。しかし、現実は僕に試練を課してきた。スープカレー一口目から、ゴールの遠さに絶望したのだ。ここまで辛いとは思っていなかったので、正直にギブアップしようか、するならどのタイミングにするのか、そんなことばかり考えていた。部屋はエアコンが聞いて涼しいはずなのに、一人だけ顔の周りから大量の汗をかいている。お手拭きの紙を何枚使ったことだろうか。今ならドラゴンのように火を噴ける。ヨガファイヤーも使えるような気がした。本当にこの辛さであっているのだろうか。隣のテーブル席を見ると、アメリカ系の夫婦が美味しそうにカレーを食べていた。どうして彼らは平気なのか。そうか、ナンだ。ナンと一緒に食べれば助かったはずなのだ。麺を頼んだから炭水化物はもういいかと踏んでしまったのが間違いだったのである。今日はカレーと決めてカレー複数種類をナンと一緒に食べればよかったのだ。というより、辛くないようにと注文すればよかったのだ。後悔してももう遅い。出されたものは美味しくいただきたい。そんな愚かな自分を救ってくれたのはラッシーだった。カプサイシンには乳製品が効くというのは嘘ではないようだ。麺の方も、実際は旨辛いのだろうが、舌がひりひりしすぎるせいで「辛いもの」としか認識できていなかった。おそらく、ビーフンのような旨味があったことだろう。ラッシーで口の中を回復した直後のみそう感じ取ることができた。隣の夫婦はコカ・コーラも注文していた。ペットボトルと銅製のマグカップが提供されていたのだ。面白い提供のされ方でユニークだなと感心しつつも、自分の口内業火の鎮火に全力を注いだ。いける、いける、辛い!!ラッシー!!!こんなのを何回も繰り返し、ついにはすべて食べきることができた。火炎放射も習得できた。それでも総評としては美味しかったと思う。大変だったが満足感は高かった。しかし、お店を出した後も辛さの残党は僕の体に存在をアピールし続けていた。なんだか胃の中に違和感があったのだ。いくらなんでも刺激が強すぎることだろう。吐き気ではないが、スパイスには限度というものがあるんだなと自炊する時の参考にはなった。


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