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息抜き超短編小説②

『人魚は魚に入ります』

 暗い海の底で人魚が泣いていた。
 ここは光のささない人魚の楽園。悲しみとは無縁の場所だったが、この人魚にとってはそうではなかった。
「私、人間に恋をしたの」
 泣きながら人魚は物言わぬ珊瑚礁に話しかける。
「あの人は別の人魚と恋に落ちたの。同じ人魚なのに、どうして私じゃ駄目だったの?」
 なおも泣き続ける人魚に、別の人魚が近付いてきた。
「なにをしてるの?」
「見てわからない? 泣いてるのよ」
「ずいぶん陸の世界に感化されてるね。海の中で涙なんて見えないよ」
「デリカシーがないのね。私は今悲しみに暮れるので忙しいの。後にして」
 人魚は釣れない態度を取り続けた。
「そんな態度だから振られたんだよ。でもよかったね。あの人間は魚好きで有名だから」

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