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ロバから見た人間の愚かさが描かれる『EO』映画レビュー

こんにちは。今日は人から勧めてもらい「EO」を見てきましたのでレビューします。主人公はEOと名付けられたロバです。ロバってお芝居できるの、、、引き出してるとしたらどうやって、、EOのつぶらな瞳に胸が痛くなります。


真っ赤な背景に独特のタッチで描かれたロバの絵。ホラーなのかドキュメンタリーなのかコメディなのか、、このフライヤーだけだと中身が想像しにくいですね。
結論から言うとおそらくロードムービーに区分される劇映画ではあるんですが、もちろんただロバを映すほっこりとした映画ではありません。動物という極めて人間からすれば中立な立場から人間の愚かさを淡々と描いています。ときにはサーカスの演者、ときには家畜、ときには逃亡し放浪するただのロバ。EOの立場によって人間の表情も撫で方もどんどん変わる。


感想


正直「ロバ」という動物があまりに馴染みがなくてどれくらい人に危害を加えるのかとか、そもそもロバは食べられるのかとか労働に使われるのが主な動物なのかとか日常の中にロバがいるのがどこまで普通なのかとかが分からず戸惑った部分も多かったです。街を放浪するシーンなんかはいつ撃ち殺されるのかとヒヤヒヤしましたがそんなことはなく。

この映画の中で描かれるのは「ロバ」と「人間」だけではなく他の動物たちもたくさん登場します。
EOは前半サーカスから引き取られ、立派な馬たちと同じ馬舎で飼育されます。そこで隣で繋がれているのは真っ白な毛並みが美しい白馬でした。人間たちはその馬と共に写真を撮ったり、馬が土で汚れると丁寧に洗い流します。それをずっと眺めているEOはというと、体も小さく、毛並みはくすんだグレー。扱いはというと馬たちの餌を運ぶ荷物引です。この時のEOの表情がなんとも言えないんです。おそらくここまで人間の元で育てられたEOの目には、人間に大切に扱われているのが羨ましく映っているのかもしれないし、限りなく自由を奪われ冷たい水でゴシゴシ洗われる姿を憐れんでいるようにも見える。
そもそも動物たち同士で意思疎通が行われているかも不明ですが、人間が他の国の人を見るようになんとなくその時の感情は共有し合っているように感じました。



全編を通してEOはサーカスで飼われていたときに自分に愛情を注いでくれた演者の女性に想いを寄せ、彼女に会うためにいろんな場所を抜け出し放浪します。EOにとって一番の幸せは彼女と共にいることなのは明白なのですが、それはEO以外の家畜たち何を一番望んでいるのか。

小学生の時、授業参観で「動物園にいる動物たちは幸せか」という議題で討論会をしたのをすごく覚えてて、私は当時ぜっっっったいに野生で自由に暮らすことが動物にとっての幸せだと主張していたのですが、最後誰かのお母さんが意見を求められた際に、「人間が地球にいる以上動物たちに自由はない、自然は破壊されて食べ物を得るのが難し苦なっているし、人間がいるところに近づけば命はない。自然を知らないまま人の愛情を受けて食べ物に困らず生きる方が幸せだ」みたいなことを言ってて衝撃を受けたことを覚えています。EOを見ていると「人間に育てられた」という時点で本来のロバとしての自由を望めることができるのかさえのか分からないし、人間の都合でコロコロ環境を変えられるその様子は「不自由」そのものでした。この映画を通して切り込んでいる問題はたくさんあると思いますが、私はどうしても達観した見方はできなくて、EOの気持ちに寄り添う見方をしてしまいました。


ただ、内容もそうなんですが、映像作品としても非常にパンチが効いているというか。EOの不安を煽るかのような不穏な音楽がとめどなく流れ続け、突然登場する動物型ロボットのカメラや、EOの身体を沿うレーザー線、と思ったら壮大な美しい森や川、フィルターで真っ赤になった不気味な森のカット。前衛的というかあまり今まで見たことがない表現が多かったので一体誰が作っているんだと思ったら、なんと監督、85歳!!これは本当に驚きました。戦後のヨーロッパ映画界で最も評価の高い映画監督の一人であるイエジー・スコリモフスキという監督さんで、7年ぶりの新作としてポーランドとイタリアで撮影されたそう。監督自身が「私が唯一、涙を流した映画」と語る、ロベール・ブレッソンの『バルタザールどこへ行く』にインスパイアを受けて製作したとのことでそちらも見てみたいと思います。

これをみて人間の愚かさに改めて気付かされたものの果たして今の私はこの違和感ややるせなさをどこでどう消化すればいいのだろう、、
こうして文章を書くことで少しだけそれが達成できたのでちょっと嬉しい。(自己満)
ぜひ、劇場でご覧ください。

ご拝読ありがとうございました。


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