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ただの美しいロードムービーだと思ったら大間違い。『冬の旅』映画レビュー

”彼女は、路上を選んだ”

こんにちは。今日はアニエス・ヴァルダ監督の代表作「冬の旅」をレビューします。最近はジャンヌディエルマンに衝撃を受けてからというものずっとフランス映画縛りです。笑
全く前情報なしに見たのですが、おしゃれなポスターに綺麗な画で、なんとなく『ノマドランド』のような映画かな〜と思っていたんですが全然違いました。はい、全然違いました。すいませんでした。旅の結末を冒頭のシーンでいきなり明かされ、そこからそれはそれは美しいとは程遠い彼女の旅を回想として追っていきます。が、なんか惹きつけられるんです。ずーっと見てられるんです。
キャッチコピーにもなっている、「彼女は路上を選んだ」という文面は見終わった後に見ると本当にいろんな意味が見出され、考えた人天才、、となりました。


本作日本版メインビジュアル

あらすじ

冬の南フランス。片田舎の畑の側溝で、18歳の少女モナが凍死体となって発見された。ヒッチハイクをしながらあてのない孤独な旅を続けていたモナが命を落とすまでの数週間の道程を、彼女が路上で出会った人たちの証言を通してたどっていく。

と、いうもの。いきなり若い女の子が道端で死んでいるのを発見されるシーンから始まるんです。
なのでこの映画を見ている間中、必ず彼女は近いうちに道端で凍死するのがわかっていながら見ることになります。
それは自らが選んだ道なのか、そうならざるを得ないほど追い詰められた末路なのか、せめて前者であってくれとドキドキしつつ見ていました。


劇中写真
↑唯一このシーンだけは暖かい楽しい気持ちで観れました。二人とも可愛い。

感想


この映画の不思議なところは、モナの内面と観客にものすごい距離があること。彼女がこの旅を始めるまでや生い立ちなど(劇中に一人だけ家族構成を話すシーンがある)がほとんど語られません。それは、もちろん他の登場人物たちに対しても。
ただそこに存在するモナの旅と周りの人たちを眺めるだけでした。
とにかく伝わってくるのは、冬の寒さ。真冬の夜にテントをはり、一夜を過ごし、凍えそうになりながら旅を続けるも、結局はその寒さに屈し、命を落とします。彼女の何がここまでして旅をする動力になるのか。

彼女の感じる寒さと心情がとてもリンクしているように描かれており、途中の登場人物のセリフに、旅を続けていた友人が孤独に苛まれ命を落としたとモナに話すシーンがあります。「孤独=寒さ」というように(物理的に人といるときは室内にいるのもあるんだけど)、人に裏切られた後なんかは、寒さがより強調されているように感じました。そして終盤に向かうにつれどんどん彼女の震えは増していき、赤黒いワインは血や死を連想させる暗示であり、最悪の末路を辿る直前の彼女の恐怖や混乱を駆り立てているように見えました。

そしてこの映画で印象的に残るのは、やはり男性の描き方。最初から最後まで出てくる男たちが全員嫌なやつなんです。レイプという卑劣な関わり方でモナに近づく男もいれば、商売に利用しようする男がいたり、彼女に愛情があるように見せかけて、結局男友達が嫌がるからと彼女を追い出したり。そして彼女を発見し、引き上げるのも男。
彼女を助けようとする女性たちも登場しますが、その女性も男性に痛い目に遭わされたりとことごとく男性が敵に感じる描き方なんですよね。
彼女の心理に近い見せ方でもあると思うし、農場や貧困のなかで暮らす男たちが退屈紛れにモナに関わる様はその男たちの心の空虚さすらも感じます。貧困や秩序の崩壊から、やはり最後は力の強さで立場が決まってしまうのか、、、と思ってしまいました。ちょっと考えすぎかも。

ただ、深く傷つき涙を流すシーンもありますが、決して彼女が屈することはありません。18歳らしい戦い方をする時もありますが、18歳とは思えない達観した面持ちで男たちと対峙する瞬間もあります。

彼女は劇中で一貫して「楽していきたい」と話しています。彼女にとっての楽な生き方ってなんだろう、そもそも、楽に生きるって何を指しているんでしょうか。私から見れば寒空の下キャンプをすることは過酷以外の何ものでもないし、実際彼女はいろんな人に頼りながら旅を続けるから、人との継続的な関わりが立てるとはいえど限度はある。18歳のモナにとってここに至るまでに一番苦しかったことを想像すると、当時の時代背景や女性の在り方を想像させます。

果たしてモナは自ら路上を選び幸福な旅を送ったといえるのか。それともこの社会の犠牲者として路上を選ばざるを得なかった哀れな若者なのか。


ご拝読、ありがとうございました。


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