短編小説9

彼の願いは世界平和だった。
しかし、彼の力を持ってしても人の運命まで変えることは不可能であった。どんなひどい運命でも我々は干渉してはいけないというのが我々の決まりであった。
納得できなかった。
何のために我々が存在しているのか。心優しい彼は何もできない自分を呪った。

ある日、鏡を見つけた。なんでも真実を教えてくれる鏡らしい。
「現世で不幸せな人を教えてくれ」
彼は不幸せな人を聞くと、一人残らずその人の側に行き助けた。
ある者は億万長者になり、ある者は全ての病気が治り、ある者は一人ぼっちでなくなった。
彼は全ての不幸せな人を救ったつもりだった。
しかし、彼が鏡で彼らの様子を再び見た時、彼は驚愕した。一人として例外なく、不幸せになっていた。
ある億万長者は全てのお金を使い果たし、借金を負い、病気が全て治った者は謎の病で死に至り、ある者は災害で一人ぼっちになった。
運命は変えられないのだ。
「運命を変える方法はあるのか」
彼は鏡に聞いた。
「あなたが人類の一部にならば、あなたも人類の運命の一部となり、運命を変えられるでしょう」
彼は人間となり、鏡を持って現世に向かった。

現世で彼は不幸を背負った挙句、死んだらしい。


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