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『旅のコマんドー [アジア編]』たびコマさんインタビュー【後編】

ネパール、インド、タイ、タジキスタン、中国、チベット…。
寝て、起きて、食べて、また寝て。
旅をしながら生きていく。旅をしながら考える。
『旅のコマんドー』作者のたびコマさんに話を聞いたロングインタビュー。
ここからは、単行本未収録の完結編です!

聞き手:大和田洋平(LITTLE MAN BOOKS)

●持ち物がないから、それだけ身が軽いのかな

たびコマ:お金をため過ぎてしまうと、それはそれで面白くないのかなっていうのは思いますね。生活に緊張感がなくなるというか。お金がなさ過ぎるのも困るんですけど。

−−−−なさ過ぎても不自由ですよね。

たびコマ:難しいですよね。仏教でいうところの中道っていうのがあって、極端過ぎるのはバランスを崩すっていう。でもお金がなくても、心がぶれずにリラックスして生きてる人もいますけどね。西成にすごいおじさんがいて。もう70近いんですけど、生活費は弾き語りで稼いで、たまに入ってくる年金で航空チケット買って世界中をプラプラしてる。でもすごい穏やかなんですよね。

−−−−たびコマさんは、その域に?

たびコマ:いや、全然行ってないです。この間、「僕の口座に10万円貯まって、すごいんだよ。今までの人生でもなかなかないぐらいのお金が貯まった」とか言ってるようなおじさんで。それで生きていける自信みたいなものがあるっていうのが、すごいなと思って。多分もっと大変な思いをしてきたんでしょうね。その人70近いのに、ウーバーイーツやってるんですよ。なんか軽やかなんですよね。簡単にいろんなことを始めてしまう。持ち物がないから、それだけ身が軽いのかなという風に思いますね。

−−−−持つものがあると、それを維持しようとしますもんね。

たびコマ:そうなんですよ。新しいことを始めたいけど、なかなかできないっていう人は、何か捨てればいい。自分が持ってるものを極限まで絞ると、おのずとなにか変わってくるんですよ。ほとんどの人が、自分の持ってるものを捨てきらないんですよね。そのおじさんの場合は、持ってるものがそもそも少ないから、すごい自由なんですよ。常になんか捨ててる。それなのに、なぜか僕の本は買って持ってたりとか(笑)。

−−−−何を持つかを、自分で選んでるんですよね。持たされてない。会社員になると、会社から渡されるわけです。こうしなさい、ああしなさい、と。そうすると、荷物が多くなりますよね。

たびコマ:背負ってるものがね。

−−−−責任っていうと聞こえはいいんですけどね。たびコマさん責任はあるんですか?

たびコマ:極力、責任から逃げてます(笑)。でも、ウーバーで依頼が来たら頑張りますよ。自分で食べたりはしないです。そのくらいの責任感はありますよ。僕なんか、根がくそ真面目だから、責任負いすぎるとつぶれてしまうので。子どもの頃から、自分の限界以上まで頑張れっていう教育をされてきたんで、そういうのが染み込んでますよね。

−−−−その辺り、タイの人とか緩そうですけど。

たびコマ:いやもう、超緩いですよ。骨が溶けるぐらい緩いですね。店番でみんなスマホいじってるし、店のカウンターの裏で昼寝したりとか、飯食ったりとかね。ちょっと貧しいところはあるかもしれないけど、そっちのほうが幸せなんじゃないのって思いますよね。日本はすべてにおいて厳しすぎる気がしますね。

●西成とか居心地がいいんです

たびコマ:経済が発展すると、それに伴ってソーシャルプレッシャーが上がってきてるんじゃないのって思います。中国も緩かったのに、経済発展してきて、ルール的なものがだんだん厳しくなってきて。豊かになると、社会を厳しくしないと収拾がつかなくなるからなんですかね。

−−−−社会をコントロールすることで、豊かさを維持しようとするのかもしれないですね。

たびコマ:先進国と呼ばれる国々は、途上国に比べたらソーシャルプレッシャーがきついような気がします。だから、西成とか居心地がいいんですよね。みんなぐだぐだだし、ちゃんとしていない。日本の中でも、まだましかなと思う。あそこら辺、コントラストがすごい面白いんです。西成が下のほうにあって、天王寺が上のほうにあるんですが、上に行くに従ってきれいになる。下っていくと、どん底の汚い世界がある。

−−−−そういう均質化されてない所が残ってるっていうのは、いいですね。

たびコマ:いい所ですね。奇跡的な場所なんじゃないですかね、西成って。役所が恵まれない人に対して生活保護をしたりとか、優しい場所なのかなと思いますね。本当に厳しかったら、あそこら辺一掃して、きれいに掃除をして。残してあるっていうのは意図があるのか、優しいのか、なんでしょうね。

−−−−再開発っていうのは、コントロールが及んでいない所をいかにコントロールできるか、変えていくかっていうことだと思うんですが、西成はそれがそんなにやられてないということですか。

たびコマ:コントロールされていない面白さみたいなのが、西成とか、カトマンズとか、東南アジアの市場の中に感じるんですよね。にじみ出るエネルギーみたいな。

−−−−それがコントロールされちゃうと…

たびコマ:途端につまんなくなりますよね。危険な感じっていうか、汚い感じ。そういうのは人間は必要なんですよね。インドが面白いのって、自分を隠さないんですよ。インドとか行くと、汚いところも、きれいなところも、すべて晒してる感じを受けるんです。だましてくるやつは平気で人をだますけど、いい人はすごくいい人で。それがすごい人間的で面白いんですよ。路上で汚い子どもが寝てても隠さないし。飾りだすと面白くなくなってくるんですよね。中国なんか、経済発展してだんだん面白くなくなってきたのかもしれない。

−−−−経済が発展すると、それに合わせるように国がコントロールできる領域を増やそうとする。

たびコマ:監視カメラが街中に付いてる。あとは、インターネットでコントロールしようとしたりとか。無意識的に、そういう圧を感じるんです。そうなると、そうじゃないところに逃げたくなってくるんです。プレッシャーとかに敏感なほうなんで。

−−−−たびコマさんは、 変に慣れてしまわないんでしょうね。監視カメラがあることが当たり前になってしまえば、それは人の意識の上では存在しないのと同じなのですが、たびコマさんはそういう風にはなれない。

たびコマ:なんか知んないけど、微妙に感じるんです。神経質って言われれば、それまでなんですけど。

●どっちの道を選ぶかは、勘で選ぶしかないということになるんです

−−−−たびコマさんは、1つの場所に慣れるとつまらなくなって場所を変えるとお話しされていましたね。

たびコマ:そうですね。目的の場所にたどり着くまでに、その都度、臨機応変に対応していくみたいな感じです。タクシーに乗って、このドライバー怖いから別のドライバーにしようとか、そういうことですね。

−−−−それは、そのドライバーを見て判断する?

たびコマ:そうです。やばいなーと思ったら別のところ行ったりとか、自分が焦ってるなと思ったらチャイでも一杯飲んでから行こうかとか。

−−−−自分の意識がどうなっているかを見てということですか。

たびコマ:結局、自分の意識を観察するっていうことですよね。自分を感じようとする、自分を客観視するっていう。

−−−−自分に気がついているってことですね。

たびコマ:不思議な状態ですよね。何かに没頭するのもいいんですけど、ちょっと距離を置いて、その状態を確認しながらやるというのはありかなと思いますね。こっちの道は怖そうだから、こっちの道通ろうかな、とか。観察して、直感に従って決めていく。

−−−−そこには、こちらの道に行くとこうなるよ、という情報がないわけですもんね。

たびコマ:ないです。だから、どっちの道を選ぶかは、勘で選ぶしかないということになるんです。現代社会って、自分の勘や直感力みたいなものを働かせなくてもいいようにできてますよね。本当はもっと動物的な勘みたいなものが必要だと思うんだけど、そういうのを発揮せずとも生きていける。

−−−−日本だと、どのタクシーに乗ってもぼられることはないし、安全だろうっていうことですね。

たびコマ:そうですね。向こうだと選ばないといけないから、すごい観察しますよね。この人は信頼できるかなとか、この人めんどくさそうだなとか、このおじさんいい人だなとか。人間を見る目が肥えるっていうのがあるかもしれないですね。多少危険な方が、大きな嘘に騙されなくなるというか。

−−−−日本にいると、安全だっていうのは前提条件になってるじゃないですか

たびコマ:そうですね。だから、なんか危ういんですよね。もしその基盤が嘘のシステムだったらどうすんの? とか、その基盤があなたたちのためにできてなかったらどうすんの? っていう疑問がないんですよね。危険を感じられる直感力みたいなものがない。

−−−−インフラ部分はもう疑わないっていうことですね。

たびコマ:そうですね。常識って、無意識のうちにみんなが受け入れてしまうから怖いんですよ。僕がみんなに旅行を勧めるのは、自分の常識は海外では通用しないからなんです。旅に出ると、日本の常識って本当に正しいのか? っていうことを客観的に見られるようになるんですよ。人間って、体で体験しないとわからないんですよ。いくら話で聞いて、頭で理解したつもりになっても、実感として感じないとわからない。実感で感じることができると、今度は自分の行動とか物の考え方が変わってくるんです。だから、海外に行って揉まれて、いろんな経験をするのが大事だと思いますね。

●ずっと温室で育てられてる野菜のような感じですね

−−−−日本にいると、周囲とのコミュニケーションの方法がインフラとして出来上がっているので、自分の行動や考え方が、どんどん効率化されていくと思うんですよ。

たびコマ:そうすると、自分が変化する余地も少なくなりますよね。同じインフラの上で同じような人ばかりが集まってくると、同じような考え方しかできなくなってくる。そうすると、生命として弱くなっていくんじゃないでしょうか。

−−−−外部に晒されていないわけですね。

たびコマ:ずっと温室で育てられてる野菜のような感じですね。雑草のようにみんなでやりあって成長していくのが一番強いと思うんですけどね。養護学校に発達障害の子供たちがいて、そのうちの1人が全然病気をしないらしいんですよ。周りが風邪を引いても、その子だけは引かない。その子が何をやってるかっていうと、床を舐めるのが好きらしいんですよ。

−−−−本当の話なんですか?

たびコマ:本当にあった話ですよ。なんでその子がそれだけ強いかっていうと、常に菌を取り込んでるんですよね。免疫力が強くなっているんだと思うんです。野生動物も、どこ舐めても気にしないじゃないですか? 地面舐めても別にどうもないし。

−−−−常に晒されているわけですもんね。

たびコマ:そうなんですよ。逆に人間の社会って、あらゆるものから遠ざけられていて、すごく弱い。人間も本来動物であるはずなのに、ただ、汚いからやめなさいっていう。汚いっていうイメージで自分から遠ざかったりとか、遠ざけたりとかしてますよね。今回のコロナも、今、人間が汚いっていうことにしてるんですよ。人間に近づくだけでリスクがある。それは、床が汚いということと同じ考え方なんですよ。それにみんな気づかないといけないですよね。

−−−−それは、いじめをなくすために人との関わりを減らしましょうっていうことと同じ行動ですね。

たびコマ:過剰な防衛なんです。過剰な防衛は、いろいろな不都合を生み出すんです。人間が汚いってことにしてしまうと、精神病とか自殺が増えるんじゃないかなって。人間って、もともと集団で生活して関わって、握手したりとかハグしたりとか、そういう生き物なのに。

−−−−これが進んでいくと、免疫がないから、家から一歩出ただけで病気になるっていう考え方になるかもしれないですね。

たびコマ:嘘から出た真じゃないですけど、人と接触しただけで病気になるっていうことが現実になるかもしれない。今でも、日本人が東南アジア行って生水飲んだら腹下すとか、屋台飯食ったら腹下すとか。それと同じ状態ですよね。

−−−−東南アジアに行ってお腹を下しても、しばらくそこにいて環境に順応すれば大丈夫になるよっていう考え方と、そうじゃなくて東南アジアの衛生環境を日本と同じくらいよくしましょうっていう考え方、2つの選択肢があるじゃないですか。そして、日本と東南アジアを同じ衛生環境にしましょうっていう圧力の方が強い。

たびコマ:世界中で、文化とかいろいろな面でそれが行われてるんですよ。全部同じだと管理しやすいから。

−−−−ビジネスもしやすいですし。均質化ですね。

たびコマ:均質化が進むと、人間の滅びる速度が早まってるんじゃないのって思いますけどね。

●自分を楽しめばいいんじゃないの、っていうことです

たびコマ:みんなもうちょっと自分のことを好きになればいいのにって思いますけどね。僕も一時期、自分のことがいやでいやでたまんなかったんですけど、最近は自分のことは好きですね。

−−−−切り替わったタイミングがあったんですか?

たびコマ:旅を始めてからですかね。日本人って、会社のために一生懸命働く自分が好きだったりする人もいるんですよ。それも自己実現の1つではあるんだけど、もっと自分のために生きたらいいんじゃないのと思うわけです。

−−−−たびコマさんの言う「自分のため」というのは、例えばどういうことなんですか?

たびコマ:自分を楽しめばいいんじゃないの、っていうことです。楽することとはまた違うんです。自分がやりたいことに自分の時間を使うっていうことですかね。日本の方々って、尽くすことが幸せって思ってる人が多いんじゃないかと思ってるんですけど、もっと半分半分でいいんじゃないかねと思いますよね。仕事も半分くらいに減らして、もっと自分が楽しめることに時間やお金を使うっていうか。

−−−−尽くすことによってお金がもらえるっていうことがあると思うんですよ。たくさんの人が欲しがってる商品を作れば、お金になる。自分が欲しいかどうかよりも、それを欲しいと思っている人に尽くすことを優先する。人にために生きていると言えば聞こえはいいんですけど、実は誰も自分のために生きていないかもしれない。

たびコマ:人のために生きてると、楽なんですよ。言われたことをやっていればいいから。まあでも、もうちょいのんびり生きたらいいんじゃないのっていうことです。タイとか、すごい緩くていいんですよ。仕事中に寝てたりとか、携帯いじったりとか。日本人って、暇だと罪悪感感じるっていうところがすごいですよね。

−−−−そうですね、自分だけサボってていいんだろうかって。

たびコマ:そうそう、そうなんですよ。だらだらしてたら、日本の国民の皆様に申し訳ない的な、そういう壮大な罪悪感みたいなのがあったりして。

−−−−自分がサボってたらまずいんじゃないかっていうことを、すぐに他の人に対しても当てはめるじゃないですか。あいつはサボってるからよくないとか。

たびコマ:平等思想がすごいんです。サボっている人たちが許せないんですよ。日本人には、サボってる人を許すっていう心の訓練が必要になりますね。こんな人もいるんだ、じゃあ僕もちょっと休んでいいかなって。

−−−−我慢してるんですよね。我慢しているから、不平不満が出る。

たびコマ:僕もありますよ。ドミトリー泊まってて、自分はこんなに扉の開け閉め静かにしてるのに、あいつは無遠慮にバンバンとか、うるさいなって思う。ルール守ってる方は、損したような気分になるんですよね。

−−−−あいつは得をして、自分は損してるっていうことですね。そういう意味では、自由じゃないんでしょうね。自分の中に自由がない。

たびコマ:そう、心の中に檻を作っている。人間って、ルールみたいなものに条件付けられてるんですよね。自分の中で勝手に条件を作って、自分から檻の中に入って、その中で運動してるような感じです。

−−−−自分で作った檻の中に閉じ込められてる。いったんできあがったルールは、もう自明のものですからね、昔からあったかのようになる。

たびコマ:だから、人間の適応力って逆にすごいなって思いますよね。そして適応できなかった人が、心を病んでしまったりとかするんでしょうね。

−−−−昨日までの常識だったことが、次の日には常識じゃなくなるっていうことが、今後はどんどん出てくると思うんですよ。そうなってくると、新しいルールに適応できない人っていうのが出てきますよね。

たびコマ:出てきます。僕なんかも、まあまあ適応できない方なので。緩やかな変化ならそうでもないけど、今回はあまりにもインパクトがありすぎますね。だから、戦後70年はゆっくり進んでくれたってことですよね。平和で、いろいろ自由にさせてもらって、すごいありがたかったですよね。うちのおやじらなんかが、1番幸せだったんじゃないですかね。

(終わり)

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立体書影

『旅のコマんドー[アジア編]』たびコマ著
1,400円(+税)/176ページ
ISBN978-4-910023-02-1 C0026
https://www.amazon.co.jp/dp/491002302X

〇プロフィール
たびコマ
海外生活9年間で、もはや旅が人生。
なるべくお金を節約し世界の隙間をふらふら生きる人。
読み手を選ぶ狂気の旅日記本「タミオー日記」の作者でもある。
空気の薄い場所が好き。

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LITTLE MAN BOOKSは、ふつうの人のために本を作って販売する、小さな出版プロジェクトです。 http://www.littlemanbooks.net