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『旅のコマんドー [アジア編]』たびコマさんインタビュー【中編】

ネパール、インド、タイ、タジキスタン、中国、チベット…。
寝て、起きて、食べて、また寝て。
旅をしながら生きていく。旅をしながら考える。
『旅のコマんドー』作者のたびコマさんに話を聞いた、
ロングインタビュー中編です!

聞き手:大和田洋平(LITTLE MAN BOOKS)

●お金になるべく頼らない生活。それをやってると思うんですよね

たびコマ:これまで、なるべく働かないように生きてきたんですよ。極力、自分の時間を自分が好きにコントロールできる時間を多く持ちたいっていう風に生きてきた。

−−−−働いてる時間っていうのは、雇用されてる時間になるわけですね?

たびコマ:働いてる時間は拘束されてる時間なので。どうすればお金を削れるかっていう風に生きてきました。

−−−−お金を削った分だけ、自由な時間が増えてくるというわけですか。

たびコマ:そうですね。お金になるべく頼らない生活をやってると思うんです。僕も今までの人生の中で、会社に入って2、3年は働いたことあるんですけど。会社で働いてるともう、帰ったら寝るだけみたいな。自分の時間が回復の時間になってしまっているという。日本人って真面目だから、会社に入ると頑張ってしまうんですよ。自分のキャパシティを越えてまで頑張ってしまう。それが普通とされてるじゃないですか。

−−−−自分が何者であるかっていうのを認識する方法が、その仕事っていうことになってくると思うんですよ。この仕事をしている自分が自分である。でも、仕事ってそんなに恒久的なものでもないし、所詮は雇われてる。自分と会社はイコールじゃない。

たびコマ:僕なんか、いいとこ取りしてるんですよね。働かずに、現代社会のインフラの上に乗って生活してるわけじゃないですか。だからラクしてるんですよね。

−−−−インフラから離れて未開社会に暮らしてるわけじゃないし、インドに行ってもインドの社会に属してるわけではない。

たびコマ:非常に不思議な立ち位置にいるんですよね。存在があるような、ないような、そういう感じです。

−−−− 国籍は日本なので日本人であるわけなんですけど、タイに行けばタイと日本の、インドに行けばインドと日本の境界線に沿って歩いてる。

たびコマ:日本の端っこ。

−−−− 日本人の端っこ(笑)。

たびコマ:それはいい言葉ですね。日本人の端。日本の通貨価値で給与もらって、そういう安い所で生活するっていうのも、ある意味いいとこ取りですよね。ただ、あまり働かない分、それだけ出費は抑えている。出費を抑えるっていうのも、技術だと思うんですけど。

−−−−インフラの利用も最小限にとどめてる。

たびコマ:そうです。そんなに頑張らなくても、そこそこ生活できるんですよ。で、空いた時間を自分の好きなことに使う。そのほうが、僕は自分の中で価値が高いと思います。でも、会社に属して会社のほうが価値が高いと思っている人がいても、それは否定しません。

−−−−会社というものに対する信仰があると思うんですよ。その中で、どれだけ多くの価値をつくれるか、手に入れられるかっていう、1つの宗教みたいなものだと思うんですけど。

たびコマ:昔、テレビを見終わった後に、すごい空虚感を感じてたんですよ。罪悪感というか。時間を無駄に過ごしてしまった感みたいなのがあって。仕事にもそれと似たような感覚を感じるんですよ。例えば会社に行って仕事が終わった後の、時間を失ってしまったという感覚。お金も必要なんですけど、お金が通帳に入って増えていく充実感よりは、自分の時間を自分でコントロールして生きたっていう充実感のほうが高いと思ってるんで。

−−−− テレビも仕事も、自分でコントロールしていない時間ということですね。

たびコマ:多分そうなんですね。だから、海外で生活するのが好きだっていうのも、自分がコントロールできる時間が長いから。日本だと、自分で時間をコントロールできない。周りに合わせて生きるっていうのが一番になってて、そこにすごく空虚な感じを受ける。

−−−−自分の時間を奪われている。人に合わせなきゃいけない、テレビに合わせなきゃいけない。

たびコマ:そうですね。充実感がないんですね。やった感がない。生きた感がない。

●自分のいる場所が心のある場所なのかもしれない

−−−−日本が面白くないなら、どこか別の気に入る国、タイやインドに国籍を移しちゃおうっていう風にはならないんですか?

たびコマ:ならないですね。

−−−−国籍を変えると、インドならインド、中国なら中国に属することになるわけですよね。

たびコマ:それは面倒くさいですよね。今のが、一番居心地がいい気がしますね。

−−−−故郷から離れてある、自分のよりどころのなさみたいなものはないんですか?

たびコマ:そこら辺はね、うちらはほぼないですね。コロナのときも、海外にいればよかったって2人で話してるぐらいだから。

−−−−その違いは何でしょうか?

たびコマ:ベースが日本にないからですかね。

−−−−日本に家がないだけじゃなくて、心もないんでしょうか。

たびコマ:ないかもしれないですね。

−−−−じゃあ、どこにあるんですか?

たびコマ:どこなんでしょうね(笑)。むしろ、日本よりチェンマイのほうが好きだし。

−−−−でも、チェンマイに心があるわけでもないですよね。

たびコマ:ないですね。国籍は日本っていうことになってますけど、心はどこに行ってるんですかね。

−−−−さまよってるんですかね、いろんな場所を。

たびコマ:かもしれないですね。今は実家があるんでいいんですけど、親が死んだときとか拠点となる場所がないと困るんじゃないのって話はしてます。でも実家が心のよりどころかっていうと、そうでもないですね。荷物を段ボール箱、何箱か置かせてもらってる場所っていう感じで。

−−−−旅先での宿はどうですか? 例えばチェンマイに行って、宿に着きます。そのチェンマイの中での自分の心のよりどころが、その宿になったりはしないんですか?

たびコマ:します。そこがベース的な感じですよね。移動生活続けてると、環境に順応するスピードがすごく速くなるんですよ。2、3日いると、そこがもうベースみたいな。

−−−−自分が今いる場所がベースってことですか?

たびコマ:そうかもしれないですね。すぐ落ち着いてしまうんですよ。例えば空港の中でも、何泊かしたらここ居心地がいいなってなるんですよね。だから、心のよりどころが心の安心だとすると、いろんな所が安心な場所になる。

−−−−自分のいる所が安心。それは面白いですね。自分と心が離れていないというか。

たびコマ:確かにそうですね。だから日本にずっといる人は、短期旅行とかで海外に出ると、心を日本に置いたまま、自分の体だけ海外みたいな人も多いと思うんですよ。うちらはどっちかっていうと、自分のいる場所が心のある場所なのかもしれないですね。面白い経験があって、例えばインドのデリーに5年ぶりに行ったとすると、昔の記憶がぶわっとよみがえってくるんです。あ、ここ行ったとか。意識がぶわっと広がってくるというか。

−−−−デリーの記憶がってことですか?

たびコマ:そうです。それって何でかなと思ったんですよ。ちょっとスピリチュアルな話になるんですけど、自分の心をそこに置いてるんじゃないかなと思って。だから旅行で移動するたびに、そこに自分の心をちょっとずつ置いていって、という風な感覚がありましたね。

−−−−それじゃあ、体が戻ってくると…

たびコマ:そこの心を自分が拾って、記憶をよみがえらすみたいな。自分が移動した場所に、ちょっとずつ心を残していってるんですよね。

−−−−そもそも心を持っていっていないと、置いてこれないですよね。たびコマさんは心と一緒に移動してるから置いていけるわけですね。

たびコマ:でも、みんなも多かれ少なかれ、行った所に心を置いていってると思いますよ。置いていく量が違うかもしれないですけど。日本にたくさん置いてきた人は、海外でちょろっとしか残さないかもしれない。「物」を捨てるっていうのも、多分そうなんです。自分の心が「物」にあるから。物を捨てていくと、新しいことが生まれてくる。

−−−−新しい場所に置く心の量が増えてくる?

たびコマ:そうそう。

−−−−持っている総量は同じってことですよね?

たびコマ:同じだと思いますよ、人間ってキャパシティがあるから。個人差はあるかもしれないですけど。お金もそうだと思うんです。お金もたくさん持てば持つほど、そっちのほうに心を奪われて身動きが取れなくなってくる。

−−−−適度に排出していかないと、巡りが悪くなるっていうことかもしれないですね。

たびコマ:そうかもしれないですね。なかなか、いい話ができてますね。


(インタビュー後編へ続く↓)
https://note.com/littlemanbooks/n/n07e1f2c6e9df

立体書影

『旅のコマんドー[アジア編]』たびコマ著
1,400円(+税)/176ページ
ISBN978-4-910023-02-1 C0026
https://www.amazon.co.jp/dp/491002302X

〇プロフィール
たびコマ
海外生活9年間で、もはや旅が人生。
なるべくお金を節約し世界の隙間をふらふら生きる人。
読み手を選ぶ狂気の旅日記本「タミオー日記」の作者でもある。
空気の薄い場所が好き。

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LITTLE MAN BOOKSは、ふつうの人のために本を作って販売する、小さな出版プロジェクトです。 http://www.littlemanbooks.net