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クウェートの女の子

その昔、私がロンドンで英語を習っていた頃、ほぼほぼクラスの雰囲気は良く、遅刻する人もいなかったし、スマホを覗きながらの人もいなかった。クラスを離れての友達もできたし、楽しかった思い出である。

夫は週2で近所の語学学校で英語を教えている。時々、夫から聞く生徒さんの話に驚くことがある。平気で遅刻してくる人、スマホを離さない人、ヘッドフォンで音楽聴いている人、頬杖ついて死んだ魚の目で座っているだけの人。決まって自分は英語ができると思い込んでいるモチベーションの低い人たちだ。(そんな人、私のクラスにはいなかった!)他の先生は何も言わないらしいが、夫は絶対に許さないので、そういう人たちからは嫌われている。

当たり前だけど、そうでない人たちもいる。夫はクラスで人生観や哲学や音楽や絵画といった英語以外のことを語ることも多い。最初から興味ありげに聞いている人たち、全く興味のない人たち、そして聞くうちに引き込まれる人たちがいる。私は、夫が語る人生を彩るだろう話に気づいたひとたちの話を聞くのが好きだ。

最近もこんな女の子の話を聞いた。小柄でかわいらしい一見恥ずかしがり屋に見えるけど、口を覆うこともなく大あくびをする少し失礼なクウェート出身の18歳の女の子。その日はラマダンやらホリディが重なったりして、クラスには彼女一人。早く帰りたい夫は1時間だけ彼女と雑談して、2時間目はキャンセルということにした。特に楽しいこともなく何をしたらいいかよくわからない、と日頃からボンヤリ生きているらしい彼女。夫が「たまには何かしんどいことしてみたら?受け身の生活をしていてばかりでは、そりゃつまらないだろう。」と提案ほどのものではないけど、言ってみたらしい。すると次の日、「昨日しんどいことしてみたよ!」と彼女が言うではありませんか!「あれからロンドンのナショナルギャラリーに行ってみたの!とってもオモシロかったよ!」だって!以前、夫が解説したアルノルフィーニ夫妻をじっくりみて、どうしてみんながゴッホのサンフラワーに惹かれるのかを理解して、この男の人誰だろう?と不思議に思い、たくさんのヌードを見た後、目を洗わなきゃいけなかったわ!(もちろん彼女はイスラム教徒)と、楽しそうに話していたそう。でかした!そういうこと!ほら、扉が開いたでしょ!

夫が「キノコ狩り楽しいよ。」と言った時、「え?キノコって狩れるの?キノコって、スーパーに売ってるやつ1種類しかないんじゃないの?」と驚いていた彼女。夫が説明すると、とても興味深く聞いていたらしい。

死んだ魚の目はもう輝かないかもしれないけど、死にそうな魚の目は何かのきっかけでまた輝き出すかもしれない。そのきっかけを与える人に巡り合った時、それに気づくことができる人であるということが大切なことだ。

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