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アップデイトダンスNo.89「踊るうた2」勅使川原三郎:歌謡曲が響く崇高な極地

KARAS APPARATUS(カラス アパラタス)の自身の舞台で定期的に「アップデイトダンス」を上演するダンサー・振付家の勅使川原三郎さん。

ダンサーの佐東利穂子さん(振付も行う)と作品をつくっていて、「踊るうた2」も勅使川原さんと佐東さんが出演となっていたが、上演日によって、どちらかのソロだったり、デュオだったりしたらしい。

以前「踊るうた」の上演があったらしく、今回はその第2弾。同じ歌も使っているが、踊りは違っていたりするとのこと。

私が見たのは勅使川原さんのソロだった。次々と歌が流れ、踊りっぱなし。

確か2曲目の、戸川純「蛹化の女(むしのおんな)」でのダンスに涙が流れた。ほぼ場所は移動せずにゆっくりと体を動かすのだが、手の動きを見ているだけで神々しいというか、崇高としか言いようがない。見ていると、浄化されるよう。

「蛹化の女」は、曲はパッヘルベルの「カノン」で、戸川純が歌詞を書き、歌っている。1984年リリースのアルバム「玉姫様」に収録され、2012年の映画『ヘルタースケルター』の挿入歌に使用された。同年、その映画の監督で写真家の蜷川実花が選曲して、2012年に発売された戸川純のベストアルバム「蛹化の女~蜷川実花セレクション」に収録されたという。

歌詞がすごい。ぞっとするくらいすごい。声もすごい。尋常でない生き方をしてきた人なのだろうか、と思った。戸川純も「蛹化の女」も知らなかったので、公演後に検索して知ったのだが、人生ではなかなか大変な時期もあった人らしい。1961年生まれで、現在60歳。

子どもの頃から「カノン」は好きでよく涙腺を刺激されていたのだが、歌詞と踊りが相まって、どこに連れていかれるのだろうと怖くなるくらいすごかった。

ケイト・ブッシュや中島みゆきも少し想起しつつ、「蛹化の女」の歌詞と歌い方は本当にこの世のものとは思えない、想像を絶する、この世ではないところから出てきたようだ。

勅使川原さんの踊りが歌の世界観と共鳴し、ああ、素晴らしかった。自分の語彙不足が悲しいが、多くの人に見てほしいし、いつかまた見たい。死ぬときにまぶたの裏に浮かぶのではないかと思えるほどずぶずぶと自分の中に染み渡ってきたダンスだった。

その後も、痙攣するような動きや素早い動き、大きく移動する踊りもあり、またゆっくりな踊りも見せ・・・と、永遠に続いてほしい1時間だった。神がかっていた・・・。

「顔面ダンス」のような、立ったまま体はあまり動かさずに表情を動かして引き付ける場面もあった。

後半に、「これはさっきの『むしのおんな』の歌詞の歌と同じ歌手では?!」と思った歌が登場した。聞き取った歌詞から調べてみたら、やはり同じ戸川純の「諦念プシガンガ」という歌だった。これもものすごい歌詞だ・・・。

勅使川原さんはスキンヘッドの高齢男性なのだが、踊っていると、少年に見えたり、女性に見えたりする。何にでもなり、移り変わる身体を持っている。ダンスすることで、時代も超え、さまざまな存在になる。

終演後は恒例の立ったままの短いポストトーク。佐東さんも舞台に登場してお話しした。

勅使川原さんが、歌謡曲と言われる歌もすべてをかけないと歌えないだろうと思わせる素晴らしい歌があり、尊敬できるものがあるのはすごいことで、自分の駄目なところと向き合って、そこから始める、というようなことをおっしゃっていたと思う。そこでまた泣けた。

あんなに素晴らしい踊りをする人に、駄目なところなんてあるのか?!と思うが、そういうふうに謙虚に思うから、踊り続けられるのかな。

いつものように観客への感謝も述べてくださって、こちらこそこんなにいいものを見せてもらったのに、恐縮する。

作品情報

アップデイトダンスNo.89「踊るうた2」

勅使川原三郎 佐東利穂子

【公演日程】
12月 23日(木) 19:30
12月 24日(金) 19:30
12月 25日(土) 16:00
12月 26日(日) 16:00
*全4回公演
*開演30分前より受付開始、客席開場は10分前。全席自由

【劇場】カラス・アパラタス B2ホール

【料金】一般 予約 3500円/当日 4000円 学生/予約・当日 2500円


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