【小説】 ウィザード #5
「この勝負、貴方が勝ったら、私は専属看護官を辞退します。そして、私が勝ったら、私を専属看護官にしてください」
「用意、始め」
始まった途端、レオは様子見とばかりに、1つボールを投げた。そのボールは不規則な軌道を描いてアメティスタに向かってくる。間一髪で避けると、ボールはぼとりと地面に落ちた。
すると、ボールは突然形をなくし、氷がとけたように水になって消えた。
「なるほど、貴方の先天魔法は『水を操る魔法』ですか」
「そうだぜ?とりあえず様子見ってとこだ」
アメティスタが避けたところに、レオは容赦なくボールを投げる。
「いいのかァ?このままじゃ負けちまうぜ?」
「大丈夫です」
レオの言葉に、アメティスタは興味なさげに答える。
その間も、レオは、水で出来たボールと本物のボールを混ぜながらアメティスタを攻撃する。
1つ、アメティスタにあたった。
アメティスタは、いっこうにボールを投げるそぶりを見せない。
「おいおい、怖じ気づいたか?」
また1つ、ボールがあたった。
「後がないぜ?天才さんよォ」
「大丈夫です。もう私の勝利が決まりました」
「は?」
突然、レオの動きが止まる。持っていたボールは、レオの手からポトリと落ちた。
「おいおい、これはどういうことだ?」
何もわからない、というように、レオは目線をアメティスタにやった。
「これは、私の先天魔法です。私が照準をあわせてから、相手と三度言葉を交わすと、相手を一分間その場に拘束することが出来ます」
アメティスタは話し続けながら、動けなくなったレオに三度ボールを当てた。
「勝者、エキナセア」
校長の言葉が運動場に響く。
「何か、異論はございますか?」
レオは大きくため息をついた。
「ねぇよ。やけに自信があるみてぇだったのはこういうことかよ」
もう一度レオがため息をつくと、拘束が解け、レオは首を回した。
「始めにした私との約束、守っていただけますね?」
レオはぐしゃぐしゃと自分の髪をかき混ぜると、ぽつりと言った。
「テメーはなんでそんなに一生懸命なんだよ」