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words

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両手からこぼれ落ちた言葉
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#詩

めんどくさい思考だ、と自分でも思う。

するすると天から縄が降りてくる。それはまるで芥川の蜘蛛の糸のようだと思う。誰も救われはしない。
立ち上がって帰ろうとする自分の目の前に、その人はいた。タイミングが悪かったという顔をしている。知っている人ではない。
お忙しいところありがとうございました。
打ち合わせでも終えるように立ち上がり、会釈をしてその場を去る。
彼らは並んで座る。
自分が階段を上がり、降りてきた縄に手をかけ、首に巻く様子をピク

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聞えよがし

両立はむずかしい
触れてほしくないこと
側にいてほしいこと
構わないでほしいこと
ひとりにしないでほしいこと

無駄と言われれば消えなくてはいけない
ここにいなくても成立しないといけない

君の言うことは難しい
いつも難しい
意味を持っているようでなんの意味もない
言葉は耳の手前でするりと落ちていく

誰かが来たね
もうひとりじゃないね
僕はもう出ていってもいいね
君は誰かに囲まれているほうが似合

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葬列

その日見た風景は葬式のようだった。色濃く縁取られた看板に並ぶ人、最期を見届けようとするなにか。
列は長くなり、短くなり、これを途切れることのない、というのだろう。

人々は互いを知らぬまま、互いの記憶を埋めるように、それぞれの言葉を地面に落とす。
思い出はすぐに色褪せて、そう遠くない先には唇の端も記憶から消える。
彼らはなにもなかったような顔をして、次の場所で同じことを繰り返す。
共通の言葉を持た

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hopelessness

目を開けると明かりもなく真っ暗な部屋の中
正しい間隔で上下する君の胸元をかろうじて見つける
近づくには暑い(そして鬱陶しいのは君が嫌いだ)
5センチ寄って君のほうを向く
汗の匂いは下ろしたばかりの柑橘系の石鹸が混じる
無精髭を気にしてさわる
ざらりとした感触が指先に伝わる
嫌がるのを承知でさわる
柔らかくて硬い感触が指先に伝わる

眠れなくて寝返りをうつ真っ暗な部屋の中
君の手は左胸あたりだらりダ

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卒業

卒業式のあとのぐだぐだした感じが嫌いで
別に無理してここにいることもないから早く帰ろうと思った
写真を撮るからもうちょっといてと言われ
暇を持てあまして玄関の隅に座る

連絡先を教えあうのに忙しい
ボタンとかネクタイとかもらってどうするんだろうって思うけど
一生の思い出なんて 三年もすればどうでもよくなる

幸か不幸かボタンもネクタイもまして連絡先を聞かれることも
なにもないので気楽なものだと思う

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帰郷(あるいは黒塗りにされたドローンのための)

首相官邸にドローンが落ちた日、繁華街では若者が騒ぎ、保育園にはお迎えの親が帰宅を急ぎ、僕は彼女を思って、永遠に未読のままのメッセージを送る。
ラジオからは大江千里が流れ、DJは似てると一言で済ませた。
10年どころでは済まされないくらいに時は過ぎ、僕は長い余生を彷徨い、彼女に打ち明けることもなく離れてしまった。
同窓会名簿は転居先不明の印がついているだろう。誰もどうなったか気にも留めないだろうこと

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a normal life

野球もサッカーも好きじゃない
走るのは得意じゃない
何かをすれば誰かの邪魔になり
話せば言葉づかいで眉をひそめられ
仕草も同じだ
誰も同じ人はいない

本を開いて音を遮断する
音楽で視界を遮断する
夢は夢だ
展望ではなく願望

寝癖は直す
口は開かない
息はひそめる
気配は消す
生きていることの罪悪感
なりたいものは普通の人

大半の女子がする
大半の男子はしない
僕のすることは
気持

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