めんどくさい思考だ、と自分でも思う。

するすると天から縄が降りてくる。それはまるで芥川の蜘蛛の糸のようだと思う。誰も救われはしない。
立ち上がって帰ろうとする自分の目の前に、その人はいた。タイミングが悪かったという顔をしている。知っている人ではない。
お忙しいところありがとうございました。
打ち合わせでも終えるように立ち上がり、会釈をしてその場を去る。
彼らは並んで座る。
自分が階段を上がり、降りてきた縄に手をかけ、首に巻く様子をピクリともせずに見ている。
いてもいなくてもおなじだから
幼い頃から言われていた言葉が頭をかすめる。いてもいなくても同じだから。

すい、と足で蹴ると体が宙を舞い、ギイ、という音とともにぶら下がる。

彼らは自分を止めることすらしないでいる。いてもいなくても同じだから。

というところを想像して一人で可笑しくなる。もうなにも考えることも言うこともする必要はないのだ。
知らない人はその瞬間から君の新しい誰かとなって認識される。もう二度と会うことはない。
意識の中では彼らの目の前で命を絶った。自分は残骸となり、掃いて捨てられるのだろう。
めんどくさい思考だ、と自分でも思う。そうすることでかろうじて自分を保っていたのかもしれない。
なにもない自分

というものに

なりたかった

感情を表に出すような人だったらよかったのに、と思うことはある。
細かい泡になって発酵して見えるくらいの大きさになって体の表面に現れたらさぞ気味が悪いだろう。
それくらいのなにかになって腹の底から声を出し、取り乱すほどの自分になれればよかったのだろう。
なにか言わなくてはと思い、口を開けて声を出そうとするがなにも思いつかず、餌を待つ金魚のものまねにしかならない。
息を吸う。息を吐く。声を出す。言葉にならない。
ダメージは大きくはない。気持ちが悪い。存在しないほうがよかった。いつもそうだ。いつもそうだ。

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