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バレンタイン  戻らない夜

恋人同士のお約束、バレンタインは特別な日、愛を確かめる日。

遠距離恋愛のわたし達も離れているからこそ、確かめなくちゃ、愛を。私の気持ちを伝えなくちゃ。愛は溢れているよって。会いたいよって。

2月、あなたは遠く離れた釧路にいたね。慣れない極寒の土地で、社会人1年生をがんばっているあなたに、がんばっての思いを込めて、チョコを送るよ。会いたいよ。遠すぎるよ、会いたいよ。雪は深いですか。寒いですか。

チョコを受け取ったあなたの笑顔を思い浮かべて、カードを書いた。

「私のLOVEは120%💛💛」

確かめなくちゃ、愛を。わたし自身の心の中を……。会いたいよ。会いたい時にいない人。

赤いハートのボックスに入ったチョコにカードを添えて遠い街のあなたに送る。明日、あなたは喜んでくれる、とびきりの笑顔で。


偶然、先輩と会ったのは駅前の大学行きののバス停だった。

「久しぶりに大学に用事があって」

先輩は変わらない低く温かな口調で、「元気か」と聞いてくれた。

あなたの親友は、あなたと離れている私を心配してくれていた。

「なんとか、元気です」「そっか。あいつも元気そうだな」「はい」

夜の新幹線で大阪に帰るから、夕飯を一緒にどう?と誘われて、嬉しかった。大好きな先輩だったし、あなたの親友だったから。

3人で海に遊びに行ったこと、あなたのアパートで一緒に私が作った手料理を食べた時「うまいだろ」とあなたが先輩に自慢していたこと、そんな思い出がいっぱいあったから。

だから、義理チョコのはずだった。去年と同じように。

去年と違ったのは私の寂しさだけ。あなたが隣にいない寂しさだけ。


次の日、「チョコ、ありがとー」というあなたの明るい声を聞いて、私は言った。「食べないで。捨てて」

確かめたかった、私の愛、寂しくて揺れていた、あなたへの愛。そして、先輩の優しさに甘えてしまった弱虫の私がいた。

私はあなたを突き放した。親友も失くすという残酷な方法で。

あなたは最果ての地から何度も電話をくれたね。でも、私は自分を許せなかった。そして、私たちは終わった。


バレンタインが来ると思い出す、若い日の私のあやまち。失くしたものは大きかったよ。


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