野菜会議(2)
若さとはエネルギーであり、栄養だ。鮮度だけで若さを判断しがちだが、身体中に行き渡る活力こそが、若さだ。つまり80歳になっても「若さ」は放出できるし、10代でも無気力な人からは「若さ」を感じられない。年齢とは如何に愚かな指標だということに気が付くだろう。ちなみに、納豆パフュームは発酵食品でもあり、熟成を経ているので発言ほど若くない。人間でいったら30代後半だ。
そう言って颯爽と現れたのは、この冷蔵庫の10%は占める自家製味噌の「味噌BOSS」だ。いきなり「味噌BOSS」と言われても、一体どんなキャラクターなのか。他のどんなキャラクターより想像しにくく、読者を置き去りにしていることは重々承知だ。「野菜ならわかるけど、ギリ、米もわかるけど、味噌ってさ。。」という呟きはごもっともだ。そんな方々は、味噌を擬人化するのを諦めてもらいたい。その代わり、こう想像してほしい。
味噌が詰まったタッパーの角に足を組んでにっこり微笑む小人の
「竹野内豊」
味噌を竹野内豊にするのは無理があろう。そんな無茶なことは要求していない。味噌の上に乗っているだけだ。誰が何と言おうと、私の中で2022の自家製味噌は「竹野内豊」なのだ。この味噌で味噌汁を作ると、荒く潰した大豆がお椀の底に沈むが、この感じが竹野内豊のセクシーな顎髭を連想させる。色も煉瓦色なところが大人の男にしか醸し出せない気がする。塩分が高いはずなのに、むしろまろやかでカカオ率98%のチョコレートを食べているような官能だ。なのに、しょうもないギャグを言ったり、少年ぽさも醸し出すので、どんな野菜達からも人気。そこが味噌っぽい。
えっ? わからない? 本気で言ってるの? でしたらもう、わからなくて結構です!(逆ギレ、プンプン)。とにかく、竹野内豊がこの冷蔵庫にいるのよ。
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本題に戻ろう。竹野内豊が、いや味噌BOSSが言った「発酵研究所」とは何か。
この研究所は決して一般的な冷蔵庫にはない。この冷蔵庫の所有者であるサキという名の女は元々のオタク気質も相まって、美容に並ならぬ関心を持っている。よく「本棚を見ればその人の性格がわかる」などというが、冷蔵庫も然り。食生活は「その為人(ひととなり)」を如実に表す。
この「発酵研究所」は冷蔵庫の上から1段目、2段目の「後ろ」をほぼ占拠している。タッパーに詰められた自家製味噌(2022は玄米麹)のほか、米麹、納豆麹、醤油麹、糠漬け、発酵小豆、椎茸の成分が入った追加で足す糠漬けの元、納豆ーーー。そういった、発酵食品がこのフロアを占めている。
研究所のテーマは「食と美容」。食品のどのような成分、栄養が美肌に影響が出るのか、食べるタイミングはいつで、量は何が最適か、何と何を掛け合わせたら効果的か、といったことを日夜研究している。表向きには「健康第一」を看板に掲げているが、真の姿は「秘密美容研究所」と理解していただくのがいい。
彼女達は「ギャップ」という素晴らしい魅力を持つ。何かと何かを区別、判別するためには違いがそこに必要だ。地味で真面目そうな女性が、結えた髪をサラリとおろし、メガネを外した瞬間にドキっとするのは、当然のことだ。想定外でかつ不快な領域ではない「ギャップ」は魅力でしかない。いや、違うな。不快な領域だと思ってたところさえも、オセロの黒が白になるように、魅了に変わるのかもしれない。「スカトロ」といったジャンルもハマればハマる、みたいなところか。私には残念ながらその領域には死ぬまで達せないだろう。ちなみに、最愛の男に「排泄でさえも愛おしく思うのって、あれなんだっけ? カストロ?」「それはキューバの革命家だろ、激しいな」と真顔で突っ込まれたのは、記憶に新しい。
兎にも角にも「納豆パフューム」の3人はあんな軽いノリで登場したものの、普段は黒縁メガネが似合う理系女子なのだ。賢いけどユーモアのセンスもあり、そして何よりエロい。ギャップこそが異性を惑わす最大の魅力ということを、体感的に理解してる。さすが「美容の研究員」だ。今日も多くの女性が納豆娘の前に長蛇の相談の列を作っている。納豆には頭が上がらない。
唖然としてるのは、五分つき米だ。彼は一体何のために今日、会議をしてるのかもすっかり忘れそうになり、立ち尽くした。
会場の隅で、控えめなエシャロット君が手を挙げた。「どうしました?」と五分つきがいうと、エシャロットはすかさず、カバンの中からタブレット端末を出した。
「たまねぎさん、急遽リモートで参加できることになって途中から入ってたのですが、ちょっと発言させていただいてよろしいでしょうか?」
ざわざわーー。
噂話と井戸端会議をこよなく愛する、しめじママ軍団が目をキラキラさせて、小声で話し始めた。
しめじママ軍団の噂話でいっぱいになりそうなので、本日はここまで。
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