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女性/母親としてムスリム難民が抱える困難について

こんにちは。
Living in Peace 難民プロジェクトです。
今回は日本で暮らす難民の女性に焦点をあてた、インタビュー記事をお届けします。

※ムスリムの女性
イスラム教を信仰する人のことをムスリム(アラビア語で神に帰依する人)と呼びます。ムスリムの女性=不自由 というようなイメージを持たれることもあるかもしれませんが、国・地域によってはムスリムの女性の社会進出が進んでいるところもあり、一概にこう、と言えるものではありません。そのことを念頭にお読み頂けると幸いです。

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「日本に暮らすムスリム女性の方たちが日本語を学びたいと訴える1番の理由は、なによりも、自分の子どもを助けてあげたいからなんです」

そう語るのは、日本に生活する難民・移住者の方々、とりわけムスリム女性やその家族に対して日本語学学習のサポートを行ってきた、ISSJ(社会福祉法人日本国際社会事業団)常務理事、石川美絵子(いしかわ みえこ)さんです。

なかなか理解されることのない、日本に暮らす難民の方々が抱える困難について、同じく難民の方向けに日本語学習をはじめとした就労支援サービス「LIP-Learning」の提供を開始した、認定NPO法人Living in Peace共同代表 龔軼群(きょう いぐん)が話を聞きました。

■ムスリム女性の社会参加を阻む、言葉の壁

―ISSJさんのご活動には、常に大きな刺激をいただいております。あらためて、ISSJがムスリム女性難民の方々に対して日本語学習支援を始めたきっかけを教えてください。

以前、ISSJがパートナー事業を受託しているUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が実施した、「AGDM(Age Gender Diversity Mainstreaming)」というプロジェクトに参加させていただいたことがきっかけです。

石川美絵子さん 取材はリモートで行われた

プロジェクトを進めるにあたり、私たちは当事者の方々とお話しすることに力を入れていました。いろんなエスニックコミュニティにうかがって、直接お話を聞いて回ったんです。

そうした中で、ムスリム女性のための日本語学習が必要であることを実感し、現在の活動をスタートしました。

―日本に暮らすムスリムの女性たちは、どのような状況に置かれていたのでしょうか。

そもそも状況を知る以前に、女性の意見を聞くことが難しいというところからのスタートでした。広く知られている通り、ムスリムの方々と話そうとする時には、まず男性に話を通す必要があります。直接女性と話すことができず、彼女たちが何に困っているのかを知ることすら難しかったんです。

回数を重ねていくうちに女性とも話せるようになり、今では女性の方々とライングループでやりとりすることができるようにまでなりました。しかしそれでも、何か新しい事業などを始める際には男性たちの理解も得ておく必要がありますね。

―ムスリムならではの困難があったのですね。ヒアリングの中で見えてきた女性たちのニーズには、どのようなものがあったのでしょうか。

多くの女性に話を聞いてきましたが、いつも答えは同じでした。「自動車の免許を取りたい」「日本語を学びたい」のふたつです。

運転免許を取りたい理由は明白です。ムスリム難民の方々が暮らしている地域は、公共交通機関が充実していないことが少なくありません。ゆえに、普段は徒歩圏内までしか出かけることができないからです。

徒歩圏外に行けるのは、週末に旦那さんが買い物に連れて行ってくれる時だけ。これは、あまりにも不自由ですよね。

―なるほど。しかし、運転免許を取得するには日本語が使えなければならない。

龔軼群(Living in Peace共同代表)

おっしゃる通りです。もちろん、彼女たちが日本語を学びたいと思う背景には、他にもさまざまな理由があります。たとえば、「家の外に出て働く」ためなどです。

先ほどの話とも繋がりますが、世界全体で見ると、ムスリムには女性が社会に出て働くことを「よし」としない価値観がある。実際に、他国への第三国定住(難民が最初に保護を求めた国から、彼・彼女らを受け入れることに同意した第三国へと移ること)を希望する男性が、「妻が働かないと生活できない国には行きたくない」と言うケースがあると聞いたことがあります。

でも実際に日本で暮らしてみると、そうした意識って薄れることがあるんですよね。男性も日本社会で暮らしていくうちに、女性が働きに出ることに対する抵抗感がなくなっていく。しかし、だからといって簡単に働きに出られるようになるわけではない。意識が変わったとしても、言葉の壁がそれを阻む。日本語がわからないために、就労の機会を得ることができないのです。

−裏を返せば、日本語学習の機会さえあれば社会参加できる女性が少なくないということでもありますね。

実際に、私たちの開催している日本語教室を経て就労に至った女性は少なくありません。彼女たちへ日本語学習の機会を提供することには、間違いなく大きな意味があるといえるでしょう。

また、彼女たちが日本語を学びたいと思うことは、もう一つ大きな理由があります。「自分の子どもに勉強を教えたい」という理由です。

■子どもの困難をサポートできない親の苦しみ

−私たちLiving in Peaceもお母さん方に日本語学習を提供していますが、やはり同じように「子どもに勉強を教えたい」という声を頻繁に耳にします。

そうですよね。ムスリム難民の子どもたちは、多くの場合日本の学校に通っています。ですので、教科書や宿題などは当たり前のように全てが日本語。日本語がわからない親は、自分の子どもに勉強を教えてあげることができないんです。

―「自分の子どもに勉強を教えてあげられない」という状況は、自分を「ダメな母親だ」と責める要因になってしまいますよね。

その通りです。そうした課題感をうけ、私たちISSJは母親に対する日本語学習支援だけでなく、夏休みなどの長期休暇における子どもの宿題支援も行っています。

―具体的には、どのような支援を行っているのでしょうか。

一緒に算数の問題解いたりもしますが、メインは「考えをまとめる作業」や「文章の行間を読み取る作業」のサポートですね。わかりやすい例でいうと、読書感想文などです。読書感想文って、難民の子どもたちにとって、非常にハードルが高い作業なんですよ。

子どもは大人に比べて言葉の習得が早いため、一見して語学面での苦労が少ないかのように誤解されがちです。しかし実際には、日常会話に支障がないように見える子どもでも、実生活のなかで見えない言語のハードルに悩まされていることが少なくない。

―どういうことでしょうか?

たしかに難民の子どもは、親と比べると日本語を流暢に喋るケースが多い。一見して語学面の苦労が少ないかのように見えるかもしれません。しかし子どもたちには、「生活言語」はすぐに覚えても、「学習言語」の習得が遅れているというケースが少なくないのです。

「生活言語」というのは文字通り、日常生活の中で会話を中心に獲得される言語です。こちらについては、たしかに子どもたちは比較的に早く習得する傾向にあります。

しかし一方で、勉強や思考の際に使用する「学習言語」については、「生活言語」に比べて遅れていることが往々にしてある。論理的思考力や抽象的思考力などの発達が遅れ、読み書きなどに困難が生じているんです。

―「生活言語」と「学習言語」の発達に差が出てしまった場合、子どもには具体的にどういった困難が生じるのでしょう。

読書感想文などは、まさにその典型だといえるでしょう。会話はできるけれども、文章を読んで理解することが難しい。感想を論理的に書くことができない。同じ理由で、算数の文章問題に躓く子も多いですね。問題文は読めるけれども、そこで何を求められているのかを理解することができないのです。

しかし一番の問題は、子どもたちのそうした困難に「学校の先生たちが気づきづらい」という点にあると思います。教室ではスムーズに会話できているため、ついつい宿題などを日本語ネイティブの生徒と同じレベル感で出してしまう。しかし実は、それが子どもたちにとっては先生が想像する以上に大きな負担となっているのです。

―そうして発生する子どもの負担を親はフォローしてあげたい。しかし自分も子ども以上に日本語ができないので、助けてあげられない。親としてはつらいですね。それに加え、新型コロナウイルスの影響で家庭学習が推進されたことも大きな負担となっているのではないでしょうか。

難民家庭には生活困窮世帯が少なくないため、そもそもIT環境が整っていないという家庭も非常に多かったですね。今回の急速な変化についていけない親子が大量に発生しました。

また、インターネット環境が整備されていたとしても、そこで提供されている教材やコンテンツの意味が理解できない、使い方が分からないという相談も多数寄せられています。

資料提供:ISSJ

言語の壁がもたらした教育格差は計り知れませんし、そこで親たちが抱いてしまった自己否定の気持ちについてもケアが必要とされているのではないでしょうか。

―語学面の支援は不可欠だといえそうですね。

もちろん、難民の方々は語学面以外にも、さまざま面から複合的困難な状況に置かれています。これは、何かひとつの課題さえ解決すればどうにかなるものではありません。しかし言語は、そういったさまざまな困難に少なからず結びついている課題です。引き続き支援ニーズがあるのは間違いありません。

―そうしたニーズをうけ、私たちLiving in Peaceも2019年度から、難民の方々を対象としたオンライン日本語学習支援(LIP-Learning)を開始しました。

受講生の方々の反応はいかがですか?

LIP-Learning2019募集要項

―まだ僅かな人数にしか提供できていませんが、受講生の方々からは、「日本語が上達することで、生活の中で日本語を使って話す機会も増え、友人も作ることができた。まるで祖国にいるようなそんな感覚を覚えることができた」というようなご感想をいただいており、たしかな手応えを感じ始めているところです。

素晴らしいですね。Living in Peaceさんの機動力の高さには、とても頼もしさを感じています。また、既存の団体がリーチできていない層にアプローチできている。ぜひこのままつき進んでほしいですし、どんどんスケールアップしてほしいと思います。

―ありがとうございます。ぜひ今後ともお力添えいただけると嬉しいです。今日はありがとうございました!

こちらこそありがとうございました! 応援しています!

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最後までお読みいただきありがとうございました!

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※この記事は、GoodMorningでクラウドファンディングをした際の投稿(2020年6月27日)を、流用掲載したものです。

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