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銀河、私たちは永遠の夏の子ども。


瞳の奥に赤い華の咲き乱れているそこは夏の終点。宙の露が、光る場所。

汗は顔や身体中をつたってざわめき世界中の道のような血管の凹凸を重力に従って落ちていく。熱い土に黒くシミを落として、そして目指す。私たちは全く誰もいない知らない場所を知っている。

このむせるような暑さの果て。真夜中、ペルセウス流星群には今年も搭乗できなかったけれど、強くこの道から進もう。たいそうな旅になるかもしれないと心配すると思うけれど、これはとても永遠のような一瞬、振り子が行って戻るまでに終わるものだから、安心して進める。

憎しみ、恐れ、憧れ、哀しみ、人の感情はそれを超えて。人を終えても残るものがある気がしている。それらが、ある不可解な美しい、結晶を含んだ露の中に名も無い意志だとしたら、その露が生きる場所があるはずで、そしてそこは誰も見たことのない場所なんだ。あなたは、そこは一人きりで深くて暗い場所を想像するかもしれない。しかし想像とは遥かに違っているのだ。そこは明るい。とてもあからかな、穏やかな風の舞う砂浜の、慈しみの光の砂が続くところ。やはりそれは海。分厚いレンズから見た真っ青な空のように一瞬にして瞳を覆い尽くしてそれから、清らかな声のやわらかな大気はいっときもあなたを離さないだろう。光のゆりかごのように。

そして淡い銀色が波打つ、遠く海の向こうから、白い月が微笑んだかのような一隻の船が見えたなら、それに乗るために祝福される。誰もいない海に誰もいない船に乗ってそこへ向かう。たった一人で。確かめるために。名も無い意志のありかを知るために、そんな誰も知らない場所から私たちは一人一人出会うようにしてやってきたはずで、ただ、忘れているだけ。



混沌の続く限りそこにいた。そして砕けて散って、熱く、熱く照る光にそれらは焼かれたからきっと、私たちは数値でない熱を持っている。いくつもの漂いを内包した私たちの内側の、誰も知らない静かな場所。反転して身体の表面に汗とともに戻ると少し寂しい気がして、重力だけが結晶として迎えてくれる。

銀河に、覚えがある。あの熱の中から夏と冬がうまれて、やがて一つになった。だからとても寂しいし、懐かしい。見えない振り子がどこに取り付けられたものかも知らない。旋回する身体に別れを伝えていく。全身の鼓動に飲み込まれながら。ふと目や耳から、透き通った風を感じたら、新しいあなたがいる。私たちは、私と、あなたになって少し旅をしてきたから、思い出せなくても懐かしいんだ。人は、人はとても小さいから、とても読み切れない本のような感情を、あの宙にとどめて生まれてきたのかもしれない。


汗がたくさん流れていく。身体が泣いているみたいだ。もう、この夏は空が少し遠くなる。形をとどめた意志の膜で覆われた新しい世界。やがて幾千のツバメが雨を知らせるように星が降る。辺りはいっそう濃くなって、圧迫してくるから。私たちはその時に思い出すのかもしれない。少し寂しい、身体の奥の収縮は、産まれた時、宙と繋がっていた時のせいかもしれない。

曼珠沙華が赤く火となって散る頃に少し感じる。

露の光の中に含まれた私たちを。

この世界に広がる一面の星や月の光を、 名も無い大切なものに見立てて、遊んでいる小さなものだった私たちを。




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