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【AX:伊坂幸太郎】 祈りたくなる

殺し屋という仕事から引退したい。
必要なお金を稼ぐために仕方なく仕事を続ける主人公 兜(かぶと)。

優れた解説をしてくれている人は
たくさんいると思うので、僕は自分が感じたことを素直に書きたいと思います


今際

ネタバレになるので詳しくは書けませんが
兜はストーリーの中で、今まで殺してきた人たちの気持ちを考える瞬間があります。

あの人もこんなこと考えていたのかな…
こんな最後になるとは思わなかっただろうな…

僕がこの小説で最も興味を惹かれたのは、
最後の瞬間を迎えた人が考えること。兜が想像する死が目の前に来た人の心情。

人によって違うと思いますが、
最後は、みんな

誰かに対して、祈る。
人間は、必ずそうするんだろうなと感じました。
ストーリーの中で、今際の際に立ったある人が発した言葉があります。

俺はお前たちをずっと守っている。

生きることで、目を逸らし続けてきた
死。という
どうしようもなく、残酷にやってる現実を前にして
人は、今まで受け取ってきた光やつくってきた後悔をもう一度自分の中で蘇らせ、出会ってきた人々に祈る。

『長生きしてほしい。』
『今までありがとう。』
もしくは、先ほど書いた『ずっと守っている。』

伊坂幸太郎さんが書いた、今回の小説やPKでは
人の想いが未来を変える瞬間が
鮮明に描かれている。

だからなのか。


読み進めるうちに
どうしようもなく祈りたくなった。
残された人間の先に待っている未来すら、人の祈りは変えてしまう。
伊坂幸太郎さんのアックスを読んで、その考えが頭の中に生まれて、離れない。


名前も知らぬ人

アックスを読み終わった後に、日課のランニングに出かけた。
帰りの信号を前にして、知らないおばあちゃんが
左折待ちの車のために早めに渡ろうとしていた。
明らかに、身体は弱々しかった。

それでも、急いで渡り、僕も続いてすぐに渡った。

走り去る僕。
右目でおばあちゃんを見てみると、車の人にお辞儀をしていた。
あの景色が離れない。

アックスを読んで、触発でもされたのか、
なぜか、心の中で祈っていた。
『長生きしてね。』
『あなたみたいな人は、ずっと生きててほしい』と。
名前も知らない、おばあちゃんに気がついたら
そう願っていた。
今考えると、すごく上から目線で失礼なやつ笑

30mぐらい離れたところで、振り返ると
おばあちゃんはまだ歩いていた。
信号渡る時は、弱々しく見えたけど
意外としっかりと歩いているな。

少し走ったところで、もう一度振り返ってみる。
まだおばあちゃんが見える。

3回目に振り返った時は
もう姿は無くなっていた。

名前も知らないおばあちゃんに向けた祈り。
きっとこの祈りは意味がなく、届かないものだと思う。
お互いに名前も知らないし、あの人と過ごした時間は1秒もない。
おばあちゃんに対しての想いも、あの一瞬だけ。

それに対して、もう1つ思うのは
無意味で届かない祈りがあるからこそ、
意味があって、届く祈りもあってほしい。

右があれば、必ず左があるように
祈りもそうであってほしい。
きっと今まで、意味のない出会いだと思っていたものが
重なって、僕はアックスという小説に出会えたし、
あのおばあちゃんにも出会えた。

無意味なものが、意味を運んでくれて、
まもなく無意味だったものは意味のあることに変わる。
だから、僕が作り出すものが今は無意味だからこそ、
意味のあることをいずれ運んでこれる。


ハッピー

やり残したことがどれだけあろうが
自分が死んでしまう時は
残してしまう人のハッピーを祈りたい。

自分が今際の際に立ったときに、せめて今までのことを反芻して
残してしまう人たちへの祈りをする余裕はあってほしい。
必ず、守ってあげられる瞬間がある。
この小説にはその場面もしっかりと描かれている。

発売から1年経っているらしいが
1年後に出会えてよかった。

Yusuke


AX アックス

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