製作の書き散らし―No.006_エクスプローラー・ジャズマスター -安芸の宮島-
※もともと自作ギターの書き散らしをNo.001からやろうとは思っていましたが、最近No.006が出来上がったので順番をすっ飛ばして先にこちらの書き散らしをさせてください…
「エクスプローラー・ジャズマスター」
エクスプローラーを題材に
Linにとって「美しいギター」は何かと聞かれれば、リッケンバッカー330とエクスプローラーを挙げます。
リッケンバッカーはそのままでもう完成されているものだからこれ以上は言及しないとして、エクスプローラーはサイズの大きさから敬遠する人も多い故に評価されづらいモデルで、電装系も他モデルであるレスポールやSGとほどんど同じということもあって、音の面での明確な差別化が難しい機種です。
ボディ面積の広さ、美しいプロポーション、まさにロック!といわんばかりの目を引く形状を持っている素晴らしいギターであるはずなのに、ある種のネタ枠になって一般受けしないという現実に心が痛みます。
そこで、別視点からのアプローチ、かつ新しい切り口でエクスプローラーの魅力を再発見できるような作品を1本作れないかとずっと前から考えていました。
「エクスプローラー」と「ジャズマスター」のかけ合わせ
そんな中、広島で仲良くさせてもらっているシンガーソングライターの「たけうちてつや」さんに自分が製作しているギターを使ってもらったら面白いんじゃないかという話を持ち出しました。目的としては以前より何かと気にかけてもらったりお世話になっていることに対してのお礼で、Linが新しく作ったギターを永久的に貸し出そうということになりました。
なかなか高身長な方なので、ありふれたギターだと持ったときの見た目がアンバランスになってしまいます。
ただ、エクスプローラーであればそのサイズ感でバランスをとってくれるはずだと推測し、製作するギターの形状は直感的にエクスプローラーしかないと確信しました。
また、たけうちさんはギターを使っての弾き語りがメインということもあり、ロック系のリードで使えるギターというよりかはジャズギターに近いものの方が合っているのではないかと思いました。
ジャズで使うギターといえばホロウ感のある音を出すフルアコやセミアコ系です(偏見)。
エクスプローラーの内部に空洞を作ってセミアコにすればあの広いボディ面積を活用して音にホロウ感を持たせることができるのではないかと推測しました。
そもそもセミアコのエクスプローラーなんて聞いたことないのでこれ自体かなりのインパクトになりますし、そう考えるとむしろ、セミアコにしたエクスプローラーの方が真に「ジャズマスター」の名を冠するのにふさわしいのではないでしょうか?
ということで、セミアコのエクスプローラーにジャズマスターのブリッジとテールピースを取り付けるという突拍子もない考えを基に、皮肉も込めて「エクスプローラー・ジャズマスター」と名づけ製作に取り掛かりました。
【ボディ】SEB構造を用いたセミアコ
今回エクスプローラーのボディを作る上で特筆して取り上げるべきは東海楽器さんが開発した「SEB構造」を採用しているということです。
これがどういうものか簡単に説明すると、エレキギターを製作する際にはほとんどの場合、木目や繊維の方向に沿った1枚の板を加工するシンプルな作り方をするのですが、それに対してSEB構造は木材の木口側を等間隔でカットし、その木目側同士を貼り合わせていった1枚の板を中間層にして上下を薄い木材で挟むという複雑な作り方をします。
こうすることで木目に沿った1枚の板材よりも、木の繊維が縦に向いている中間層を間に挟むことで繊維が柱のような役割を果たして、ボディ全体に振動が届きやすくなるらしいです。
が、今回の狙いはそこではありません。
(実験的な意味も込めてはいますが)
ではどういった目的でSEB構造を採用したかというと、「わざわざ特別に木材を仕入れる必要がない」からです。
というのも、エクスプローラーほどのサイズの大きなボディを作るとなるとちょうどいい厚さの木材を1枚板で探すのにかなり苦労します。
(必要以上の極厚の板を手に入れたところで加工する術を持っていないため、「ちょうどいい厚さ」なのがポイント)
反面、SEB構造ならどれだけ広い面積の木材が必要だろうと、必要な厚みで等間隔にカットした木材を貼り合わせれば1枚の板が作れるし、上下に挟むのに必要な木材については薄板程度ならエクスプローラーサイズでもそれなりに出回っています。
そういうわけで今回は比較的入手しやすい、かつ安価な杉の足場材を切り分けて中間層にすることにしました。
(SEB構造について情報提供していただいたギター製作仲間のれんたろ氏には改めて感謝を申し上げます)
SEB構造でのセミアコ作りはおそらく本家東海楽器さんでもやってこなかったことだと思います。
ちなみに、今回使用した木材は
表板:欅の薄板
中間層:杉の足場材
裏板:杉の古民家材
こんな感じです。
ここまでがLinの中で先に考えていた設定的、構造的な部分になります。
安芸に染まる
【塗装】紅葉の赤、宮島の朱
先述の通り、このギターはたけうちさんに弾いてもらうことになるので、当然見た目や構成などに関しては彼が求めるものをなるべく実現していこうと思いました。
夜中のマクドですり合わせをした結果、宮島を1つの大きなテーマにすることになりました。なんでも今年2023年は宮島絡みで色々あって縁を感じたとのこと。
こちらとしても願ってもない(後述)申し出だったので、快く引き受けました。
宮島の色といえば厳島神社を象徴する朱色と紅葉の赤色。
ボディとネックに塗る色はこの2色で確定です。
ボディの貼り合わせや整形ができてきたら実際に色を塗っていきます。
まずは水で薄めた朱液でボディ全体をステイン。
なぜ一般的に使われる塗料ではなく朱液を選んだかというと、以前に作品に対してオリジナリティを出すにはどうすればいいかを考えていたことがあり、書道をかじっていた経験から墨汁や彩墨を利用して塗装ができないかという答えを一つ出していました。
そして、前作にあたる「No.005_ビアケースアコースティックギター」(記事未作成)で墨汁を実験的に利用した際に塗料として有効だと実証できたため、今作で全面的に使用することになったのです。
そういうわけで、ステインさせた朱液が乾ききったら裏面と側面に砥粉を朱液で溶いたものを塗ります。
砥粉を加えたのは木目とパテを盛った部分をカモフラージュするためです。
乾燥後、なんかちょっと薄いなと感じ、朱液溶き砥粉に赤い顔料を少量加えて色を濃くしたものを塗装した上へさらに塗りつけました。
しかし、これが悪夢の始まりとなる…
原因は不明ですが、上塗りをしてた部分が一部ひび割れを起こしてしまったのです。
骨が折れますが塗装はもう使い物にならないので全部削っていきます。
(スクレーパーより粗目の紙やすりの方が削りやすかった…)
そしてリベンジへ。
厚塗りは避けてちょっと濃い目の朱液溶き砥粉を1回塗るだけにしました。
次は表面にも同様の塗装をしていくのですが、そのままひっくり返して塗ると簡単に裏面の塗装に傷がついたりボロボロになったりするので、先に裏面だけプライマースプレーとサンディングシーラーを塗布して保護します。
そしてやっと表面の塗装へ。
表板に使用していた欅の木目がとても綺麗だったので、なるべくそれを残したいという思惑もあり、表面もガッツリと塗装するのではなく、疑似的にサンバーストを表現するつもりで外周のみ塗装しました。
ただ、やはりどうしても木目が密集している部分にひびが入ってしまうようで、もうこのまま突き抜けるしかありません。
なるようになれ、です。
とはいえヴィンテージギターのように塗装がはがれているように見えなくもないので逆に味があっていい、なんて都合よく捉えることもできる、はず…。
新品なのに年季が入ってるって斬新。
ここから表面にプライマースプレーとサンディングシーラーを塗布して、最後に全体をラッカースプレーを複数回に分けて吹き付ければボディの塗装は完了です。
一方でネックの方は砥粉を使わずに朱液のみで、根本からヘッドにかけて色が薄くなるように、液を水で薄めてグラデーションをつけました。
最終的にはこちらもギターと同様の塗装を施しています。
【コントロールノブ】細部へのこだわり
今回の作品では当然ながらボリュームポットを使用するのでコントロールノブが必要になってきます。
一般的にはプラスチック製や金属製が主流ですが、今回のコンセプトでそれらを使用すると作品に違和感を与えかねないので、木製ノブにしたいのですが、手に入りそうなものはほとんどが単色であまり面白みがありません。
というわけで自分で作ることに。
色の違う木材同士を組み合わせてカラフルなノブを作るという構想はあったので、ダメ元で試しに前からやってみたかった「象嵌」を用いて紅葉模様を作れないかと模索してみました。
赤系と白系の木材に紅葉の輪郭を描き、中が赤で外は白になるようにいらない部分を糸のこ盤で切断して取り除き、それぞれはめ合わせるようにしました。
象嵌どころか木工そのものが素人なので当然何度も失敗します。
それでもめげずに続けて…
それなりに納得できるようなものが出来上がりました。
ポットの中心にはめ込む軸は手軽さと確実さを追求して既製品のプラスチックノブから採取します。
そして、すべてのパーツを接着してヤスリがけ。
最後はオイルと蜜蝋ワックスで仕上げればこだわりの象嵌コントロールノブの完成です。
【ピックガード】苦戦する最後の1ピース〜紅葉に鹿〜
エクスプローラーのピックガードはトグルスイッチが1個しか乗らないにも関わらず余白面積がかなり広いというのも特徴的です。
普通のギターみたいに単色の一枚板だと味気がないので、この余白を活用して何か絵を描くことにしました。
作品に合わせるとなると墨汁や朱液を用いて水墨画風で宮島の情景、それも鹿と紅葉の絵がよさげだと考え、とりあえずその構想を具現化するために鉛筆と赤ペンで試し描きします。
また、それに伴って絵の土台となるピックガードの作成。
一般的に使用されるプラ板だと当然墨を弾くので、絵が描けるようベニヤ板をピックガードの形にカットし、キャンバスを模して下地に胡粉ジェッソを塗りました。
これに水墨画風の絵を書いていきます。
先述のように、書道を少しかじっていた経験から筆文字ぐらいなら多少書けはするのですが、筆で絵を書くなんて今までほとんどなかったのでここは結構苦戦しました。
「オレ、ギター作ってるんだよな…?」と迷子になりながらも鹿の絵を練習していく...。
いまさらながら、そもそもキャンバスにしているピックガードの形状がいびつなので構図にも悩まされました。
そんなこんなで描きながら色々と試行錯誤をしていった結果、こんな感じに。
書道で使う止め・跳ね・払いの筆遣いを応用した作風で、なんとか鹿と紅葉を書き上げることができました。
細かい部分にも筆を加え、ギターと同様の塗装を施せば最後の1ピースが完成です。
これをギターに設置すればまさに画竜点睛。広島の「安芸」と紅葉の「秋」をひっかけて「安芸の宮島」と称するにふさわしいものができました。
作品への思い
広島、宮島との「縁」
ここからは完全に余談。
今回の製作ではたけうちさんによる「宮島との縁」がキーワードになっていますが、Linにとっても少なからず縁や思い入れがあったりします。
自己紹介のところでも触れているようにLinはいち企業に務めているサラリーマンで、現在会社都合で広島へ転勤しており、この転勤で広島に訪れたのは初…というわけでもなく、実は小学生の頃に修学旅行ですでに1回訪れており、しかも宿泊が宮島だったのです。
そのときの宮島での自由時間中、お土産屋さんで厳島神社の鳥居のミニチュアを買いました。
1000〜2000円だったと思うのですが、当時そんなお金があれば絶対もみじ饅頭とか食べ物に回していたはず。修学旅行が楽しかったからその記念に、というのもあるんでしょうけど、ほぼ直感で何気なく買ったと記憶しています。
将来広島と縁ができることを予感して無意識に買ったのか、それともこの鳥居に導かれて再び広島に来ることになったのか。どちらにせよ広島に来ていなければギター作りなんてしていなかっただろうし、今ある広島の人たちとのつながりもできるわけがありません。
あの頃ここに来ていた自分と、いまここにいる自分はまったくの別人だといっていいほど広島に来たおかげで自分という存在は大きく変わりました。
このミニチュアを買っていなければまったく別の人生を歩んでいたのではとさえ思えます。
(すべては偶然と言ってしまえばそれまで…)
そういうわけで、たけうちさんが与えてくれた「宮島」というテーマは、自分と広島・宮島との縁に対する十数年越しの感謝の気持ちや、自分に対する振り返りを呼び起こし、それをエクスプローラー・ジャズマスターに込めてある種の集大成として「安芸の宮島」に至ることになりました。
そしてこの作品を広島のシンガーソングライターであり、広島に来て初めてできた仕事関係以外の繋がりであるたけうちてつやさんに託すというのも何か意味があると考えています。
彼がこの作品を大いに活用してくれることを期待するとしましょう。
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