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ひそやかなバラの名前

30年ほど前のこと、関東近県で新しく誕生したバラに名前が公募され、参加したことがあった。

企画に関わる親しい友人に誘われての参加だった。主催はバラ園だったのか、愛好家の方だったのかよく覚えていないが、それほど大々的に行われたものではない様子だった。

そのバラは、こちらの昨日のつぶやきのものに少し似た雰囲気があった。(ヘッダーはつぶやきと同じ写真です)

色はこれよりも淡く、ほぼ白といってもいいぐらい。その中にうっすらとピンクや卵色が混ざったような穏やかなニュアンス。
もっと大きくボリュームもありながら、華麗、ゴージャスというよりは、力みのない包み込むような温かい雰囲気がある。
基本的にバラは野生の一重のものが好きなのだが、そのバラには一目で惹かれた。


数日間、このバラに添う名前をと考えた。
ところが、イメージを辿って近づいていくも、どれも形にすると遠のいてしまう。
名前を与えることで、その本質が消えてしまうような気がしてくるのだった。

結局、落としどころのないまま、一番イメージにぴったりくるもので応募した。
たしか「ルナ・なんとか(覚えてないという...)」だったと思う。ルナはイタリア語で月。月の静けさやひそやかさ、またその落とす光の様子にイメージが重なった。


数週間後、応募作の中から名前が決まった。
それを見て、「はぁぁぁぁ…」とため息が出た。

もうこれしかない、と思わせる名前だったからだ。
感嘆を超えて衝撃だった。
 

「ラルム」


ラルム=LARMEはフランス語で「涙」。
この名前をつけた人はどんな人だろう。

涙というとまず「悲しみ」のイメージと結びつく。でも、実は生身の人間から流れる涙は温かい。
私がこのバラから受け取った前述の「力みのない包み込むような温かい雰囲気」。
図らずもこの美しい名前によって、涙にもそんな姿があることを改めて認識させられた。

その後、思い出すたびに「ラルム」と検索してみるが、その名は出てこない。

あのバラはどうしたのか誘ってくれた友人に聞こうにも、もう彼女はいなくなってしまった。
心の中に美しく佇むバラと友人の思い出、そっとしまわれたままでいいのかもしれない。


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