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ボリスさん、おうちへ帰る

2021年2月のこと、次女が半年間イタリアの大学へ行くことになり、当時住んでいたドイツの大学の学生寮を引き払うことになった。
(結果的にパンデミックのせいで全期間ドイツからのオンライン受講となってしまったのは残念だった)

そんなわけですべての荷物を家に運んだのだが…
とにかく奇妙な荷物が増えていた。

1950年代あたりのものだろうか、背もたれが外れかかってぶらぶらしている木製の椅子や、やはり木製の小引き出しのついたペンキだらけの大机が。

聞けば大学の不用品置き場(つまりゴミ捨て場)から拾ってきたのだという。ふぅぅ…
知人の近所のおばあさんからもらったという、同年代のものと思われる木製の箱型ラジオなんかもあった。

服などは一枚も増えていない様子だが、何やら妙な収集癖があるようだ。

そしてまた、なんとも言えないこちらの植物。
この方がきょうの話の主役になる。

寮の個室にて
まるで掛け軸の図案のような侘び寂びの世界観
鉢の直径は40cm


ちょうど友だちがもう要らなくなったと処分しようとしていたのを、その日に譲り受けたのだそうだ。はぁぁ…

「ご自由にお持ちください」という紙もまだ貼ってあることだし、ここでどなたかに拾ってもらったらどうか、どうやって車に入れるのか、うちのどこに置くのか、と、あらゆるアプローチから阻止を試みたが、次女は「まあいいじゃない」と、どこ吹く風で、結局わが家の一員となった。くぅぅ…

おそらくドラセナだと思われるこちら、次女により「ボリス」と名付けられた。
ちなみに高校の親友からもらった多肉植物には「ユリア・フォラー」という名がついている。

しかしまあ、ボリスさん、なんとも運のない方である。「緑の手」を持つ人に貰ってもらえばよかったものを…
しばらくこの姿でひっそりと暮らしていらした。

徐々に春らしくなってきた4月、ドラセナは管挿しという方法で増やせるということがわかった。
管挿しとは、葉のついていない茎、つまりただの棒のような状態から再生させる方法だ。

上部は水平に、下部は斜めにカットするとある。
「ここで注意することは上下を間違わないこと」というが、まあそうだろうなと思う。頭を下にされたら、ねぇ。

一番長くひょろっと上に伸びている茎をばっさり切った。
かなりの長さがあったので5本が切り取れた。
土に直接挿してもいいらしいが、古いボトルに水を入れたところに挿し、様子を見ることにした。

うまくいけば2週間ほどで発根するといわれるものの、一向に生えてくる気配がない。
やはり状態が悪過ぎたのかな、と諦めかけたころ、うっすらと根らしいものが見えた。
水挿しにしてから2ヶ月が経っていた。

そこからはあっという間に成長し、くっきりした緑のみずみずしい葉が広がった。

2021年6月

ドラセナは元々とても丈夫な植物ということで、手をかけようとするとうまくいかないわが家でもジュニアたちは元気にすくすく育っている。


そして先週。
次女が友だちの30歳の誕生日に招待された。
森の中の山小屋を一軒借りて20人ほどが集まり、2泊3日でお祝いをするという。ドイツではこうして節目の誕生日を盛大に祝うことが多い。

その友だちというのが……そう、ボリスをもらった友だちなのだった。
プレゼントとして、次女はこのボリス・ジュニアを連れていった。
「そうか、おうちに帰れるんだな」と、感慨深く送り出したものの、しばらくして少し不安になった。
勝手にいい話をイメージしていたが、もしかしたら彼は「え……マタキタ」と思うかもしれない、と。

送り出す前、記念に写真を撮った


しかし、そんな心配をよそに、友だちは大喜びしてくれたそうだ。あぁ、よかった。


さて、そんなボリスさんの最近の様子がこちら。
短く切られた枝もぐんぐん伸び、もう天井につく高さになっている。

さすがに窮屈そうなので、カットしてまた挿し木してみよう


ソファで本など読んでいると、風に吹かれたボリスの葉が頭を撫でてくれるような時がある。
いまではもう、家族の一員になった。
と言いつつ、たいして世話はしていないのではあるが。笑


そして次女は…… あちらこちら飛び回った忙しい夏休みは終わり、すでにオーストリアに戻っている。新しい学期も始まったようだ。

もう荷物は増やさないようにしてほしい。


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