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なぜ企業は温室効果ガス排出量を算定しなければならないのか、その理由と方法

TBMは企業単位で温室効果ガス排出量を可視化し、削減施策までを提案するプラットフォーム「ScopeX」を展開しています。また、LIMEXについても、原材料調達から処分に至るまでのライフサイクルを通じた温室効果ガス排出量を詳細に開示しています。なぜ企業は今、温室効果ガス排出量の算定という課題を突き付けられているのか、ScopeX事業を担当する新規事業部のメンバーが、その理由と方法について解説します。



企業が温室効果ガス算定をする背景

2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定(COP21)で決まった「産業革命前からの世界平均気温上昇を2°Cより十分低く、できれば1.5°Cに抑える」という目標により、世界全体で気候変動対策に舵を切り始めました。

日本も菅義偉首相(当時)が2021年4月に、2030年度までに温室効果ガスを46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明。これによって、脱炭素やカーボンニュートラルという言葉をよく耳にするようになりました。

また、温室効果ガスの算定サービスも多くの企業がリリースしています。なぜ平均気温を抑えるために、企業は温室効果ガスの算定をしないといけないのでしょうか。
まずは温暖化のメカニズムから順番にご説明します。

出典:全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)

1.温暖化のメカニズム

地球の平均気温は現在14℃前後です。この温度は大気中に温室効果ガスがあることで保たれています。太陽光が地球の地面を暖め、地表から放射される熱を温室効果ガスが吸収して大気を暖めているからです。仮に温室効果ガスがないと-19℃まで下がってしまいます。

逆にいうと、温室効果ガスが増え大気中の温室効果ガス濃度が高まると、熱の吸収も増えるため、気温も上昇してしまいます。これが地球温暖化のメカニズムです(参考:JCCCA「温暖化とは?地球温暖化の原因と予測」)

そして、温室効果ガスが増加している要因については、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の 第6次評価報告書(2021年8月9日)に「地球温暖化が起きていることだけでなく、地球温暖化が人間の影響で起きていることは疑う余地がない」と明記されています(出典:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠) 政策決定者向け要約(SPM)の概要(ヘッドライン・ステートメント))

2.温室効果ガスの排出量が多いのはどこ?

日本の温室効果ガスの内訳を見ると、家計が約15%、企業が約80%です。
そのため、温室効果ガスを減らすためには企業が脱炭素に取り組む必要があることは、お分かりいただけると思います。

企業の内訳では、産業部門(製造業/建設業/鉱業等)が一番多く、運輸(貨物車/社用車/船舶等)と事務所(商業/サービス)はほぼ同等という結果でした。

(出典)温室効果ガスインベントリオフィス全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)

3.脱炭素の進め方

脱炭素に取り組むにあたって現状の温室効果ガスを算定することは不可欠といえます。もちろん、温室効果ガスの算定をしなくても脱炭素の取り組みはできます。

しかし、現状の排出量が分からないと削減目標を立てられません。どのくらい減ったのか差分を出すことも出来ないため、せっかく行った削減施策の評価も行えません。

製造業で普段から行われるQC(Quality Control)活動やTPM(Total Productive Maintenance)活動と同じように、また営業やコンサルタントがお客様に改善提案をする時と同じように、脱炭素の取り組みもまずは「現状の把握」、ここから始まります。

【余談
脱炭素の話をすると、「大企業や上場企業だけが取り組めばいいのでは?」という声が聞こえてきます。私達も、未上場企業が脱炭素に取り組む直接的なメリットは「まだ多くない」というのが正直な感想です。そのため日本は「今はまだ脱炭素に取り組まない」という判断をされる経営者の方がほとんどです。
そんな考え方の経営者が多いおかげで、脱炭素に取り組んでいる少数派の企業が注目を浴びやすく、メディアにも取り上げられやすい、というのも事実です。
今から既存のサービス/技術で競合との差別化を図るのは、時間もお金もかかるし、簡単ではないと思います。しかし脱炭素の取り組みは、「どの企業にも平等に与えられた差別化の機会」と捉えることもできます。

温室効果ガスの算定方法


温室効果ガスの算定をする際に重要になるのが、Scope(スコープ)という視点です。スコープとは、温室効果ガス排出量を測定する範囲のことです。Scope1・Scope2・Scope3の3種類に分けられます。

Scope1:事業所自らによる温室効果ガスの直接排出
Scope2:他社から供給されたエネルギー使用に伴う間接排出
Scope3:それ以外の間接排出

※温室効果ガス算定・報告の基準として「GHGプロトコル」という国際基準があり、そこで定義されている排出量の区分がScope1・2・3です。日本もGHGプロトコル基準を推奨しています。

出典:環境省 サプライチェーン排出量 概要 

Scope1の算定方法

Scope1は、燃料の使用などによって自社が直接排出した温室効果ガスの量を算定します。社有車やフォークリフトでのガソリン・軽油などの燃料使用、工場やオフィスでの重油・LPG・都市ガスなどの燃料使用が対象となります。

【 温室効果ガス排出量 = 燃料の使用量 × 排出係数 】

燃料や原料ごとの活動量(使用量)を把握し、その燃料や原料に固有の排出量原単位をかけることで、排出量を算定します。ガソリンの例を表に示します。

まずは活動量の収集から始めましょう。たとえば社用車の利用による排出を算定する場合、社有車を管理している部署(総務や経理部)や工場に協力を依頼し、燃料使用量・原料使用量を把握する必要があります。どの部署も把握ができていない場合は、精算書を一元管理するなど、把握の仕組み作りから始めましょう。
(出典:中央環境審議会総合政策・地球環境合同部会「燃料別二酸化炭素排出量の例」)

Scope2の算定方法

電気・熱・蒸気エネルギーの使用に伴う温室効果ガス排出量がScope2にあたります。工場・事務所での電力エネルギーの使用などが対象となります。

【 温室効果ガス排出量 = エネルギーの使用量 × 排出係数 】

Scope1と同様に、エネルギーの種類や産出元ごとの活動量(使用量)を把握し、そのエネルギーの種類や産出元に排出量原単位をかけることで、排出量を算定します。

電気使用量を把握している部署(総務や経理部)に協力を依頼し、事業所や工場ごとの電気使用量を確認します。電力会社とメニューが分かれば、環境省が公表している電気事業者ごとの排出係数を用いて、排出量を算定することができます。

Scope3の算定方法

Scope3ではカテゴリの振り分けという作業が発生します。
自社の活動項目がどのカテゴリ(1〜15)に該当するかを特定します。

(出典)環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方」

補足:カテゴリを除外する場合
基本的には全てのカテゴリーを算定するのが望ましいです。しかし、算定目的や排出量全体に対する影響度、算定負荷等を踏まえ、一部を除外することもできます。

除外する場合の基準として、GHGプロトコルは以下のように定めています。
・該当する活動がないもの
・排出量が小さく、サプライチェーン排出量全体に与える影響が小さいもの
・排出量の算定に必要なデータの収集等が困難なもの
・自ら設定した排出量算定の目的から見て不要なもの

算定はScope1・Scope2と同様、製品の物量や金額に排出係数を掛け合わせます。

【 温室効果ガス排出量 = 製品の物量や金額 × CO2排出係数 】

例えば、廃棄物由来のCO2排出量を算出する場合:
廃棄物由来のCO2排出量 = 廃棄物量(10kg) × CO2排出係数(0.1kg/kg)= 0.1kg

まとめ


  • 温室効果ガスは熱を吸収する性質があるため、増加すると気温も上昇する。

  • 温室効果ガスの増加が人間の影響によるものであることは、疑う余地がない。

  • 排出量の80%は企業要因のため、脱炭素は企業が取り組まなければいけない。

  • 脱炭素に取り組まない企業が多いため、取り組んだ企業は注目を浴びやすい。

  • 脱炭素に取り組むなら温室効果ガスの算定(現状把握)は不可欠。

  • 算定はGHGプロトコル(国際基準)にのっとってScope1・2・3に分けて行う。

温室効果ガスの算定方法について、なぜ算定をする必要があるのかも踏まえてお分かりいただけましたでしょうか。

今年の国の動きとして、有価証券報告書等において「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設されたり、「従業員の状況」では、女性管理職比率や男性の育児休業取得率といった多様性の開示も求められることになりました。こういった気候変動対策やSDGsに寄り添ったルール変更は、これからもさらに増えていくなかで、経営者が脱炭素から目を背けることはもはや不可能です。

脱炭素の取り組みは決して難しくありません。まずは自社の排出量となるScope1・2の算定からはじめてみてはいかがでしょうか。

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