CO2排出量算定・可視化を当たり前に。TBM新規事業部の挑戦
IT企業、再エネ企業からTBMへ!転身の理由
──伊藤さんは2022年11月の入社。以前はどんな仕事をされてきたのですか。
伊藤 新卒から9年間はメカエンジニアをしていました。1社目は日本のメーカーで5年、2社目はドイツの分析装置のメーカーで4年間働いていました。ドイツの会社は超ニッチな業界ですが、セメントの成分分析装置では世界シェア7割を持っている会社だったので、セメント工場に出向いて修理することもありました。セメントの原料は石灰石ですから、その意味ではTBMに入る以前から石灰石と縁がありました。その後、ビズリーチに移り、ビズリーチ事業部で6年間、カスタマーサクセスに従事していました。
息子が今3歳なのですが、子どもが生まれてから日本や地球の未来への関心が強くなり、地球規模の課題に挑戦している会社で自身も挑戦したいという思いが芽生えました。その中でTBMへの“アンテナ”が立ったのは、私にとっては馴染み深い石灰石という素材を扱っていたこと、そして新素材だけでなくITサービスという新規事業にも進出していた点です。
──奥秋さんは2023年1月入社です。前職では太陽光発電の事業会社にいたんですね。
奥秋 はい、企画部門で新規事業の立ち上げから推進まで携わっていました。当初はメディア構築にも関わっていて、太陽光関連以外にも環境に関するニュースを広く集めていたので、TBMやLIMEXについては以前から知っていました。
元々環境系のサービスに興味があったのと、業務効率化などのウェブサービスもやってみたいという思いもあったので、自然と「GX:Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)」という文脈で転職先を探すようになりました。環境関連の展示会に行くと、GXツールが増えているという印象は持っていて、環境とデジタル技術は相性が良いなとは思っていました。実際、前職時代にScopeXのブースにも覗きにいってるんです(笑)。
──そもそも環境系のサービスをやりたかった理由は?
奥秋 私、原発事故があった2011年卒なのですが、30歳ごろ個人で仕事をしていたときに、東京電力に勤めていた幼馴染が、原発事故の影響でうつを患ってしまったんです。それをきっかけに日本の電力インフラについて考えるようになりました。ちょうどそのときに私は結婚することになり、個人事業をやめて会社員になろうとしていたタイミングでもありました。それで、組織に入るなら組織でしかできないような仕事、社会的意義のある領域として太陽光事業に興味を持ったという背景があります。
伊藤 私は先ほどの通り息子の誕生がきっかけです。TBMへジョインするきっかけは、「新しい価値観を創る」ということにまた挑戦したいと思ったからです。
前職の会社は、「ダイレクトリクルーティング」という新しい価値観を転職市場に創りました。そこに凄くやりがいを感じていたので、TBMでは「SX:Sustainability Transformation(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」という「新しい価値観を創る」ことに挑戦していきたいです。
──TBMにジョインしての印象はいかがですか。
伊藤 前職では5年目にもなると、入社当初と比べて課題もどんどん解決されていきました。組織としては理想的である一方、業務に物足りなさを感じていたので、、TBMに入社してからの“カオス”は期待通りでした(笑)。入社前にもチームメンバーから、「いろんな業務をやることになるよ」と言われていましたし。
奥秋 私は前職でも新規事業をやっていたので、“カオス感”に驚くことはありませんでしたが、TBMはチーム内の意思決定は速いけれど、会社全体ではお金の使い方や稟議の上げ方などのルールなどがきっちりしていて、そこは「さすがメーカーだなあ」と新鮮さを覚えました。前職の会社では社長と直接話してすぐ稟議が下りていたので(笑)。
ScopeXとは?サービス内容とリアルな反応
──お2人が新規事業部で担当しているScopeXについて、簡単に説明してください。
伊藤 ScopeXは、CO2など温室効果ガス(GHG)排出量を可視化するプラットフォームです。原材料調達から製造、物流、廃棄といった一連の事業活動から発生するGHG排出量を把握して、サプライチェーンのどの過程で減らすべきかを特定し、削減策の提案までを一気通貫でサポートしています。
奥秋 日本も2021年4月に、当時の菅首相が2030年までに2013年度比で46%削減、2050年までに実質排出量をゼロとする「カーボンニュートラル」を宣言しました。脱炭素社会の実現のために、企業はサプライチェーン全体で排出されるGHG排出量をはじめとする気候関連財務情報の開示を求める動きが、各国で進んでいます。
そんな中ScopeXは、2022年2月にβ版をローンチし、2022年8月から正式サービスを開始しています。
──顧客の反応はいかがですか。
伊藤 私はScopeXのマーケティングとカスタマーサクセスをメインで担当しています。ウェブ広告等をご覧になって、気になるから情報が欲しいという問い合わせは確実に増えてきてはいますが、まだまだ本格化はこれからという印象です。
2022年4月の東京証券取引所の市場区分再編で、「プライム市場」に上場する企業は気候変動によるリスク情報の開示が実質的に義務付けられたため、大手企業は脱炭素への取り組みと情報開示の必要性を感じているところが多いのですが、一方で日本の8割以上を占める中小企業については、「そもそも脱炭素ってやる必要あるんだっけ?」という方々もまだまだ多くて、意識情勢やマインドセットを変えていかないと、というのが実態ですね。
奥秋 私はフィールドセールス中心なので、直接お客様の声を聞く機会は伊藤さんより多いと思います。皆さん、「やらなきゃ」という意識をお持ちですが、同時に「今すぐやらなくても…」とも思ってもいる。まだ、環境に配慮していないことが企業のリスクになることへの認識は薄いかなと感じています。
先日、海外のお客さまと話した際に、欧米では野菜や肉を選ぶときにCO2排出量が少ないものを選ぶのがすでに普通になっていると聞きました。日本ではまだ、一次産業がCO2を多く出していることを知らない人のほうが多い。だから食肉を減らそうなんていう消費者はマイノリティですし、それでは企業活動にも波及しないですよね。
──そもそも野菜や肉を買う時に、商品ラベルにCO2排出量の情報など書いてないですもんね。欧米のような消費行動が主流になるには、情報開示が必須ですし、そのためにはデータを取って算定しなければならない。CO2排出量の可視化はバリューチェーン全体に関わる話なので、一部だけでなく、社会全体の変革が求められます。
伊藤 もちろん中小企業であっても、本気で環境問題に取り組んでいたり、環境対応でブランディングしたいという経営者は既に動き始めています。でも、問い合わせをいただく多くの方々は、親会社や取引先に言われたからというケースがほとんどです。ただし、ここ半年で「脱炭素について何かやらないといけない気がして」というご相談は増えたと感じています。
食品のカロリー表示のようにCO2排出量も身近な数字に
──脱炭素の動きは世界的に加速しているので、2030年、2050年といった国際目標に向けて、確実に変わっていくのでしょうけれど……。
伊藤 少なくとも5年後、10年後にはCO2排出量算定・可視化の動きは当たり前になっているはずです。先ほど奥秋さんから食品のCO2の表示の話がありましたが、今はお店で食べ物を買うとカロリーや糖質量などが表示されているじゃないですか。こんなの昔はありませんでした。CO2排出量もこのくらい身近になってくれるといいですよね。消費者が注目する数字が変わる瞬間、常識が変わる瞬間というのを見てみたい。
奥秋 常識が変わるという点で私がイメージするのは、タバコにまつわる街の風景です。昭和の時代ってどこでもタバコを吸えましたよね。職場でも駅でも、あちこちでみんな吸っていた。でも、この10年、20年でガラリと変わりました。これってタバコの値段がどんどん上がった影響もあると思っていて、だとするとCO2も炭素税が導入されたりすれば、行動に結びついてくるのかな、と。
──個人に何らかのメリット、あるいはデメリットがないといけないということですね。
奥秋 そうですね。伊藤さんの言ったカロリーの数字って、自分自身の健康に関わってくるものだけど、CO2の場合は個人の生活にそこまで影響しません。カロリー表示のようにCO2排出量の開示が当たり前になったとして、そこからCO2の少ない野菜、肉を買うといったかたちに消費者の行動や価値観を変えるには、税金であったり何かしらの規制が必要ではないかと思います。
──「新しい価値観」が浸透した世界を目にするのが楽しみです。 ありがとうございました。