化粧品キャンディ

ワシは化粧品メーカー勤務にしがみついていた。
この会社ではムダ毛処理用品なんかも作っていて、ワシはその商品開発チームに携わっていた。

しかし、ワシはチームを外されそうになっていた。
おそらくワシは体毛が濃すぎるので、チームにふさわしくないというのが原因だろう。
あと、ちょっと何回か寝坊してしまったのも少々影響したようだ。
寝坊したときに、
「お詫びに胸毛むしりやります!何本取れると思う?当たった人にはキャンディあげます!」
と言って、ワシは胸毛を引きちぎった。
9本抜けた。
サブリーダーの毛梨(けなし)さんが当てたので、ワシは胸毛からキャンディを取り出して、抜けた毛と一緒にプレゼントした。

そんな風にチームを盛り上げようと最大限に努力したが、体毛が濃すぎるせいで、挽回しきれなかった。
あと、仕事中にちょっと息抜きでお笑い番組の違法転載動画をみて爆笑していたことも少々影響したようだ。

とは言え、ワシはもう崖っぷちだ。
何とか生き残る道を探さねばならない。
ワシは、とある街頭調査をすることにした。
街中で毛深そうな人を見つけたら、手当たり次第に声をかけた。
「ご参考までに、胸毛見せてくれん」
そう言って尋ねていくと、やはりほとんどが胸毛の濃さをコンプレックスに感じていた。
でも、ワシの方が濃いのをみると、少し気が楽になったようだった。
ワシはインタビューのお礼に、胸毛からキャンディを取り出してプレゼントした。
インタビューを繰り返しているうちに、ワシは「フレディ」と呼ばれて、街で人気者になった。

後日、調査の結果をチームのみんなに発表した。
「ずばり!胸毛が濃い人の中には、それをコンプレックスに感じている人もいたりするんじゃないかなあってことがわかりました!」
何故だかみんなの視線が痛かった。

ワシが休憩所でひとり落ち込んでいると、後ろから急に声をかけられた。
振り返ると、サブリーダーの毛梨さんだった。
「ああ…毛梨さん。へへっ…ワシって、もう終わりっすかねー?なーんて。あーあ……悔しいっす、ワシ…」
思わず涙が滲んできてしまった。
そんなワシに毛梨さんは、「ん!」と言って何かを握った拳を差し出してきた。
「え?毛梨さん、何ですか?」
「ほら、手出しな」
言われるがままに手を出すと、パラパラ…と毛が落ちてきた。
「これって…」
「そう。あんたが前にくれたあんたの胸毛。もう一回、初心に帰って頑張ってみない?」
「…でも、ワシ、ムダ毛処理用品のチームのくせに体毛が濃いからチームを外されそうなんですよね?」
「何言ってるの、逆よ。あんたは、体毛の濃い人ならではの視点をチームに生かして欲しいと思われてるのよ。だから、皆あんたに期待してたのよ!もう一回、頑張んなさい!」
「そ、そうだったんですね…いけない、ワシったら…」
とりあえず、体毛の濃さを心配する必要がないことがわかった。
でも安心したらちょっぴり腹が立ってきた。
「毛梨さんよ、お前さ、人が落ち込んでる時にこんな胸毛の残骸みてえな汚ねえもんをパラパラパラパラ、おちょくるのも大概にせえよお!なあ!?」
毛梨さんは目を丸くして驚いていたので、ワシは胸毛を引き抜いて投げつけてから、さらに畳み掛けた。
「何を鳩が豆鉄砲を食ったような顔してんすか!?ええ?普通にわかるっしょ!?落ち込んでる人に胸毛を、それもいつ採れたかもわからんような胸毛、ありえないっしょ!?毛梨さん、正直やばいと思う!」
毛梨さんは歯を食いしばって震えながら、顔にかかった胸毛をはらって去っていった。


ワシはチームを外された。
路頭に迷い、街を彷徨っていると、「おーい、フレディ!」と声をかけられた。
前にインタビューをした男だった。
「あ、この前はどうも…」
「あれ?フレディ、なんか元気ないじゃん!こっちはフレディに出会ってから、自分より毛深いやつもいるんだなって勇気づけられたよ!」
「それは何よりです…」
「辛気臭い顔すんなよー。あ、それよりフレディ、キャンディある?ほら、前みたいに胸毛から出してよ!」
「あ、今日はキャンディはないです…」
「え、ないの。じゃあ価値ないじゃん…。バイバイ」
男は去っていった。
ワシは悔しさに震え、ドンドンダン!ドンドンダン!地団駄を踏みながら街に消えた。




ワシのことを超一流であり続けさせてくださる読者の皆様に、いつも心からありがとうと言いたいです。