どアップ大将

ワシは地球に飽き飽きして、地球を見下ろしてみることにした。

地球では夜になるとお空にお月が見えるが、人々はそれを見上げるのだから、お月まで行けば逆に地球を見下ろせるのだねと思って、ワシは月まで行くことにした。

月に向かう途中、ワシはお空を突き抜けて、ついに宇宙へ出た。

段々と遠ざかっていく巨大な青々とした地球を見ると、ワシはいよいよ地球を見下ろし始めたのだなという気持ちになった。

どんどん遠ざかる。

ワシは気分良く月へと向かった。

果たしてワシは月に着いた。

地球から見るとまんまるでつるつるしていそうな月も、降り立ってみるとひどくデコボコであった。

こりゃあ4Kテレビのどアップには耐えらんめえなと毒づいた。

ふう、と一息ついて、ワシはついにこのお月から地球を見下ろすことにした。

さぞかし気分がいいだろうと思って地球の方を見ようとしたが、なんと、ワシは地球の方を見上げねばならなかった。

お月も地球を見上げていたのか。

地球もお月を見上げていて、お月も地球を見上げている。

人々は見上げられているとも考えずに、お月のことを見上げていたのだ。

ワシは急に恥ずかしくなった。

向こうからは見えないマジックミラーだと思って相手を気ままに観察しているのが実は見られていたような気持ちになった。

お月まで来てこれかあ。

なんだか小腹も空いたし飯でも食って帰るか。

ワシは適当に飯屋を探すと、小さいながらも雰囲気のあるラーメン屋を街角に見つけた。

ガラリと扉を開けて入ると、頭にタオルを巻いた大将がワシを出迎えた。

平日の閉店ギリギリだからか、客はワシ一人みたいだ。

「らっしゃい!」

「大将、この店で一番うまいのは、何ラーメン?」

「うちは塩ラーメンが自慢」

「じゃあ塩ラーメン!スープ抜きで頼んます!」

「うぃっすうぃっす!」

しばらく店内を見渡して暇をつぶしていると、すぐにラーメンができた。

「お待ちどうさま!塩のスープ抜き!」

「うひょー!うまそ!」

ワシは箸でごそっと麺を掴むと、一気にズルズルっと啜った。

味が全然しなかった。

ワシは大将に尋ねた。

「…あの、大将。これ、味しないんですけど…。」

「あ、いや、だってお客さんスープ抜きだって言うから…」

「あーはいはい、ワシのせいですね。この店の自慢は塩ラーメンじゃなくて塩対応かよ、くそっ。」

そう言い捨ててワシは店を出た。

すると後ろから大将が追いかけてきた。

「おーい!お客さん、本当にうちの塩ラーメンは自慢なんだ。スープだけでも飲んでみてくれ、ほら。」

そう言うと大将はワシにスープを差し出した。

ワシは人助けだと思ってスープを飲んでやった。

すると、本当に良い味がするじゃないか。

「…やりゃできんじゃん。」

「そうだろう!?そう言ってくれてよかった。」

「うまいスープをご馳走してくれたお礼と言っちゃなんだが、一発芸を披露するよ。」

「おっ、そいつぁ良いね!」

「じゃあ、いくぞ。フレディ・マーキュリーのモノマネ!『ワシはフレディ・マーキュリー!!ママ〜!ヴヴ〜〜!!』」

「あっはは、似てる似てる。でもボヘミアンなんたらは月じゃあんまり流行らなかったのよ。マーキュリーだけに、水星じゃ流行ってるかもね、ははは。」

「せっかく披露してやったのになんだその失礼な発言は!」

ワシはどんぶりの残りのスープを飲み干して、「やっぱクソまずい!」と言って立ち去った。

結局、今回の旅はあんまり良い思い出が残らなかったけどまあ仕方ないよねと思って帰った。

そういえば、ワシがこんなことをしているとも知らずに地球の誰かは月を見上げているんだなぁと思った。

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