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アートでまちを盛り上げたい!「町の小さな美術館」に込めた思い:創作画家 宮下由美子さん

皆さんはアートは好きですか。アートには、言葉では伝えられない深い感情や思考が込められていてます。アートに触れたことがない、興味がわかない方も、一度、心の扉を開いてアートの世界に踏み込んでみると、思わぬ自分自身と出会えるかもしれません。

宮下由美子さんは、“もう一人の自分がいる世界”を描く、創作画家さんです。けれど、宮下さんの画家人生は必ずしも順風満帆ではありませんでした。幼少期から自分の絵が周りに受け入れられず、一時、絵を描くことを諦めてしまいます。そんな宮下さんは、ある不思議な体験によって創作活動を再開。現在は、アートを通してまちを盛り上げようと、積極的に活動されています。そんな宮下さんが描く、”もう一人の自分がいる世界”とは。宮下さんのこれまでの人生と、「町の小さな美術館」開催への思いをインタビューしました。


”町の小さな美術館”は夢への一歩

名古屋コーチン発祥の地として知られる、愛知県小牧市。宮下さんは自宅の一室で、日々自分が伝えたいイメージを描いています。話しを伺ったときも、間もなく開催される展示会「町の小さな美術館」に向けて準備されている最中でした。この展示会には、「いつか、こまきアートプロジェクトを開催したい!」という宮下さんの想いが込められています。

「町の小さな美術館」は、小牧市中心街にある商業施設内のフリースペースを活用した展示会で、気軽に、誰でも、自由にアートを楽しんでもらおうと宮下さん独自のイベントとして開催。

こまきアートプロジェクトとは、「アートで小牧のまちを盛り上げたい」「自分のような無名な作家達が、もっと自由に作品をアピールできる機会を作りたい」「たくさんの人にもっと気軽に絵や作品を楽しんでもらいたい」。宮下さんが2年前から、思い続けてきたものです。

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今回開催される展示会には、宮下さんの作品のほか、現代日本画家の笹尾純子さんの作品も展示されます。

▼お二人の作品例はこちらの動画で確認できます。

・宮下由美子さん作品動画
https://www.youtube.com/watch?v=Ryn2GGed-lI
・笹尾純子さん作品動画
https://www.youtube.com/watch?v=dPe6aSDEJt4

そして、この展示会開催には、宮下さんがかなえたい、もう一つの夢が含まれています。

その前に、まずは宮下さんがなぜ画家として活動することになったのか。「幼少期から、自分の絵を誰にも認めてもらえなかった」という宮下さんの世界について、皆さんと一緒に体感したいと思います。

もう一人の自分の存在

三重県名張市。ここで生を受けた宮下さんは、幼いころから一人で過ごす時間が多く、空き時間があればいつも絵を描いていました。

ある日、自分が描いた絵を学校へ持っていき、クラスメイトに見せたところ、「そんな絵、自分で描けるはずがないやん」「どうせ描き写しただけでしょ」とからかわられ、誰も宮下さんが創造だけで描いた絵だと信じてくれませんでした。クラスで鳥の絵を描写したときも、みんなが羽を閉じた鳥の絵を描く中で、宮下さんはたった一人、翼を広げていまにも飛び立ちそうな絵を描きます。「おかしい、普通じゃない」と周りに否定されてしまいます。

”普通じゃない絵”ってどんな絵なのか。実際に宮下さんが描かれた絵を見せていただきました。

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世の中には、吐出した能力を持つ人もいます。例えば、瞬間的に見たものをそのままイメージとして記憶する能力のことを、カメラアイといいます。けれども、宮下さんの絵は、何かを記憶して描いたものとは思えないほど繊細で複雑。なぜなら、宮下さんが描く絵は、現実にあるものではなく、”もう一つの自分が存在している空想の世界”を映し出しているからです。

どんな風にその世界が見えるのか宮下さんに聞いたところ、常に後頭部辺りにいろんなイメージが上から降りてきて、フラッシュバックのように映し出されるとのこと、しかもそのイメージは毎回違っていて、降りてくるスピードもほぼ秒単位なのだとか。そのため、一瞬のイメージをすぐに描かなければ二度とそのイメージは現れないといいます。

インタビュー中、実際に宮下さんが描かれる様子を見させていただきましたか、下書きもない真っ白な紙の上で描写するスピードには、本当に驚かされました。

▼実際に宮下さんが描かれている動画。

現実にはない空想の世界を一瞬で描くことができる能力。そんな彼女の絵を批判し否定したのはクラスメイトだけでなく、担任教師や両親でさえも、宮下さんの才能を認めるどころか、全くの無関心だったといいます。

”誰かに自分のことを認めてもらいたい”__。

いつしか宮下さんは、もう一つの世界への入り口を自ら塞いでしまいます。

高校卒業制作に秘めた想い

世間の批判から、いったんは自由に描くことをあきらめてしまった宮下さんですが、その後、進学先の美術学校で、再び自分の世界を描くチャンスが訪れます。それは3年生の時に課せられた、卒業制作でのこと。宮下さんに与えられたテーマは、”自分の世界を描く”ことでした。

「製作期間がたった10日間しかなかったんですよ。絵を描くための道具類も取り上げられてしまうし、先生はわざと私に対して嫌がらせをしてるんだ!と、思いましたね。けれど思い返してみれば、当時、美術大学進学を拒んでいた私のために先生が与えてくださった、画家としての最終試験だったのかもしれないと理解しています。おかげでメンタル面も鍛えられましたし。(笑)」

▼宮下さんが卒業制作で描いたという絵画作品。タイトル「幻の逢瀬(おうせ)《終焉》」。

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画家への道を望まなかった宮下さんは、高校卒業後、画家とは無縁の人生を歩み出します。そんな”普通”を過ごしてきた宮下さんですが、ある不思議な体験によって再び”もう一つの世界”への扉を開くとは、誰も想像していませんでした。

「いますぐ描きなさい」その言葉で自分の世界が息を吹き返した

その日は、宮下さんが小牧市に住み始めて1年目のときでした。関西出身の宮下さんは、自分の言葉遣いや価値観が周りと合わないからと、人に避けられることを恐れ、家にこもって絵を描く日々を過ごしていました。そんな宮下さんにとって、唯一の楽しみが美術館巡り。

ある日、テレビCMで見た、平賀亀祐(ひらがかめすけ:1889年ー1971年)の作品展を見に、三重県志摩市の大王美術ギャラリーへ訪れます。大王崎町は、昔から画家のまちとして有名な場所であり、宮下さんは前から行ってみたいと思っていたこともあり、何かに引き寄せられるように現地へ足を運びます。

そして展示されていた一枚の絵を観た瞬間、この世に生のないはずの平賀亀祐の精神とつながります。

「初めての体験でした。絵を観ていたらいきなり平賀先生の思想のようなものが頭の中に浮かんで、気持ちが通じたんです!先生に、『君はなにが描きたいんだ』と聞かれこたえると、先生はわたしに向かって言いました。『いますぐ描きなさい!』と。自宅に戻ってすぐに絵を描きました。まるで呼び水によって勢いよく湧き出てきた井戸水が溢れだしたかのように、無心に描き上げましたね」

▼そのとき宮下さんが描いた絵がこちらです。「覚醒」というタイトルをつけられたこの絵を、宮下さんはわずか2時間で描き上げたのだとか。

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もしかしたら、この偶然のできごとは、宮下さんにとって必然だったのかもしれません。少なくとも私はそう思いました。

子どもの頃に抱いていた、「誰かに認めてもらいたい」という願いがようやくその「誰か」と通じ合えたことで、宮下さんの世界が再び解き放たれます!

自分にしか描けないたった一つの世界を描く

宮下さんの絵に登場するのは、もう一人の自分。その、”もう一人の自分”には、仮想の名前があり、アルファベットでもハングル語でもなく、発音できない言語。そのため、絵のタイトルも、全て描き上げた後にその絵を俯瞰してみることで、イメージされる物語を伝わりやすい言葉に置き換えるのだそうです。

また、宮下さんが描く絵の主役はすべて女性。昔から美しいものが好きで、母親という生命をこの世に誕生させることができる力は、ゼロから作品を生み出す作家のエネルギーにも通じるものがあるのだといいます。

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「わたしはただ、自分の中に確かに存在している世界を、絵という形で具現化しているだけなんです!」。そう熱心に語られる宮下さんのホームページには、このように書かれていました。

この世に存在する物の中で最も美しく神秘的なものは女性の体であり妊婦という認識から、生涯かけて自分の思い描く美の表現を追求して描き続けます。
現実には見えない、しかし確実に私の中に存在する世界、感情や願いのイメージを女神達の姿を借りでキャンバスに描きます。
宮下由美子さんHP「Karios]より

”自分の思い描くものを追求してこそ本来の絵”___この言葉の意味を次のように語っています。

「絵を描くことも観ることも、本来もっと自由でいいものなんですよ。その証拠に子どもが描く絵は、色が現物と違っていたり、そもそもなんの絵かわからなかったりしますよね。それを大人が勝手に間違っているからと、自分の価値観で勝手に評価したり正そうとしたりしてしまうから、備わっているはずの感性が磨かれないんです。だから、子どもの頃からなんでも自由な視点でものごとを見る力を養っておけば、大人になって直面する悩みや問題を、自分の力で解決できるようになります。だからこそ、わたしはアートプロジェクトで、もっと自由で描く楽しさをたくさんの人に伝えたい!」

幼少期に抱いていた、「誰かに自分の絵を認めてもらいたい」という想いは、「小さな町の美術館」開催という形で実現されようとしています。

絵を楽しむコツは「絵のなかを旅する」こと

実は取材をしたこの日、小牧市にあるメナード美術館へ、宮下さんと一緒に訪れました。この美術館には、宮下さんにとってイメージを膨らませる絵がたくさん展示してあり、縁もゆかりもない小牧市に引っ越してきた理由は、この美術館があったからだと言います。

そこで、これまであまり絵に感心が持てず、とりわけセンスもないと思っていた私に、宮下さんが絵の楽しみ方について教えて下さいました。宮下さんによれば、もともとある才能が「センス」であり、「感性」はセンスがなくても何度か繰り返すことで上達できるとのこと。また、絵を鑑賞するとき最も大事なことは、評価しようとしないことがポイントだそう。

例えば、風景画からはどんなシチュエーションがイメージされるか。描かれている人物や背景、空の色などいろんな要素を一つ一つかいつまんで自分自身のイメージを膨らませていくだけ。

「農夫の絵にいる二人は、実は上司と部下の関係で仕事が片付いたから早く帰れ!と上司に言われているのかも。上着を着ているシーンや、奥に見える家から煙が薄っすらと立ち上っているから、たぶん夕飯時ですね」
という調子で、宮下さんの言葉に合わせ、頭のなかでイメージを膨らませていくと、それまで見えてこなかったはずの絵の中の世界が広がっていくではありませんか!私はこの時初めて絵画鑑賞は楽しい!と思えました。

宮下さんが発する言葉には、ハッとさせられることがあります。今回、絵画鑑賞をしている時も、”絵のなかを旅する”という、これまで想像もしなかった言葉に出会うことができました。

普段アートに関心がない方や、絵の楽しみ方を知らない人も、宮下さんと一緒に”もう一つの世界を探す旅”に出かけてみてはいかがですか。心の扉が開かれこれまで見えていなかった世界に気づけるかもしれません。

「町の小さな美術館」について

☆2月7日(月)~13日(日)*開催済み
愛知県小牧市「ワクティブこまき」横のフリースペースにて
https://komakici.jp/from_group/event/infogroup20220110/

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宮下由美子さん作品紹介

・愛知県小牧市在住
・作品ジャンル:油絵・ペン画・デジタル画
・ホームページ:https://miya1125.wixsite.com/kairos

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