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『敵は、本能寺にあり!』 第九話『我欲の棲む城』

 信長の求めにより直轄地となったばかりの堺(大阪南部)、従来の独立不羈ふきを守る為、矢銭やせん要求を(軍費の為の税)拒否していた。

 阿波あわ(徳島)飛ばされた三好みよし氏は、そんな堺の不協和に目を付け助勢を依頼。
義昭よしあきの将軍就任後、わずか十日で信長が美濃みの(岐阜)帰還したと聞きつけ、吹雪の京へ乗り込んだ。

「信長様、光秀より報せが! 将軍 義昭よしあき様の居られる本圀寺ほんこくじを、三好が包囲し襲撃との事!」

「何っ――! クソッ、しぶといわ三好!!」

「光秀は、摂津せっつ河内かわちへも報せ(兵庫南部・大阪北中部)を走らせたようです!」

「承知した! すぐ京へ向かう準備じゃ!」

 京の本圀寺ほんこくじでは幕臣の藤孝ふじたかや光秀が応戦。光秀の近臣 左馬助さまのすけと、斉藤家滅亡により光秀の家臣に加わった 縁戚の利三としみつで報せの馬を走らせる。報せを受け駆け付けた摂津・河内の信長家臣が奮戦する中、大将 信長も大雪に見舞われた美濃みのから、直ちに八万の軍勢を携え京に急いだ。

 そして現れた巨軍を前に、三好の兵は震えおののき敗退――。
負け戦に加担した堺は、『矢銭やせん要求を拒否すれば、尼崎あまがさきと同じく街を焼き討ちにする』との脅迫に折れた。

 ◇

 就任後早速の襲撃に参る義昭は、恐怖に身を縮めて信長に擦り寄り、「帰らないでくれ。ずっと京にいてくれ……」と泣きすがった。あまりの狼狽ぶりに、政所執事まんどころのしつじ 晴門はるかどは、新将軍を叱責する。

 当の信長は、京に縛られるのだけは避けたかった。彼の主力軍勢は、尾張おわり美濃みのの武士が大半。皆を束ねる為にも、美濃を空ける訳にはいかないのだ。
勢力争いの最中さなか、在京して将軍の近くに控えるなど以てのほか
とは言えうして軍を率い、幾度も美濃みのと京を往復するにも、手間と大金が掛かる。兵を京に集めている隙に、領地へ攻め入られぬとも限らない……。

 おもんぱかった末に信長は、前将軍 義輝よしてる弑逆により、長らく建設が中断していた二条城を完成させる事にした。

「兄上が殺された城など縁起が悪いではないか」

 贈られる立場ながら文句を言う義昭を余所よそに、一から築き上げるつもりは毛頭ない。
しかしながら二重の水堀で囲い、高い石垣を新たに構築するなど、しっかりとした防御を格段に充実させ、天守がそびえる立派な城を完成させた。

 いたく感動した義昭は、信長が京を去る日、大粒の涙を流して感謝し、門外まで連れ添うばかりか、春の木漏れ日に照らされ輝き放つ背中が彼方に消えるまで、袖を振り見送ったのだった。

 しかし、義昭の持つ強い依頼心は、とどまる所を知らない――。



“本能寺の変”には『黒幕』がいた――。
この作品は史実を基にしたフィクションであり、作者の妄想が多分に含まれます。何卒ご容赦頂けますと幸いです。

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