見出し画像

シークレット・オブ・ジェネシス 第77話『新たな能力の発動』

【イーリス暦5025年4月23日】
 《蒼玉 亜空間渦穴 通過中》

 マルズ国に2日間滞在した後、ミロク国へ移動して数日調査をし、現在彼らは南極点に位置する“ポリアフ島”へ向かっている。
その島は雪と氷で覆われ、凍てつく空気に支配された危険地帯だが、それを承知で足を踏み入れるのには然るべき理由があるのだ。
それは、地上から隔絶されたポリアフ島の氷底下4km地点に存在する巨大な湖 “サラスヴァティ湖”に、『地底世界の入口がある』との情報を得たからだった。

 そんな謎に満ちた氷底湖を調べるには氷透過アイスレーダーと呼ばれる高度な機器が必要だが、彼らには別の秘策がある。


 ◇◇◇


 ―5日前―
【イーリス暦5025年4月18日】
 《蒼玉 マルズ国 首都クリンゲル奥地 小型CUBE内》

「素晴らしいわね。プラーナを自由自在に操るのは、すべての基本よ。
エナジー操術を使えるようになるには、プラーナの循環であるチャクラの感覚を掴む必要があるの。」
早朝からプラーナの鍛錬に付き合っていたリルアは、彼らの凄まじい成長速度に驚く。
やはりムーの霹靂かむとけの力なのか、少しコツを教えれば プラーナを高めるところまで、皆いとも簡単にやってのけた。

 褒められて気を良くしたアサトは、昨夜の話を思い出しながら、「俺らもきっとハルセさんたちみたいに 第6の花ブラウチャクラまで開花できるよな!」と皆を鼓舞するのだった。

 そこへ起き抜けのオリビアが現れ、やや興奮した様子で話し出す。
「また夢を見たの!その中でリュウセイはバーボンを口に含み、私の脳から抜き取った記憶をヒデさんに移植してた――。
私は夢の中のリリィに頼んで“魔道薬術”
薫衣草ラーヘンデル』でリュウセイを眠らせてもらい、“夢幻術”『胡蝶の夢シュメッテルリング』を発動して彼の夢に入った。
それで分かったのは、彼が使った能力が
妙術みょうじゅつ”『聖霊玉蜀黍解除センテオトル』という、玉蜀黍トウモロコシの聖なる力を借りて、あらゆる障壁を解除アンブロックし通過させる術だという事よ。」

 その知らせにハルセも舞い上がり、リュウセイの肩に腕を回して歓声を上げた。
「すごいじゃん!じゃあリュウセイくんは妙術を使えるようになるんだね!
オリビアの夢幻術で同じように他のみんなの能力も分かれば、開花が早まるかもしれない!」

 勢いよく期待の視線がオリビアに突き刺さり、彼女は珍しく弱気になる。皆の温度に反して、一気に彼女の表情は曇った。
「そう上手くは見れないわ……。まだ術を扱いきれてないから。」


 ◇◇◇


 ―3日前―
【イーリス暦5025年4月20日】
 《蒼玉 ミロク国 首都クニツ郊外 小型CUBE内》

 昨日、彼らはオリビアとリルアの能力で作った亜空間渦穴を通り、マルズ国からミロク国へと移動した。
小型CUBEでの移動も考えたが、ここ数日調査を行う中で、一度も飛行する乗り物を見る事が無かった為、目立つのを避けたのだった。
ちなみに見かけた乗り物といえば、翠玉のセグウェイに似たものとモノレール、船の三つだけであり、車や自転車、飛行機など当たり前にありそうなものがここにはない。
モノレールと船は『世界機構』の管理下にあり、セグウェイも『世界機構』から支給されたものらしいのだ。

「これはあくまでも僕の肌感なんですが、蒼玉には研究者気質の民が多い気がします。」と、ケイキが控えめに報告をはじめる。
タカヒデはそれに優しく頷き、「そうだね。何となく僕も感じてたよ。」と同調した。

 ハルセは集まった情報をタブレットに入力しながら考え込む。
「うーん。蒼玉の民の中には地下都市や地底王国を疑う者が多くいる事も気になるなぁ……。」

「具体的にはなんで疑ってるのかしら?」とオリビアは皆の顔を見回して尋ねる。
彼女とリルアは夢から探る役目を任され、ほとんど街へは出ていないのだ。
ハルセの隣でタブレットを覗き込みながら、同じように思索に耽っていたアサトが、しばらく経ってからその問いに答える。

「俺が酒場で聞いた話では、アポカリプティックサウンドが聞こえると言ってるグループがいた。
それは世界の終焉の音ともいわれ、重厚で不快な音らしい。
その不気味に響き渡る音は、どこから発生しているのか分からないみたいなんだけど、大きな地下空洞の中で発生している音だと、強く訴えかけてくる客もいたんだ。」

 皆一様に頷き、思い思いに頭を働かせる中、次に沈黙を破ったのはタカヒデだ。
「そういえば、地震が増えたって話を聞いたな
ぁ。この国では特に南西部で増えてるらしいんだけど、活断層やプレートの影響を受けない地域だからおかしいって……。」

「地下都市や地底王国の何かが、音や揺れの原因だと思ってる訳ね。やっぱり地下で何かが起きてるのかしら……。」とオリビアはKAGUYAたちの元へ物理的に辿り着く方法や、彼女たちを縛りつけるモノに繋がる何かを見出そうとするが、考えがぐらつき定まらない。
泡のように浮かんでは消える掴めない糸口に、誰もが精神を摩耗していく。不慣れな環境での敵の見えない闘いは、想像以上に彼らの心を蝕んだ。

 どうにか空気を変えようと、ケイキは俯いたまま静かに話しはじめる。
「地下だけじゃなく、海上でもおかしな事が起きてるみたいですよ。
魔の三角地帯トイフェルスメーア』と呼ばれ、恐れられている海域があるそうで――。」

 皆にリラックス効果のあるセントジョーンズワートティーを配り終えたリルアは、ケイキの隣に腰掛けた。
「『魔の三角地帯トイフェルスメーア』?
聞いたことないわね……。翠玉には無かったはず。」
彼女は瞬きも忘れ、ケイキの話に引き込まれていく。慎重に言葉を選びながら、低く落ち着いた輪郭ある声で紡ぐ話し方は魅力的で、歌わずとも独特の色気が漏れ出すのだ。

「うん。おそらく蒼玉だけのものだと思う。――それは北半球の大陸にあるアーレウス国のアドラメレク半島の先端と、南半球の大陸にあるマルズ国のグリゴリ岬、それにミロク国最南端の島マジムン島とを結んだ、広さ130万k㎡の三角形の海域。
濃い灰色の雲や霧が突然現れ、異常な大波が立ち、コンパスや計器に異常が生じることから、古くより船の事故が多発していると聞きます。
また、通過中の船舶が突如何の痕跡も残さず消息を絶ったり、稀に乗務員のみが跡かたもなく消えるなど、科学的に解明できない怪現象が起こるとも……。
残骸一つ見当たらない消息不明事件が世界中のどこよりも多く起きているという噂ですが、『世界機構』から何らかの発表などは一度もないそうです。」

「三角が生む波動が一番強いと、前にKAGUYAから聞いたような……。」と呟き、ハルセは額のあたりに手を当てキュッと瞳を閉じたまま静止した。そして華奢な長い指だけがリズムを刻む。

「『魔の三角地帯トイフェルスメーア』に行ってみない?」
「船はどうする?すべて『世界機構』の持ち物だ。」
何かが変わる気がしてリルアは提案したが、タカヒデは現実を突きつける。
それにはオリビアも口を揃えた。

「そうね……。たとえ亜空間渦穴で辿り着いても、プラズマ亜空間を形成するスキルはないから、結局のところ船や足場が無い海上に降り立つ事はできない。」

 しゅんとするリルアを見兼ねて、リュウセイはどうにかできないか必死で考えを巡らせる。
リルアに笑顔でいてほしいという想いは、どの世界線でも変わらないのだ。

「なら、せっかくミロク国にいるんだし、三角形の一角である、ミロク国最南端の島『マジムン島』へ行ってみるのはどうだろう?
ヒデがさっき言ってた、地震が増えているミロク南西部とも重なるし。」


 ◇◇◇


 ―2日前―
【イーリス暦5025年4月21日】
 《蒼玉 ミロク国 最南端の島 マジムン島 小型CUBE内》

「うわっ、また揺れた――!」
「分かってはいても驚いてしまうな。」
島内の探索に出掛ける準備をしながら、度々起こる地震に肝を冷やす。
そこへ弾ける笑顔のオリビアが飛び込んできた。

「みんな聞いて――。リュウセイが“妙術みょうじゅつ”『聖霊玉蜀黍解除センテオトル』を会得したの!」

「リュウ!すごいじゃないか!たったの3日で!?」
タカヒデはすぐに駆け寄り、顔をくしゃくしゃにして友を讃える。

「いや、バーボンって聞いて、なんとなく思い当たる感覚があったんだ。確信はないけど、僕はパラレルワールドで知らず知らずのうちに妙術を使っていたのかもしれない……。
その感覚を呼び起こしながら練り上げていくと、自分でもよく分からないけど驚くほどすんなりと扱えて。
何より、リリィとオリビアが練習に付き合ってくれたおかげだよ。ありがとう。」
リルアはその言葉に軽くハグをし、オリビアも笑顔で首を振ってから話を続けた。

「それともう一つ。また夢を見た――。」
途端、皆一斉に息を呑む。
「――今度はヒデさんの夢だった。
もちろん、同じ要領で突き止めたわ。
ヒデさんの能力は、超視覚能力クリアボヤンス
透視や遠隔透視千里眼ができるの。
おそらく初めのうちは遠隔透視千里眼は難しいと思うけど、ムーの霹靂かむとけの恩恵は確実にある気がしてる。

 テスカさんに、私とリリィは“彩の血”の力なのか、とてつもないエナジー操術の資質を生まれ持っていると言われた。
それでも“虚空界アーカーシャ時間減速ティーフゼー』”の中で1ヶ月相当の鍛錬を積み、なんとか 第6の花ブラウチャクラを開花できたの。
ハルセはおそらく夢の中でKAGUYAとの親和性が高まり、エナジー操術が自然と磨かれたことで 第6の花ブラウチャクラまで到達したんだろうとテスカさんは推察してた……。それは数百年相当の時間的感覚よ。

 ムーの霹靂かむとけにはそんな私たちを遥かに凌駕するスピードで、能力を目覚めさせていく威力を感じる。
中枢神経に作用し、脳の神経細胞が成長する事で新たな知識の回路が開き、感覚は研ぎ澄まされ、スピリチュアルな共感力や発想力も上がるという効果は本当だったみたいね――。」

 オリビアの熱弁が続く中、リルアがトレイでグラスを運んできた。その手は少し震えている。
「バーボンの準備ができたわ。」

 それを聞きオリビアは目を閉じ、長い深呼吸をしてからクッと目を見開いた。
「じゃあ、今から夢を再現する――。
私が見た超視覚能力クリアボヤンス発動方法を、ヒデさんの脳内にリュウセイの“妙術みょうじゅつ”『聖霊玉蜀黍解除センテオトル』で移植する。そうすることで熟達速度が格段に上がるとみてる。
ヒデさん心の準備はいい?」

「ああ。信じてる。いつでも平気だ。」
リュウセイはタカヒデと固い握手を交わした後、バーボンを口に含んだ。



 この物語は、かつてクロノスSLABs内で起きた謎の事変に基づき制作した、フィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

宇宙SF

まだまだ未熟な私ですが、これからも精進します🍀サポート頂けると嬉しいです🦋宜しくお願いします🌈