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手仕事の技術は固体なのか、液体なのか。

liloの古谷です。

日本の手仕事を守ろう!後世に残していこう!世界に広めよう!という動きは日本全国でたくさん起こっており、それによって復活を遂げた工芸はたくさん存在しています。
この素晴らしい世の中の風潮を少し違った目線から見て、手仕事の技術を守ることの難しさについて考えていきたいと思います。

軽く自己紹介をしておきます。
私は、1994年生まれの現在26歳です。たぬきの焼き物で有名な滋賀県は信楽町で地元の産業である信楽焼の卸売商社の3代目として生まれました。
家業がある家庭に産まれた者の例に漏れず、一度は家業に関わることを拒み名古屋で大学生活を送ったのち、そこで急速に失われている日本の手仕事や技術の現実を知り半ば衝動的に信楽へ帰り家業を継ぎました。そしてそこから感じた想いや使命感をliloという日本の手仕事にフォーカスした事業に投じています。

liloのデザインに携わる身として、様々な作り手の方や技術の現場に触れている今、陶器屋の3代目として産まれた私の目を通じて感じる手仕事を守ることとはどういうことなのか、考えを記してみようと思います。


手仕事は固体か、液体か。

私は現在、主に滋賀県に残る工芸品を見て周り様々なお話を伺っています。
その中で手仕事の技術は絶えず様々な要因を持って流動している、まるで液体のようなものという印象を抱いています。

以前、滋賀県中東部にある近江の麻布の産地に出向き、様々なお話を伺いました。
ここでは太古の昔より、今でいう大麻を使用した織物が作られています。大麻の繊維は非常に強く、柔らかな布地に織り上げるのにとても高い技術を必要としますが、この地では長年培ってきた技術力によりしなやかでシルクのような肌触りの織物を仕上げることに成功。そして、この地に根ざしていた近江商人の尽力により全国に広く流通し、一大産業に。大麻の織物では国内唯一の皇室献上品にも指定されていた過去を持ちます。この地にルーツを持つ大企業は多数存在し、伊藤忠商事、日清紡、羽毛布団で有名な西川株式会社など錚々たるメンツです。

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私はこの布地の手触りに今までの麻織物の常識を覆されたような感動を覚え、様々な文献やお話を元に麻織物のルーツを探ってみました。
しかし、いくら探せど探せど、なぜ、この地でこの産業が興ったのか、確たるものに出会うことができないのです。ここに、私が手仕事を液体だと感じた原因があります。
古来の日本では大麻は全国的に広く自生しており、民衆の日用品として幅広く使用されていました。麻布製の衣服はお金を出して買うものというより、家庭内の仕事として作るものという捉え方をされていたようです。

そうなると、親から子へ、子から孫へ、その織り方などの製法が口承にて、文字に残らない形で伝わってきたのです。手から手へ、文字や絵を介することなく技術のみが伝わってきたと言い得ます。これにより、その人のクセやその時代の気候条件、社会情勢などによってどんどんその形を変化さていたのです。
手仕事の技術は定義されることなく、常にそれに携わる人の手や頭のなかに住み続け、流動的に伝わっていったのです。

そこに、資本によって評価されるという一つの大きな契機を迎えます。江戸時代中期、巧みな行商技術を身につけた近江商人たちがこの素晴らしい麻布を全国に売り歩き、大ヒットを記録します。

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引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%91%E6%B1%9F%E5%95%86%E4%BA%BA
江戸時代から活躍した近江商人です。商売に対する哲学がとても深く、勉強になります。。。


そうなると、今までは家庭内で作り、家庭内で消費されていた技術に資本的価値がもたらされるようになります。そうなると、増産し、品質を高いレベルに保つ必要が出てきます。ここで初めて、近江の麻織物が定義されることになったのです。
そのブランド力の保持のため非常に厳しい品質基準を設け、この品質以下は近江の麻布と銘を打てないというルールが生まれます。これにより、近江の麻布は高い評価を受けると同時に、絶えず流動的に伝わってきた技術ではなく、ある一定の基準が存在し、製法が定義された固体に生まれ変わったのです。

全国に今尚残っている工芸品のルーツを探っていくと、このような形をとっているものが少なくありません、資本主義の概念が、本来液体的なものである工芸品の技術を固体化し定義づける必要に駆り立てたという流れが見えてきました。

手仕事を外的要因で固体化する危険性。

皆さんは地理的表示(GI)保護制度をご存知でしょうか?農林水産省が取り行っている制度で、地域に根付く伝統的な生産方法などを知的財産として登録し、保護する制度です。
これにより国内に残る伝統産業の数々がブランド化し世界に広く広まるための足掛かりとなるものです。しかし、一見素晴らしいこの制度ですが、言い換えると外的要因によって手仕事を固体化する制度と言えるかもしれません。

私は大学生活を名古屋で過ごしていましたが、愛知県出身の友人たちは口を揃えて八丁味噌は愛知の誇りだと話してくれました。ある友人が教えてくれた話なのですが、その八丁味噌が、この制度によって危機を迎えています。

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引用:https://travel.navitime.com/ja/area/jp/guide/TBNarticle11368/
八丁味噌の味噌樽です。迫力です、見に行ってみたいですね〜


八丁味噌は他の味噌より長期間天然醸造され、木製の樽の中で特殊な組み方をしたおもし石によって均一に圧がかかり出来上がるという、まさに代々の技術の伝承により成し得た今に残る素晴らしい味の一つです。現在では、伝統的な製法を守る2社によって大切に八丁味噌の名を後世に伝えていて、愛知県の小中学生は必ず八丁味噌の味噌蔵に遠足に行くそうです。
そんな八丁味噌ですが、現在このGI制度により名前を守り続けてきた二社のみが八丁味噌の名前を使えなくなってしまうという事態に陥っています。
詳しい経緯は省きますが、伝統的な製法でなくても、似たような製法をとっていれば八丁味噌を名乗れるというように定義をされ、その製法では品質が著しく低下してしまうと抗議した元祖八丁味噌二社が弾き出された格好になったのです。

日本の伝統産業をブランド化するにあたり、内情やここまでに至った経緯などを無視して定義づけ、固体化してしまうことにより今までその技術を守り続けた人たちが守り続けた意味を失うという、心情を思いはかると胸が締めつけられるような出来事です。

前項の近江商人のような、理解ある固体化その技術に正当な価値をつけそして流布する。この流れには私は大いに賛成です。しかし、内情に理解ないまま、ただ制度に乗っ取っただけの定義づけはどうでしょうか?
今日に至るまで、液体的に流動してきた手仕事の技術は理解なきまま安易に固体化できるようなものではないということは、この問題からはっきりと読み取れます。

手仕事を守ることとは。

今までは手仕事の技術を液体化、固体化として話してきましたが、この章ではそんな手仕事をどのようにして守るべきなのか考えていきたいと思います。

手仕事の固体化=守ることだと私は考えています。

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近江の麻織物のように、流動的に伝わってきたものはふんわりとした名前はあるものの、確たる名称を持っていなかった場合がほとんどです。
そこに名前を与え、定義をつける。その行為は、その場所で技術を枠にはめ、保存することだと私は感じます。


私は信楽焼の卸売商社の3代目として生まれ、手仕事の現場に比較的近い場で育ってきました。その中で、ベテランの作家さんが口を揃えて話すことは
最近の若手は下手くそだとか、伝統を理解していない。といった類のものです。
この傾きは様々な手仕事の現場で見られますし、なんとなく想像がつく方が多いのではないでしょうか?
これは、ベテラン作家さんの中での信楽焼の定義が固体化されているからこそ起こることなのではないかと考えます。時代が変われば求められる技術も変わってくる。その変化は信楽焼と定義づけられ固体化された中でもじわじわと起こっていて、長い年月が経ち振り返ると大きく違ったものになっているということなのかなと思います。
私の好きなHIPHOPではそれはより一層顕著で、半年単位でHIPHOPの定義が覆っています。2年前の音楽がもう化石化しているような急速さです。
正直に言って、今のHIPHOPの最新のシーンを見ても理解できないことが多く、取り残されたなあとしみじみと思うことがあります。

固体化し、定義づけられたとしても、やはり技術は絶えず流動的に揺れ動いていると言えますね。

固体化したのに、その殻を破って動き続けるものに対し、どう守り、どう接して行けばいいのでしょうか?

私は、そもそも時間が経てば自分の定義が世間の定義から外れてしまうことをポジティブに捉えるべきなのではないかと考えています。
それは、進化であり、動き続けられるだけの元気がある=世の中から求められていると考えられます。
自分が伝統を守り、後世にバトンタッチを無事に、最高の形で終わらせたからこそ、形を変えることができるというわけです。

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そうは頭で理解していても、いざ、私がその場に立ち会ったらそのような態度を取れるのでしょうか。
若い今だからこそ言えることなのかなとも思い、このnoteを終わりにしたいと思います。


私がデザインを担当しているliloは日本の手仕事を再解釈し、現代の生活に溶け込む道具たちを作っています。

ぜひ下記リンクからHPをご覧ください。

https://li-lo.jp/

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