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「正欲」から学ぶ「多様性」

「欲」。それはあらがい難く、本能的レベルで求めてしまう生理現象。
そして、それは形取る文字さえも、例外ではない。タイトルをみた瞬間から生理的レベルでそそられた。

朝井リョウの作家10周年記念作品『正欲』。この作品は、性的マイノリティに焦点を当てて、彼らの生きづらさを描いている。
「多様性」といういかにもキラキラした言葉の影に潜んでいる陰の部分に目を向けた作品。

みんなちがってみんないい。
多様性を尊重し、誰もが生きやすい社会に。
今の世の中には、そんなスローガンの下、社会を形成していこうとする風潮がある。


本書は、この「多様性」を都合の良いマジョリティが作り出した言葉で、平等に見えて実は支配的であると説き、呑気に多様性を語るマジョリティにメスを入れている。

この「多様性」。
一般的にLGBTQなどの性的指向や発達障害からくる特性等がイメージされやすいが、多様性を尊重するというのは、それらのマイノリティをマジョリティが許容するという支配的構図を暗に秘めていることを本書は教えてくれる。

また、私たちは、多様性を「自身が想像し得る範囲で」かつ「受容可能な範囲で」という前提ありきで捉えており、想像を絶するほど理解しがたい、直視できないほど嫌悪感をいだき、距離を置きたいと感じるようなものには、しっかりと蓋をしている

ということに私たちは気付いているのかと問いかけてくる。

息継ぎをしないと読み進められない苦しさがあり、読後は疲労困ぱい。

想像力の欠如や限界をかえりみず、わかったような気になりながら、時代の風潮に乗っかっていた自身に自己嫌悪を感じる。

ソクラテスの哲学に「無知の知」と言う概念がある。
「自分には知らないことがある」ということを「自覚する」ということである。

想像力にも限界がある。
しかし、そのことを常に自覚し、想像力を働かせる続けることは必要だ。

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