Lilium

白百合の乙女達のバックグラウンドストーリーを公開してまいります。更新は不定期となります…

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白百合の乙女達のバックグラウンドストーリーを公開してまいります。更新は不定期となります…!

最近の記事

夢の先に─鹿倉静

また、あの夢で起こされる。 静寂に包まれる武道場。呼吸を整えて竹刀を握り直す自分。2対2でもつれ込んだ大将戦。 これに勝てば全国大会出場だ。 中学最後にやっと辿り着いた大舞台。命運は自分の手に握られていることに胸を躍らせていた。勝利の確信は最後まで揺るがなかった。 嗚呼、間もなく訪れる。 もたらしたのは驕りか、過信か。ほんの少し踏み込みが遅れたのを相手は見逃さなかった。虚を突かれ、絶対の自信で固められた地盤が揺らいでしまえば最後。「鉄の剣士」の異名など脆くも崩れ去り、そ

    • ラプソディー・イン・オレンジ─橘実乃梨

      マグカップにぬいぐるみ、ハンカチ、スイーツ、アクセサリー。 ねえ可愛いでしょう、綺麗でしょう、ほらほらわたしを買って、とかなんとか言われてる気分。きらきらお目目のビーム付きで。 けれどもなんだかどの商品もしっくりこない。はっきりと感じているのは溜まっていく脚の疲ればかりだ。 軽快な店内BGMと一緒に、考えがぐるぐると頭の中を巡っては消える。そう、それはまるでラプソディーのように……なんて詩人ぶってる場合じゃない!どうしよう! 「それで、どうなのよ実乃梨?一通りめぼしいお店

      • フラワーギフト─五十鈴透子

        誕生日を迎えるたびに花が贈られた。 始まりはダフニー、次はフェリシア、そしてアイリス、オクナ、リスラム、リクニス。今年は。 12月24日。クリスマス一色に彩られたいつもの道を、変わらないいつもの貴女と歩く。 手には学校鞄と袋を2つ。同級生のあの子達が贈ってくれた誕生日プレゼントだ。 ふわりからは手作りのスノードーム。真ん中の雪だるまは私をイメージしたそうだ。ハンドメイドが得意なあの子らしいプレゼントだと思う。 朝香からは見るからに高級そうなお煎餅のギフト。「甘いものの後に食

        • ハナミズキの栞─藤代麻奈佳

          チン。 オーブンが軽やかに焼き上がりを告げた。蓋を開ければ一気に甘い香りに包まれるキッチン。 トレイをそっと取り出し、綺麗に並んだクッキーの焼き上がりに思わず「よしっ」と笑みがこぼれる。 明日は合唱部のハロウィンパーティー。 発表する歌の最終調整もしっかりできたし、瑛子ちゃんのメイク講座も楽しかった。衣装の準備もできている。 さあ、最後にもうひと頑張り。 焼き上がったクッキーへ慎重にデコレーションを施していく。大切なあの子の、太陽みたいな笑顔を思い浮かべながら。わたした

        夢の先に─鹿倉静

          追憶─佐伯薫

          夢かと思ったの。 もう二度と会えないと思っていたから。あの夏だけの思い出だと、胸の奥にしまっていたから。 背の高い後ろ姿。まだ新しいスカートのプリーツが揺れた。 気付いてみたら桜は散り始まっていて、自分ももう高校2年生になっていた。幼稚舎からずっと同じ学び舎にいるものだから新年度の新鮮さはとうの昔に無くなり、何の変わりもない穏やかな学校生活を送るだけだった。 入学式から数日経ったある日の昼休み。何やら外部入学の新入生がとても格好いいと噂になっていたから、気まぐれで1年生の

          追憶─佐伯薫

          追憶─依田瑞樹

          放課後、少し傾いた陽が図書室に長い影を作る。皆が思い思いに過ごしゆったりとした空気が流れるこの時間は心地が良くて好きだった。 本棚を渡り歩き次に借りる本を選んでいると、脇から小さな手が伸びてくる。目をやると懸命に一番上の段にある本を取ろうとする生徒の姿。まだ小さい、1年生かな。 「これ?」と目当てであろう本を代わりに取り差し出すと、彼女は顔を真っ赤にして小さくお礼を口にし足早に去っていった。 ……たまには役に立つな、この背も。 長い間コンプレックスだった、嫌でも目立つこ

          追憶─依田瑞樹