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宇宙のインクと、月とコーヒー。

ふと立ち寄った本屋さんで、好きな作家さんの短編集を見つけました。

「月とコーヒー」 著者 吉田篤弘

吉田篤弘さんの本を始めて読んだのは
まだ植物園に勤めていた頃ですので
もう20年近く前でしょうか。
新聞の紹介欄で見かけたのがきっかけです。

それからというもの、図書館で見かけるたびに
片っ端から読んでいきました。
(書店に置いてある所は、なぜかあまり見かけなくて)

それなりに色々と読書する私ですが
吉田篤弘さんのお話は、
なんというか
空気感が好きなんですよね。

かもめ食堂とか、
あのあたりがお好きな方は、
お分かりいただけるのではなかろうかと。
あえて崩した文体がまた
なんともニクイ感じで心をくすぐるのです。

さて、寡聞にして知らずにきたこの本。
「月とコーヒー」というタイトルですから、もちろん読むのは夜です。とある風の強い夜、私はいそいそと夜の空色の表紙を開きました。

そもそも吉田さんの本はすべて、
夜に読みたくなるものばかりなのです。

短編集なので、そう時間もかからず読み切ってしまいました。

相変わらず私の好きな感じのお話です。この、ひとつひとつ独立した雰囲気がありつつどこかでつながっている、みたいなそんな感じがまさに「この世界」を表しているようで。

今回は特に「青いインク」のお話に、「ああ」と思ったものです。

いや、「甘くないケーキ」とか「映写技師の夕食」とか「黒豆を数える二人の男」とか他にも色々、いや全部好きなのですが。

満足して読み終えて、あとがきまで読みました。

すると、私はそこで泣くことになったのです。
大袈裟ではなく、
「これを読むために私はこの本を買った」
と思いました。

あとがきの中の、ある部分に、こう書いてありました。

おそらく、この星で生きていくために必要なのは「月とコーヒー」ではなく「太陽とパン」の方なのでしょうが、この世から月とコーヒーがなくなってしまったら、なんと味気なくつまらないことでしょう。生きていくために必要なものではないかもしれないけど、日常を繰り返していくためになくてはならないもの、そうしたものが、皆、それぞれにあるように思います。

私はこの部分を読んで、涙が溢れたのでした。そしてその「月とコーヒー」の部分を感じ、この著者さんの本が好きなのだと。

世の中に必要なのは、確かに太陽とパンです。それがなければ、人は生きていけません。

特に、今まさに生きるか死ぬか、そんな瀬戸際にある方には、太陽とパンがあるかないか、それは命を左右するほど大切でしょう。

でも、確かに、月とコーヒーも大事なのです。

これからどこへ行くのか、自分でも分からないほどの真っ暗闇の中、頼りない足元を照らしてくれるのは、太陽の強い光ではなく月の控えめな光。

くたくたに疲れ切って、やっと一人になれて、そこで一息つくとき、隣に無言で寄り添ってくれるのは、パンではなくコーヒーの香り。


私はこの部分を読んだときに、たしかに「陰と陽」を見た想いがしたのです。

陽だけでも、
陰だけでも、
世界は作り上げられない。

どちらもあって、
どちらの要素の中にも
どちらかがある。

それこそが世界なのではないかな、と。

陽が目に見える世界なら、陰は目に見えない世界。どちらも世界で、裏表。



さてさて、なんにしても、とても面白かったです、「月とコーヒー」。

ハラハラどきどき、スリル満点!
とかではないですが、寝る前のひととき、子守歌がわりのお話に、本当にぴったりな一冊ですよ。

そういえば、「アラビアンナイト」ももともとはそういう寝物語なんですよね。千夜一夜物語、といいます。今度読んでみようかな!

最後の最後に、「月とコーヒー」の中で何度も登場するサンドイッチの写真を置いておきます。
ちなみにこれはパン屋でバイト経験のある夫作です。
美味しいです(笑)

BLT焼きサンドです。つま楊枝つき(笑)


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