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肌触り

僕は上田くんと仲が良かった。
小学校のころよく遊んでいた上田くんは中学に上がると不登校になってしまった。
小学校からの友人達が遊びに誘っても誘いに乗らない上田くん。そんな中僕の誘いにだけは応じてくれていた。学校に来いよとも言わずただ普通にゲームをするだけの僕が楽だったのか、何故僕とだけ遊んでくれるのかはよくわからなかった。ただその時間はお互い心地よかったように思う。
ある日学校の先生が上田くんと僕が遊んでいると聞きつけ、一緒に上田くんの家に行かないかと誘ってきた。4時間目の体育の終わり、みんなの前で誘われる。
「おい、のだり!一緒に上田の家に行かないか?」
僕はドキリとした。みんなの視線を感じる。一刻もはやくこの注目から逃げ出したかった。
「嫌だ!行かない!」
僕は反射的に断ってしまった。
先生は驚きもう一度誘ってくる。
「上田の友達だろ!一緒に来てくれよ!」
僕は顔が熱くなり鼓動がはやくなるのを感じた。しかしそれを他の同級生に悟られない様必死に抑え言葉を発する。
「行かない!」
僕は足早にその場から立ち去る。
それ以上先生は何も言わなかった。
体操服から制服に着替えながら思い返す。
断らない方がよかったんじゃないだろうか?
僕は自分が不登校の上田くんとつるんでいると周りにバレ動揺したのだ。自分までからかわれるのではないか?先生の言うことを聞くいい子ちゃんだと思われるんじゃないかと。自分の保身のために上田くんを裏切ったのだ。そう思うと自分を包む空気が重さを増しベトベトとした罪悪感が体育終わりの汗と混ざり、より一層気持ち悪かった。
その日以降上田くんの家に行く事はなくなった。
誘っても応じてくれなくなったのか誘わなくなったのか大人になった今では覚えていない。
ただ上田くんを裏切った時の気持ちの悪い肌触りだけは今でも残っている。

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