「無」の魔王「第一話」
彼は待ちました。森の中で焚火を眺めつつ見つけた食料を焼いています。
今日まで待ち続けてどれだけ経過したか彼は覚えていません。もうこの夜も何度拝んだすらも忘れている。
いや覚えようとしていないだけなのかもしれない。
そんなことを説明している間にも周囲には食欲を抑えられずによだれが雨の日に屋根から落ちる雨水の雫のよう流している魔獣たちが私を狙う視線を向けています。
ですが最初の頃に比べれば魔獣たちの動きはマシにはなっている。最初の頃は容赦なく襲い掛かっていた。その都度彼は返り討ちにしていました。
ではなぜ彼がそのようなことになってしまったのか説明しましょう。
これは彼が仲間たちと共に魔王討伐のために森の中を探索していました。
そんな彼の名前は上家ムイカ。
彼はパーティーでの荷物持ちをしています。他にも見張り番や料理当番などの雑用もしていました。
すると一番前で前進している男性が急に座り込んで声を荒げました。
「あーもう疲れた! どんだけ広いんだよこの森!」
感情を露わになるほどに声に出しているのはむいかの双子の兄の上家カムイ。
彼は王から勇者と告げられたパーティーのリーダーです。
彼の持つ剣も鎧も全て王国から特注で制作されたものだ。
そんな彼はいつにもまして怒りを露わにし、勇者という肩書きからは不相応な態度をしていました。
「ちょっといい加減にして! ただでさえ魔獣がいつ現れるか分からない森の中で変な行動しないでよ」
カムイを叱っているのは凛とした姿が美しいを思わせる立ち振る舞いをしている一条文華という女性です。
彼女は10万に1人と言われる『ウェポンマスター』のジョブを持っています。一条は元の世界では学級委員を率先してするほどの優等生だ。
そのような性格だったから異世界の人々にも受け入れられている。
カムイは一条からの言葉に気だるそうな声で返事した。
「んなこと言っても今日で森に入ってもう3日になるじゃないか! 流石に我慢の限界になるって決まってるだろ!」
そんな情けない言葉を並べるカムイを言葉に一条は逆上してさらにお叱り言葉が続いた。
「元はと言えば、貴方が魔獣の巣にちょっかいかけたり、4時間に一回に腹痛で行動を制限したりしてたのが原因でしょうが!」
次の瞬間、森の中から魔獣の鳴き声が響いた。カムイはそれに驚きその場に尻もちをついてしまった。
その間にも一条ともう一人の仲間はすぐに臨戦態勢に移った。
しかししばらくしても周りに変化が無かったため警戒を緩めた。
すると怒りでさらに感情が爆発したカムイが一条に向かって怒鳴った。
「お前がでかい声で叫ぶからビビったじゃねえか!」
一条はその言葉に図星を刺されたような表情をして謝罪した。
「ごめんなさい……」
一条の謝罪の言葉を聞いたカムイは衝撃の言葉を発した。
「じゃあ今日の夜は俺の相手をしろ! それで俺が許してやる条件だ」
カムイの常識外れな言葉に一条も思わず「は?」と明らかに怒り心頭だった。
その気配を察知したのか、カムイは足早に一条から逃げるために森の奥へ進んだ。
「あ、待ちなさい!」
それを追うように一条もカムイを追いかけた。
その光景が過ぎたと思ったらムイカの裾を誰かが引っ張ってきました。
ムイカは意識をそちらに向けたらそこには中井美華。
彼女には『フルマジック』という魔導書を見たら、すぐに発動が可能とする特別なスキルを持っている。
彼女は元の世界ではあまり目立たない子だが、テストでは学園でトップ10になるほどの頭脳を持っている。
「あの、毎日私達の荷物を持たせるのも悪いから自分の分だけでも持つよ」
中井からの言葉を聞いたムイカは「はい」と返事をして彼女の荷物を出した。
しかし中井はその荷物の量に少し冷や汗をかいてしまった。
その量は思わず上を見上げてしますほどだったからだ。
中井は情けなさそうな声でむいかに声をかけた。
「や、やっぱり荷物半分持ってくれない」
そのお願いにムイカはとある疑問を中井に問いかけました。
「それは個数がですが? それとも重量ですか?」
中井は素っ頓狂な声が漏れ、笑ってしまった。中井さんは笑いが治まると質問に答えた。
「えっと、個数でお願い」
その言葉を聞いたムイカは「分かりました」と返事をして荷物を半分持ちました。
それと同時に少し辛そうな声を漏らした中井も残りの荷物を持ちました。
ムイカが先程、先に進んだ二人を追いかけるために数歩足を動かしました。
すると中井が声をかけました。
「ちょっと待って!」
その言葉を聞いたむいかはその場に止まりました。ムイカは中井の方へ視線を向けると中井はどこかよそよそしい様子だった。
すると中井は細々と口を開いた。
「え、えっと今日って大丈夫?」
ムイカはその言葉の意図に理解出来ずに質問した。
「どういう意味ですか?」
中井はその言葉を聞くと慌てたように身振り手振りが大袈裟に動いていた。
そして声色もどこか恥じらいのあるような雰囲気を感じさせる。
「だ、だから今日の夜にまた……」
中井が言葉を詰まらせながら話していると、突如森全体を鼓膜を突き破るような轟音が響き渡った。
その轟音に驚いたのか中井は体制を崩して後ろの方へ倒れてしまった。
数秒もするとその轟音は収まり、静かになりました。
中井はすぐに立ち上がり、先程のことをむいかと話し合った。
「ねぇ、今のでっかい音は一体何?」
中井の言葉にムイカは先程の音の正体を伝えました。
「先程の轟音は叫び貝だそうです」
ムイカの言った叫び貝という言葉に中井は分からなかったのでむいかにそのことを質問しました。
「叫び貝って何?」
その質問にムイカは丁寧に説明した。
「叫び貝とは、普通の貝とは違い地中に生息しています。叫び貝は土の栄養を吸収して生命維持をしています。しかし暑い時期になると叫び貝は地上に上がってきます。その際に土の栄養を吸収する代わりに呼吸を行います。その際に中身である身が膨らみます。もしそれを踏んでしまうと先程のような轟音が発生します」
その説明を聞いた中井さんは納得したと同時にふと気づいたことを伝えました。
「説明ありがとう。でもそれが本当なら今の轟音はどっちの方向から響いたの?」
ムイカは中井の言葉を聞き、「あっちです」と答えその方角に指を指した。
中井も同じ方向に視線を向けるとそこからさっきまで二人で喧嘩をしていたその二人が慌ててこちらに戻ってきました。
「美華早く転移門を! この馬鹿が変なのを踏んで魔獣たちを呼び寄せたの!」
中井はその言葉を聞いて急いで転移門の詠唱を始めた。すると周囲から魔獣のけたたましい叫び声が複数聞こえてきた。
こんな状況を理解した一条はむいかに近づいて作戦を伝えました。
「ムイカ、美華が転移門が出来るまで私達で守るわよ」
一条の言葉にムイカは「分かりました」と答えました。
すると一条はカムイにも先程の作戦を伝えるために近寄りました。
しかしカムイは怖気づいたのかその場で頭を抱えながら丸くなっていました。
その姿にまた怒りが沸いてきたのかカムイのケツに目掛けて思いっきり蹴りを食らわせました。
あまりの痛さにカムイはその場で転げ回っていました。
「そんなアホみたい丸くなってないで魔獣戦の準備しなさい!」
しかしカムイは先程の蹴りの痛みが強かったからか話が頭に入って来なかった。
ですが、その言葉が聞いたらかむいもようやく戦う決心がついたようだった。
「王さまが身勝手にこの世界に召喚されて、このまま無駄死にするかよ!」
カムイがやる気を見せた次の瞬間、猛獣のような胴体と鋭い爪に鷲のような顔をした魔獣がかむいに襲い掛かった。
それを見たカムイは思わず先程の威勢がすっかり様変わりして命乞いを始めてしまった。
「やっぱり無理助けて!」
その言葉を聞いたムイカは無詠唱で斬撃系風魔法を魔獣に向けて放った。
すると肉裂く音と硬い金属を粉砕するような音が混ざったような残響と共に魔獣の首を落とした。
そしてカムイを避けるように体と頭は地面に落下して森の茂みへと消えた。
怖さのあまり目をつぶっていたカムイは目を開け、魔獣がいないと分かると素っ頓狂な声を吐露した後、すぐにいつもの調子に戻った。
「や、やっぱり俺は最強なんだー!」
とカムイ高らかな笑い声をあげました。その様子を呆れたように一条は見ていた。
それからも次々と押し寄せる魔獣たちの大群に手を焼いていた。そうこうしている内に中井が転移門を完成させていた。
「みんな早く入って!」
中井の一言にみんな一心不乱に走りました。
するとカムイはピタッと止まりムイカにとんでもないことを命令した。
「ムイカお前は荷物を転移門へ投げ入れてからそこで止まってろ」
普通ならそんな命令を聞き入れるなんてこと絶対しないだろう。
ましてや自らの命が掛かっている状況なのにみすみす立ち止まるなんてことはしないだろう。
けれどムイカ驚きの発言をした。
「分かりました」
そうこの状況で自らの命を犠牲するような命令をむいかは了承してしまった。
「いい子だ」
そのような言葉を放ったカムイはすぐさま転移門に入った。
そしてムイカも言われた通りに持っていた荷物を全て転移門へ投げ入れた。
すると魔獣たちの雄叫びがすぐそこにまで近づいていた。
しかしムイカはそんな状況にも関わらず自ら動こうとしなかった。
そうこうしていると転移門が徐々に小さくなっていた。
そして魔獣の爪がもうむいかの首元を引き裂こうとした瞬間声のようなものが聞こえた。
『生きて!』
その言葉と共にゲートが閉じた。
そしてムイカの首元に魔獣の爪が触れようとした瞬間だった。
むいか反射的に下にしゃがみ回避をした。
そしてある一言を放った。
「……ロック解除」
その瞬間に何かを切り裂く音を何かを引き裂かれる音が同時に響いた。
それと同時に魔獣たちの悲痛な叫び声が森全体に響き渡った。
魔獣たちは何かから恐怖するように何処かへ逃げようとしていた。
そしてしばらくして森は静かな時が流れた。
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