「無」の魔王「第三話」
時が戻して、魔王討伐のために森に入り、そこで予想外のトラブルに見舞われて転移門から彼らを召喚したお城まで逃げて来た3人の勇者パーティーだ。
そうムイカを一人あそこに残して。
一条さんと中井さんはムイカがあちら魔王の領地である森に置き去りにされたことに悲しみを露わにしていた。
それだというのにムイカを置き去りにした張本人であるカムイは何故か達成感に浸っているのかのようにずっとニヤニヤが止まっていなかった。
すると遠くから警備中だった一人の兵士こちらに近づきながら声をかけて来た。
「勇者御一行様! 急なご帰還をどうかなさいましたか!」
カムイは声が聞こえるとすぐに先程のニヤニヤした顔から誰かを悲しむような顔つきになり膝を地面に打ち付けた。
「む、ムイカが俺たちの身代わりになって魔獣たちの足止めをしてくれて……」
もちろんこの言葉は何の心もこもっていない嘘の言葉である。
しかしこちらに近づいてきた兵士たちにはそんなことを知る由もないため、すぐにカムイの言葉を信じた。
「そうでしたか……心中お察しします。こちらから王へ報告しますので部屋を用意しますので一旦休息を取ってください」
そう言って兵士は王の報告のためその場から離れた。
するとカムイはまたニヤっと笑みを零した。
その瞬間を一条と中井は見逃すことはなかった。
あの一件から翌日のこと、一条と中井は身体を癒すためにお城の地下にある大浴場でゆっくりしていた。
しかし心の中では一刻も早く彼を救いに行きたいと思っている彼女達。
すると一条がカムイに対する愚痴を零しました。
「何が私たちの身代わりよ! あいつがムイカにそこに止まるように言ったくせに! 大体、転移門自体だって全員脱出出来るほどの余裕はあったのに……」
そんな彼女の思いに便乗するように中井さんも愚痴に参加しました。
「それに元を正せば彼が叫び貝を踏まなければ魔獣たちが私たちのところに来なかったはずなのに!」
すると一条は気になることがあったため中井に質問した。
「ねぇ、叫び貝って何?」
中井は一条が気になったことについて聞かれたとき、数秒間固まった後に中井は笑った。
それと同時に懐かしさと悲しみが入り混じった声で口から発した。
「一条さんの質問、私もムイカくんにした質問と同じだね」
その言葉を聞いた一条も数秒間固まった後同じく笑ってしまった。
「どうせムイカのことだから名前だけ言ってこっちが何なのかって聞かない説明しなかったんでしょう」
その言葉に続いて中井も「そうだよ」と言って場が一気に和みました。
すると一条はお湯の中から手を出しました。
掌に集まったお湯が滝のように流れる姿を眺めながら口を開きました。
「あいつはあのときから変わってないのね」
中井は一条の発した言葉を聞いてあることを思い出して一条に声をかけました。
「もしかして迷宮でムイカと一緒に最下層まで落ちちゃった話?」
中井の言葉を聞くと一条はゆっくり首を縦に振った。そして一条は目を閉じて当時のことを思い出していました。
これはこの世界に来てから1ヶ月したころの思い出だ。
その時期はまだ戦いの実戦を学んでいなかった。
なのでその経験積みのために迷宮に潜っていた。
最初は順調に進んでいたが、奥に進めるに連れて段々疲労が顕著に表れるようになった。
そこで一条がここで打ち止めにする提案をして来た。
「ねぇ、ここで地上に戻らない?」
するとその言葉に反発するようにカムイが声を荒げた。
「はぁ、何でだよ! もうちょっとしたらボス部屋はもう目と鼻の先なのに! このまま何も収穫なしで戻れるかよ!」
カムイの言葉は本来の目的から大きく逸れる発言に一条は酷く激昂した。
「ふざけないで! そもそも今回の目的は私たちがよりよく魔物や魔獣たちの戦闘出来るようする訓練なの! 宝箱なんかの拾得物を見つけることが目的じゃないのよ!」
カムイはあまりの一条の気迫に思わず怖気づいてしまった。そんなカムイは震えた声でムイカに助けを求めた。
「お、おいポンコツ! 早く俺を助けろ!」
それを聞いたムイカは相変わらずな言葉使いで返事をした。
するとムイカはカムイの前に立ちその場に止まった。
しかしそれ以上はまるで行動しない。
カムイは思わずムイカのその行動の意味を質問した。
「おいポンコツそれは一体何をしている?」
ムイカはカムイの方を向くことはなく理由を話した。
「それはカムイが命の危機があるからというと判断されたため、私が一条さんの前に立ちカムイを守ろうとしています」
その言葉を聞いた中井は笑いを堪えるために視線を反対方向に向けた。
一方で当人である一条は呆れた表情をして頭を抱えた。
カムイの方はムイカの意味の分からない行動に対しての怒りと皆の見ているところで情けない声で助けを求めたことの恥ずかしさで感情が混乱していた。
すると一条がムイカに向かった口を開いた。
「ムイカそこをどきなさい」
その言葉を聞くとムイカはすぐに「はい」と返事をしながらカムイから離れた。
その一連の動作を見ていたカムイは思わずムイカに怒りの言葉をぶつけました。
「おい何離れてんだよ!」
ムイカはそんな言葉をぶつけられようとも至って冷静に返事をした。
「一条さんが『そこをどきなさい』と言われたので」
カムイはその受け答えに思わず「なっ!」と呆気に取られたような声を零してしまった。
そうこうしている内に一条がカムイの目の前に歩み寄っていた。
すると隣にいたムイカに「エラいエラい」と頭をポンポン叩きながら言った。
そして再びカムイの方に向き直り、言葉をカムイに浴びせた。
「さてあんたには引きずってでも連れて帰るわよ! 勇者だろうがなんだろうが帰ったら説教してやるわよ!」
カムイは元いた世界でも一条の説教を受けたことがあるため、かなり怯えていた。
するとカムイはおぼつかない動きで一条から逃げた。
一条はそれを見逃すなく「待ちなさい!」と大声で叫び追いかけました。
そんな時に先程まで笑いを堪えるため視線を逸らしていた中井が何かを見つけたようだ。
「ねぇあれってもしかして宝箱かな?」
そう言われて一条とカムイはその方向に視線を向ける。
二人がその視線の先に目を凝らすとそこには確かに宝箱のような形状をした立体物があった。
それを確認するとカムイが大喜びに叫んだ。
「ああマジで宝箱じゃん!」
カムイは先程までの怯えた態度とは一変してまるでお小遣いを貰えるとわかった子どものような表情をした。
するとカムイはムイカに視線を向けて声をかけました。
「おいポンコツ宝箱に向かうぞ。中身は俺のものだ!」
その言葉を終えると宝箱の方へ走り出した。
そしてその声を聞いたムイカが「分かりました」と了承してカムイと同様に歩み出した。
一条は明らかに宝箱が怪しいと思っているためカムイに止まるように呼びかけた。
「ちょっと待って! 流石に怪しすぎるでしょ!」
しかしそんな一条の言葉にカムイはまったく聞く耳を持たず、むしろ宝箱に興味を示さない一条に煽りを入れていた。
「何言ってんだよ。宝箱なんてゲームだといつも変なところに設置させてるもんだろ。むしろ宝箱を調べないなんて好奇心旺盛な俺からすればお前らの今の考えの方がありえないわ」
そんな言葉を聞いた一条は思わず怒りが込みあがった。
一条はカムイを止めるのとついでに一発ぶん殴ってやろうと走り出した。
それに続くように中井も脚を動かした。
そうこうしているとカムイとムイカが宝箱の元へたどり着いた。
カムイはウキウキで宝箱に手を触れた瞬間、後ろから近づいて来た一条がカムイに止まるように呼びかける。
「やめなさいー!?」
しかしカムイはその言葉が届かなかったらしく、宝箱の蓋を開けてしまった。
それと同時に宝箱を中心とする範囲の地面がいきなり消えてしまい大きな大穴になってしまった。
中井は丁度範囲外にいたため助かったが、宝箱が近くにいたカムイとムイカ、それとカムイを止めるために走っていた一条はそのまま真下に落ちてしまった。
落下中カムイはこんなことになると思わずについ涙目になり、助けを求めた。
「うわーんごめんなさい! だから誰か俺を上の方に上げてー!」
するとムイカが「はい」と呟き、カムイの裾を引っ張り上へと上げた。
その勢いで持っていた宝箱を離してしまった。
一方の一条は落下中ずっと魂胆しながら「キャー」と叫んでいた。
するとムイカが先程カムイが開けた状態の宝箱を足場にして一条の方へ飛びました。
そしてムイカは落下して混乱している一条を包むように身体で守りました。
その行為に混乱しながらも一条はその身体の熱を感じながら安心していました。
そして二人は地下深くまで落下していった。
「……そんなこともあったな~」
一条が過去の思い出に浸っていると大浴場に誰かが入ってきた。
「わたくしもご一緒によろしいでしょうか?」
一条と中井が入口の方に目を向けるとそこにはこの国の第一王女のクラリア・シス・ログナロクがいました。
クラリアは一族が継承してきた『聖女』のジョブを持っています。
当初はクラリアも勇者パーティーの一員として旅に出る予定でしたが、カムイの計らいで城に残ることが決まった。
クラリアはそんな二人の入っている湯舟に入って話し始めた。
「お父様から事情を聞いております。まさかあの方が皆様のことを身代わりになさるとは……」
クラリアの言葉を聞いた二人は先程まで和やかな雰囲気が再び険悪な気持ちに戻った。
すると中井がクラリアに声をかけました。
「クラリア王女、実はカムイが言っていたことは全てデタラメなんです。本当はカムイが置き去りにしたんです」
中井の言葉を聞いているクラリアでしたが、まさか予想外の返答をした。
「知っています」
中井も話を傍観していた一条もその発言に思わず驚いてしまった。
続けてクラリアはこんなこと言い始めた。
「不思議なのですが、わたくしにはムイカ様の危険が城内にいた人たちよりも早く感じ取っていたんです。わたくしはその理由までは分かりませんが、でも私は咄嗟にムイカ様に『生きて!』と願いました。通じていたかは分かりませんが、でもわたくしには分かる気がします。あの夜を共にしたあの方と」
クラリアが真剣な顔をして話している姿に一条と中井は思わず見入ってしまった。
それと同時にムイカの生きていることを信じようと思った。
そんなことを考えていると一条があることに気づいたためクラリアに声をかけた。
「ねぇ『あの夜を共にした』って何?」
一条から聞かれると思っていなかったクラリアは「へっ!?」と驚いた声を上げて戸惑っていた。
するとクラリアは顔を真っ赤にして鼻まで届くかもしれないところまでお湯に入り、ブクブクお湯の中で息を出していました。
その様子を見た二人は何か察したようでクラリアに寄り添いました。
「大丈夫ですよクラリア王女。おそらく私達と同じです」
その言葉を聞いたクラリアは素っ頓狂な声になって驚いた。
数秒もするとクラリアは冷静になり、その事実確認をし始めた。
「ほ、本当ですか?」
クラリアの疑問に思う言葉に二人は優しく真実を伝えた。
「私はさっき話して迷宮に落とされたときに」
それに続いて中井も口を開いた。
「私は訓練中の襲撃のときから4回ほど……」
恥ずかしそうに話した中井に一条は驚いたような様子だった。
「ちょっと待ってそんなの聞いてないわよ!」
その言葉に中井は頬を赤く染めつつ一条さんの質問に答えた。
「だ、だってそんなこと聞いて来なかったでしょ」
「それはそうだけどー!」
そんな会話をしているとクラリアはクスクスと笑い出してしまった。
「うふふ。どうやらわたくしたちは同じ体験をしたお仲間のようですね」
そして三人は楽しくちょっと不思議な雰囲気の中、穏やかな時間を過ごした。
そんなことがあってから二日後、カムイと一条、中井は玉座の間で王との謁見の時間を取っていた。
そして王から話し始めた。
「そなたらの長き旅、そしてそれらの経験からこちらに届く活躍の数々を耳にしている。その上で仲間の損失は心中察する」
その言葉を聞いたカムイは意気揚々に声を上げた。
「いえいえ王様が気に病むことはありません。むしろムイカのことを気にかけてくれて彼も喜ぶでしょう」
カムイと放った発言に王は少し強張った表情が緩くなった。
しかしカムイの発言に心の中で苛立ちを隠している一条は文句を並べていた。
(本当はカムイが置き去りにしたのに……)
そんなことを思っているとカムイは口を止めることなくこれまでの冒険の経験を王に話していた。
その間に中井はどこか不快感と退屈さを感じていた。
(嘘ばっかり。だってさっきからカムイくんの話す内容、大体私と一条さんがやったことのある事案ばかりだ)
そうカムイは自分をよく見せたいから嘘を混ぜながら語っていたのだ。
その状況を一条と中井は怒りを通り越して呆れていました。
二人が「さっさと終わって欲しい」と心の中で願っているとその願いを叶えるようにカムイは衝撃な発言をして二人は驚かされることになりました。
「しかし驚きましたよ。まさかムイカが急に怒り出したと思えば見切り発車で走り出したんですよ。さらに戻ってきたと心配していたというのにまさか魔獣たちを引き連れて来たときは心臓がいくつあっても足りませんでした」
その発言に不快と思っていた二人も王の近くで聞いていたクラリアもその言葉にさらにカムイに対する不快感を強く抱いた。
そんなことを思われていることを知らないカムイは口を止めることを止めなかった。
「それで中井さんが転移門が作られるまでは私たちが足止めをしていたにも関わずムイカは私たちの陰に隠れて縮こまってしまいました。そして転移門が出来たというのにムイカはドジだったからその場につまづいてしまい、魔獣たちの餌にされてしまいました。私たちは苦渋の決断で……」
カムイが王にこれまでの嘘の語りをしているところに突如立ち上がった一条がカムイを自分の方に向けた次の瞬間、カムイの顔に強烈な左ストレートを食らわせた。
その一撃は王室にある柱まで飛んでいく程だった。
さらに力み過ぎていたのか吹き飛ばされているときに歯が4本も折れてしまった。
すると一条は怒りに口を震わせながらカムイに話しかけました。
「ふざけんじゃないわよ! 本当はあんたが置き去りにする命令をムイカにしたくせにムイカに責任を押し付けるな!」
一条の突然の事実に王を含めたその場にいた人たちは困惑を隠せませんでした。
そんな王たちの様子を横目に一条は言葉を続けました。
「大体魔獣を引き寄せた原因はあんたが何か踏んだせいでここまで逃げることになったことでしょうが!」
そんな感情的に訴える一条にカムイは痛さのあまりに晴れ上がった頬を手で押さえて悶えるのに耐えていました。
その状況に口出しをしてきたのはずっと飲み込めずにいた王だった。
「つまり勇者が話していた我らの国に帰るきっかけは嘘を話していたことになるのか?」
王からの質問に一条は目上の人間だからと先程の怒りの感情を抑えながら頭を下げなら返答に応じた。
「はいそうです。そもそも彼の話していた旅の話自体が嘘にまみれています」
一条の言葉を聞いた王はようやく一条の怒りの詳細を理解して頭を抱えてしまった。
「なんてことだ……まさか国のこの先の未来を担うはずの勇者がこのような愚行を行う人物だったとは知らなかった」
王のその発言に周りにいた人たちは勇者であるカムイに軽蔑の目をむけました。
王は申し訳なさそうに一条にある提案をしました。
「申し訳なかった片方の言葉を鵜呑みにしてしまった。もし良かったら彼の処分を我々がする。もちろん魔王討伐に向かうのであればその用意が出来るまで長期的な滞在も約束しよう。今の我らにはこれぐらいの償いしか出来ない」
そんな申し訳ない気持ちで言葉を震わせる王を見て一条は口を開きました。
「いえ王様そのようなことをなさる必要はありません。ですがすぐにでも先程までいた森に向かいたいと思っています」
その心意に王は理由を尋ねた。
「それは魔王の討伐に向かうということだろうか?」
その王の発言に一条とずっとだんまりだった中井は一緒に首を横に振りました。
そして一条は代表に発言するかのように王に自身の意思を伝えた。
すると一同が驚かせる一言を放った。
「いえ、私たちはムイカを助けに行きます!」
その言葉を聞いた周囲の人たちはざわざわと言葉が飛び交いました。
そんな中、王がある事実確認をしてきました。
「理由はしかと理解した。しかし向かったとしても彼が生きている保証があるか?」
王の素朴な疑問にまさかの娘であるクラリアが横から口を挟んできた。
「それは私が保証します」
突然の娘の発言に王は驚きながらも冷静に娘に訳を聞きました。
「クラリアよ、なぜ彼が生きていると保証が出来る?」
クラリアは少し緊張しながらもその理由を話し始めました。
「確証がないのですが、勇者一行がこちらに戻って来たときムイカ様の身に危険があると感じたわたくしが頭の中で『生きて!』と願いました。ちゃんとムイカ様に届いていたかは分かりませんが……」
クラリアの主張を聞いた王は何か考え込むような顔をしました。
しばらくすると王は一条たちの方へ顔を向けた。
「分かった。ムイカ殿の救出に向かうことを許可する。
またムイカ殿救出後は速やかに近くの街に戻り我らに報告をするように」
その一言に一条と中井は深く頭を下げてお礼をした。
その勢いはまるで大手の企業から契約を勝ち取れた営業マンようだった。
「ありがとうございます!」
すると王は二人の感謝を受け取りながらもまるで勘違いを正すかのかのような口調で話した。
「そのお礼は今するべきではないのではないか?」
そんな王の姿はまるで遠くから甥か姪を見守る伯父のようだった。
すると先程まで空気だったカムイがようやく状況を理解したのかぶつぶつと独り言を言っていました。
「なんでだよ……なんで俺がこんなに酷い目を遭わないといけないんだ!」
するとカムイはこの状況の元凶と思って入る一条に怒りを露わにしていました。
「お前が、お前が大人しくしていたらー!」
そう言って一条にむけて剣を抜いて走り出した。
周りのカムイの行動に悲鳴を上げたり、兵士はそれを止めようと動き出そうにも今動いたところで距離が離れているためすぐに止めに入ることが出来なかった。
しかしそんな中一条は王からの質疑応答をしたからか冷静になっていた。
そしてすぐに臨戦態勢に入った。
「『サモン・ロッド』」
その言葉と同時に一条の手元に競技で使うのネットのポールと同じくらいの大きさの棒状の物を手に取りカムイに一突きしました。
「『八卦』」
するとカムイを一突きした先端から衝撃が発生してカムイは情けない声を晒した後また吹き飛ばされてしまった。
しかも今度は壁にめり込んでしまうほどの威力でカムイは気を失ってしまった。
一条は短いため息を吐き、聞こえていないカムイに真実を伝えました。
「言っておくけど今のあんたなんて私の足ほどにも及ばないわよ」
一条が言い終えると中井も続けてカムイに向けて話し始めた。
「カムイくん、初めて私のことを『中井さん』って言ってくれたね。正直吐き気がしました」
そういつもカムイは中井に向かって『根暗』や『トロイン』などという悪口を言われていたためかなり根を持っていました。
するとカムイを止めに入ろうとした兵士が二人に謝罪を始めました。
「すみません! 我々がこの場に居ながらこんなことになるなんて……」
そんな兵士の言葉に二人はなだめました。
「いえいえお気持ちだけでも受け取っておきます」
その言葉が心に響いたのか兵士は深々とお辞儀をしてその場を離れました。
すると王が口を開きました。
「それでは君たちはムイカ殿の救出の準備を進めてくれ」
王の進言に二人は王に「はい!」と返事をした後お辞儀をした。
その後王室を後にしました。それに続いて次々と人が外へ足を運んだ。
そんなときクラリアは王にある提案を持ちかけていました。
「お父様、わたくしもムイカ様の救出に加わってもよろしいですか?」
クラリアの突然の提案に王は父をして理由を聞きました。
「なぜ協力する必要がある? 何もクラリアまで行ったところで何か役にたつのか?」
少し言葉が強すぎる父の言葉に臆することなく答えました。
「一緒に同行していち早く魔王討伐のお手伝いをした……というのは建前ですが、本音は早くムイカ様にお会いしたのです。わたくしが初めて身も心も知り合えると思えるお方だからです」
クラリアは自分の本心を父である王に伝えると王は少し言葉の真意を考えると頭が混乱しました。
しかし王はクラリアのムイカの生存についての話を聞いたときのことを思い出してすぐにクラリアに自分の意見を伝えました。
「分かったよクラリア、彼女たちと一緒に同行を認める。ただし手紙を送れる街に立ち寄ったときは定期的に手紙を送ること。約束出来るかい?」
クラリアは王からの許しと約束を聞いて先程の一条たちのように深々とお辞儀をして王室を出ました。
そして彼女たちによるムイカ救出作戦が始まろうとしている。
そんなことを知る由もないムイカは人知れずに小さなくしゃみをしましたのはまた別の話。
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