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#40 私がこの仕事を選んだ理由/及川恵子


背中を押されて今がある

この連載も、もう40回目ですね。
そんな節目に、お二人が今の仕事を選んだ理由をうかがってみたいとこんなお題を投げかけてみたものの、自分のことになるとなんだか妙に、こっぱずかしい。
私はどうして、ライターになろうと思ったんだろう。
どうして、ライターになれたんだろう。

つまるところ、
「及川さん、文章上手だよね」
と言ってくれた人がいたから、です。

背中を押してくれた人がいた。
だから私は今、ライターという仕事で日々を過ごすことができております。(吹けば飛ぶような存在だけど笑)

今から9年ほど前、私は東日本大震災の復興支援を目的とした建築家の団体で広報の仕事をしていました。
主にメディアへ向けた対外的な窓口となるのが広報の仕事。
そして、被災地に入り、言葉では表現できないほどつらい経験をした住民から丁寧なヒアリングを続け、復興のために議論を重ねる建築家たちと学生さんの姿をレポート記事としてHP上でまとめるのも私の仕事でした。

大学で建築を学んでいた私は、憧れだった建築家たちの活動を自分の言葉で伝えられることがうれしくてうれしくて。
そんな仕事の難しさとうれしさの間で、無我夢中でWordPressの画面に向き合っていたことを今でもよく覚えています。

そして、その仕事を続けて1年ほど経った時。
団体の活動をまとめた書籍を出すことになり、恐れ多くも「及川さんも文章を書いてみたら?」というお誘いをいただくことになりました。

書いたのは、素晴らしい職能を持った建築家と、復興の一助になろうと挑む学生への敬意を込めた原稿。
何度も何度も文章を書き直し、その先で何度も推敲を重ね完成した文章をとある大学の先生に確認してもらった時、
「及川さん、文章上手だよね」
と言っていただいたのです。

なんだかその時に、
『あ、私、文章で仕事できるかも』と、
小さいけども、確かな自信を手に入れたような気がしたんです。

そこからは契約社員で地域の広報誌の編集に携わり、その後タウン誌の編集部で勤務。
文字にまみれた修行のような日々を経て、今はなんとかフリーライターという肩書を名乗らせてもらっております…。

「ライターをしています」
というと、
「おお、すごい」なんて言われることが多いけども、
心の中では(こんなに泥臭い仕事があるかよ…)と思っています。

文字起こしは死ぬほど面倒くさいし、思ったように文章が書けなくて、自分の能力と存在を何度も悔やんだことがある。
(編集者さん、デザイナーさん、クライアントの皆さん、本当にごめんなさい)
だけどやっぱり、人と会って、会話を通して思いを掬って、私の中で咀嚼して、言葉にする。
その過程にいちいちゾクゾクしたり、ワクワクしたりできるこの仕事が大好きでたまらないなあとも思っています。

たくさんの人から背中を押されてここまで来ました。
ということは、周りの人がいてくれたからこそ、導いてくれたからこその私の人生なんですよね。
ふと、「そこに私の努力はあったのかな」と思ってしまう。
だから、ここからの道は、死に物狂いで努力したあとにしか手に入らないものを取りに行くつもりです。

及川恵子