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表現を言語化することがクリエイティブを強くする。映像を起点に仕事を広げるLIGHT THE WAYの制作プロセスとは?

LIGHT THE WAY Inc.( 以下、LIGHT THE WAY ) はアニメーションやモーショングラフィックスを中心に、アートディレクション、CI制作などを手がけるデザイン会社。論理的な情報設計と表現を高いレベルで両立する同社はクライアントからの厚い支持を集めています。ユーザーとの接触機会が増え、映像に求められる役割が横断的に広がるなかで、同社はどのようにクライアントの課題解決に貢献しているのでしょうか? LIGHT THE WAYの代表を務める映像ディレクター/アートディレクターの西澤岳彦さん(写真・中央)に話を伺いました。

※このインタビュー記事はクリエイターのためのクレジットデータベースBAUS MAGAZINEの転載記事になります。
https://baus.jp/magazine/story/9173  2019年10月掲載記事

ロジカルな設計とエモーショナルな味付け。LIGHT THE WAYの映像表現のレシピ

アニメーションやモーショングラフィックス、実写映像、CI設計、そのほかグラフィックや WEBサイトのアートディレクションなど、少数精鋭のチームでありながらLIGHT THE WAYの業務は幅広いですね。

西澤岳彦さん:私は元々はTVCMやアーティストのMV制作を中心に行う映像制作会社からキャリアをはじめて、WEB制作会社、フリーランスを経験後、LIGHT THE WAYを立ち上げました。今はTVCMやWEBの動画、モーションロゴの作成などのブランディングに関わる領域まで幅広く制作を行っています。

過去のワークスを拝見すると、モーショングラフィックスを用いた表現が多いですよね。LIGHT THE WAYが手がけたカロリーメイトのインフォグラフィックス動画は僕も拝見したことがあります。

西澤さん:カロリーメイトのWEBプロモーション動画は2013年に制作したものですが、これをきっかけにモーショングラフィックスの仕事をいただく機会が増えました。この仕事を見ていただいたプロデューサーの方にお声かけ頂き、ご縁があって京セラさん(京セラ株式会社)のWEBプロモーション動画制作を担当させていただくことになりました。

京セラ|IoTでつくるやさしい未来

膨大な情報がわかりやすく整理され、気持ちの良いテンポで映像が展開されていきますね。こういった動画のケースは具体的にはどのように提案し、制作を進めていくのでしょうか?

西澤さん:代理店やプロダクションから依頼を受けて社外のスタッフの方と組んで制作を担当する場合と、弊社がクライアントから直接依頼を受け制作を行う場合、大きく2つのケースがあります。いずれもクライアントへのヒアリングをもとに課題を設定し、解決に向けた情報設計を行い、映像表現に落とし込んでいくという流れになります。ヒアリングと実制作前の提案に時間をかけるのは弊社の特徴かもしれません。

実制作前の提案では、どのような点に時間を割いているのでしょう。

西澤さん:例えば「かわいい」といっても、その表現は様々ですよね。少女漫画のようにファンシーな表現を「かわいい」と表現する場合もあれば、ディズニーの小人のようなコミカルなアニメーションのもつ親しみやすさを「かわいい」と表現する場合もあります。なので制作の前にクライアントが言葉に込めている意味合いを丁寧に紐解いていく必要があります。

京セラさんの動画制作では、デザインやシナリオに加えて複数パターンのカラーパレットの提案を行いました。「青系のパレットでは視聴者に信頼感や誠実さを与えられます」という風に、なぜこの動画に対してこのカラー設計が適切なのかを伝えていったのです。感覚的に選びがちなカラー設計の部分を、しっかり言語化して提案することで、論理的にデザインを捉えて選択いただけたのではないかと思います。

西澤さん:そうですね。クライアントと制作を行う上で、こちらの意図を言語化することは大事だと思っています。個人の感覚をベースに映像をつくっているクリエイターもいますが、少し大げさに言えば私はクリエイティブは細部にいたるまですべてに理由があると考えています。なぜこの色使いなのか、この動きなのか、この画面構成なのか。理由を一つ一つ説明することで、クライアントも私たち制作者と近い目線で映像を理解することができます。

クライアントと制作者が同じ目線で判断できるよう選択肢を提示しているのですね。

西澤さん:ただ、伝えたいメッセージを単純につなぎ合わせただけでは、人に興味を持ってもらえる映像にはなり得ません。私はロジカルな設計をベースに、エモーショナルで感情を動かす表現の要素をミックスさせていくことが必要だと考えています。こうした企業案件の動画の多くは、企業や商品のプロモーションを目的にしたものが多いですよね。視聴者にこちらの言いたいことだけを一方的に押し付けたような動画では、ただの自己満足の説明動画に陥ってしまいます。視聴者に少しでも興味を持ってもらえるようにデザインやモーショングラフィックスの表現部分で味付けをしていくことが重要で、それをしっかりと提案できることが私達の武器だと思っています。

例えば京セラさんとは4つの動画を作らせていただきました。「豊かな未来と社会への貢献」というメッセージを複数の動画中で表現しているのですが、紹介する製品やサービスが違う場合でも、企業の目指すものを表現しようとすると、用いるモチーフが近しくなってしまうことがあります。その場合、全く同じ伝え方では視聴者に飽きられてしまいますよね。そのため、動画毎にビジュアルやモーショングラフィックス表現の見せ方を変えてみたり、構成の順番を変えてみたり、自分たちが持っているアイディアの引き出しの中から工夫して提案を行う必要がありました。同じ企業様の動画を連続して制作する機会を得られたことは、私達の表現の幅を広げる意味でも良い経験になったと思っています。

わかりやすさと、表現のバランスという点で、LIGHT THE WAYなりのレシピのようなものはあるのですか?

西澤さん:まず「映像を通して伝えたいメッセージ」を深く理解した上で、最適なビジュアル表現や構成をクライアントへ提案することが大前提です。そうした核心の部分を押さえておければ、提案するものがクライアントの意図と大きくズレることはありません。理解を丁寧に進めることによって、制作者側の表現手法の選択や提案の余地を多く残すことができると考えています。

弊社は表現手法の選択の余地の部分に、「感情を動かす表現/興味関心を引く表現」を入れ込むように注力しています。演出やモーションやカット割り、音楽や効果音など多岐に渡るので一口には言えませんが、数多くの動画の中で興味を持ってもらえるよう「表現の部分のトライアンドエラー」は行うようにしていますね。それこそジャンルを問わず、あらゆる映像を観て、上手い構成や演出などは出来るだけ研究するようにしています。

適切な情報設計と提案プロセスで仕事のフィールドは広がっていく

モーションロゴも制作されていますよね。この「bouncy」のCIは見たことのある人も多いと思います。どんな風に制作を進めたのでしょう?

西澤さん:bouncyのご担当者からは「情報がバウンスして拡散していくメディアにしたい」とうキーワードをもらい、動きのイメージを膨らませて複数案をご提案させていただきました。その中から1案を選んでいただき、微調整の後、現行案に決定しました。

bouncyさんは、分散型メディアとしてスタートされています。分散型メディアは、SNSやWEBサイト上など、どんな環境で動画がシェアされ閲覧されるかわからないもの。ですので、動画がそれ単体で一人歩きしても、その出処がbouncyというメディアだとわかるように「画面右上に小さく表示され続けるロゴをつけましょう」という提案を行いました。画面の隅に常にロゴを表示させたことで、メディアの色をより強く出すことができ、ブランドの認知向上に少しでも役立つ画面設計が提案できたと思っています。

bouncy|Motion Logo / CI  https://bouncy.news/

西澤さん:TVCMのCIは平均的に1.5秒〜長くても3秒程度で制作されている事が多いです。WEB動画のCIの場合にも、その値を基準に制作されることが多い傾向があるので、短い時間でギュッと凝縮して直感的に伝わるものが求められます。モーションロゴは尺が短いということもあって、制作が簡単に思われることもあるのですが、全然そんなことはなくて(笑)。bouncyさんは効果音(サウンドエフェクト)は必要ないパターンでしたが、DMM musicさんのCIを制作した際は、効果音も必要でしたので、モーション設計と同様に言語化して提案をしています。CIはブランドの核となるものなので、動画と音の組み合わせで数十から百を超えるパターンの試作を行うことも少なくありません。

DMM music|Motion Logo / CI  https://music.dmm.com/

提案から制作に至るまでの流れは、長尺の映像と同様に言語化して丁寧な説明を重ねているのですね。

西澤さん:終盤で複数のCI候補案の中から選んでいただく際は、言葉の説明に加えて完成形を動画でも見てもらいます。その方が、クライアントさんからすると求めているものが明確に判断できることが多いように思います。なので、CI候補を複数出す場合は、一般の視聴者目線でもわかりやすくそれぞれ違いがわかるよう、選択肢を用意するようにします。例えば「音」を変えたり「色」を変えたり「動き」を変えたり、それぞれ違った切り口で候補案を用意するようにしています。明確に違う案と認識してくれることで判断が付きやすくなり、意思決定が強固になるんです。

モーショングラフィックス表現だけに留まらず、三菱地所さんのラグビーW杯2019™のスポンサーTVCMなど、実写映像も手がけられていますよね。

「ラグビーワールドカップ2019™」宣言篇(TVCM・30秒)

西澤さん:この案件は過去の試合の膨大なアーカイブ映像から構成し、演出を行ったものですね。カット割りを短くしてテンポよく、キャプションにノイジーなゆらぎを与えて、スポーツらしい熱、泥臭さを表現しています。制作を一緒に行った広告代理店の方がラグビー経験者の方だったので、どんな瞬間がグッとくるのか、ラグビーファンが唸るような歴史的瞬間はどこかといったヒアリングを重ねてカットを選んでいきました。一見するとラグビー史のオールスターのようにも見えるので、コアなラグビーファンの方にも満足いただける奥深さが表現できたと思います。

モーショングラフィックスと実写と、西澤さんはそれぞれどのように使い分けているのでしょうか?

西澤さん:例えば、京セラさんの案件では、IoTという目には見えない実態のつかみにくい技術を説明する必要がありました。「ここにクラウドサーバーがあります」と言葉や実写で説明しても伝わらないので、直感的な理解を助ける図解やグラフ(インフォグラフィックス)を用いたモーショングラフィックス表現が適していると思います。

三菱地所さんの案件では、実写動画を中心にタイポグラフィーのモーショングラフィックスを取り入れています。ラグビーの泥臭さや熱量等は、実写でストレートに伝えるほうが効果的なので、モーショングラフィックスの部分は、あくまでも実写の勢いを殺さずに活かせるようなアプローチを試みました。モーショングラフィックスを組み合わせることで、選手の表情や懸命な姿の実写映像が引き立ち、視聴者の感情や情緒に訴え掛ける演出効果になったと思います。

手がける仕事は幅広いですが、西澤さんの仕事のプロセスからはクライアントに対する一貫した姿勢を感じます。

西澤さん:いろんな技術、表現方法を用いていますが、クライアントの要望に応えることが出来るならその方法は問いませんし、引き出しは多い方がいいというのが、私の制作に対するスタンスです。今後はますますインタラクティブな表現が加速し、モーションによる表現を求められる場所が今よりももっと拡張していくと思っています。例えば、Googleが「Understanding motion – Material Design」(https://material.io/design/motion/understanding-motion.html#)を公表し、UIにおいての一つ一つの動きに対しての考えを解説していますが、影響力のある企業がこうした取り組みを行うことによって、業界全体のクリエイティブはアップデートされていくのではないでしょうか。そこで問われるのは、「どんな手法で映像をつくるか」と同じくらい「一つ一つの動きがどのような効果や利益をもたらすことができるかを考えられること」だと思います。

何故この動きが必要なのかをロジカルに説明することができれば、どこの業界でも説得力を持ってやっていけると思うんです。反対にそこを理解しないで適当にしていると、世の中に自己満足なモーションが使われた表現が増えていってしまう。するとクライアントが予算を出したのに、ユーザー体験の品質が下がるという悪循環に陥ってしまいます。

私の名刺には「映像ディレクター/アートディレクター」と記載していますが、一つの肩書に縛られる時代ではないので、あえてお伝えすると、私自身は映像を主軸としたプランナー、ディレクター、エディターと領域を横断できるスキルを身につけられるよう心がけています。クライアントの課題に対して、提案する表現の幅は広がりますし、理解できる事柄が多いほうがクリエイターとして生き残っていくためのリスクヘッジにもなると思っています。

成果に貢献するクリエイティブ

そうした制作へのスタンスがクライアントから信頼に繋がっているのだろうと感じます。映像の仕事を行う上で心がけていることは他にもありますか?

西澤さん:表現の追求と同時に、きちんと成果を出すという観点も大事にしたいと考えています。

例えば、2社の競合企業が均衡した同レベルのサービス、料金を提供していたとします。そうしたケースにおいて、ユーザーはどういった目線でどちらの企業を選ばれるでしょうか?どちらが自分の好みか?顧客は潜在的にデザインやブランディングを見て、どちらのサービスを利用するか判断すると思います。そういった意味で、「クリエイティブ」と「成果」は分かち難く結びついているものだと思っています。

映像制作で、具体的に心がけていることはなんですか?

西澤さん:映像のターゲットと使用目的を考慮しながら情報設計を行っています。

事業会社の映像は、展示会やイベントでの営業のために使われるケースも少なくありません。その場合、顧客が事業会社のことを全く知らない前提で、内容を理解できるように動画を作る必要があります。動画の力をうまく利用できれば、営業の方の説明に加えて、ビジュアルの力でより分かりやすくフォローアップすることも可能です。そのために、どの程度の情報を動画に盛り込む必要があるのかを的確に取捨選択し、どんな場面で誰に対して見せる動画なのかを常にイメージして制作にあたっています。

ヒアリングを丁寧に行っていくというのもそうした用途や映像の役割を明確にするためのものなんですね。

西澤さん:そうですね。映像だけでなく、WEBやグラフィック制作の受託も含めそれなりに広く経験を積んできたので、いろんな立場の目線からプロジェクトに向かい合えている部分はあると思います。

クライアントにとっても、制作チームにとっても心強いと思います。

西澤さん:クライアントへのヒアリングをした段階で、限りなく完成形をイメージするようにしているんです。これはクリエイティブの精度をあげるのと同時に制作のリスクヘッジにもなります。修正の工数もあらかじめ見積もれるので、クライアントの要望にも柔軟に対応できたり、急なピボットにも対応できますから。

小さいチームながらもお仕事をいただけているのは、その部分を評価していただいているということかなと。小さいなりに専門的な知見や、得意領域を持つことで戦っていく。そうやってプロジェクトに貢献しながら、自分達の好きな表現を追求していくというのは、好きなことを仕事にするために大事にしています。

自動生成技術が進んだ未来に向けて

オフィスも拡大し、仕事のパートナーも増やしていきたいとのことですが、LIGHT THE WAYは今後どのような仕事に取り組んでいくのでしょうか?

西澤さん:要望に対して、最適解を提案できるような現在の受注型のお仕事を精力的に継続していきつつ、動画で得たスキルや知見を元に拡張したサービスをつくっていきたいという漠然とした思いはあります。例えばロボットや製品のプロダクトのUIにモーショングラフィックス要素を組み込んだものなのか、簡単に動画を自動生成できるサービスなのかわかりませんが、プログラマーの方と共同でやっていけたら面白そうだなと思いますね。まだ、具体的な動きはないのでいつになるかはわかりませんが(笑)。

サービスとは、意外な答えでした。

西澤さん:来たる5G時代に向け、おそらく動画領域においては自動生成の技術は今以上に高まっていくと予想しています。例えば駅や店頭に設置されているサイネージもプログラムによって自然に新しい情報にアップデートされるシステムになっていくかもしれません。人力で数値を打ち込んでアップデートさせていくというようなルーティーン作業がそれによってカットされていきますよね。これは株価や天気などリアルタイム性を追求したものに限った例で話をしていますが、確実にやってくる未来だと思います。自動生成の映像においても、効果を見込める質の高いクリエイティブを提供できることは、今後のポイントになると感じています。

そうした未来に向けて動画クリエイターとしてどんな準備をしていきたいと考えていますか?

西澤さん:自動生成の有無かかわらず、自分の作りたいものを追求し、形にする能力は常に備えておきたいですね。テクノロジーの充実によって一部の映像表現は簡単に形にすることができる未来がくるかもしれません。でも、映像表現のロジックを理解した上で、どのように効果的にそれを利用するかを考える部分は、すぐにテクノロジーに置き換えられるものではありません。また、人間に訴えかける表現というのも、日々変わっていくものです。そこを追求し続けられることが、映像クリエイターに求められていくと思っています。

多角的に広い視野と知見を備え、自分の考えを言語化できるまで突き詰めているということは、何を求められているのかを読み取り、効果的な動画を作り出す力を支えてくれます。私自身、これからも学び続け、動画表現を拡張していくことに取り組んでいきたいと思っています。


RECRUIT Information
LIGHT THE WAY Inc.では、モーショングラフィックスの技術を活かしてクライアントの課題解決に臨みたい方、スキルアップしたい方を募集しています。
>>詳細はこちらをご覧ください。
https://light-the-way.jp/recruit

CREDIT
Interviewee:Takehiko Nishizawa(LIGHT THE WAY Inc.)
Editor / Writer / Interviewer:Naoki Takahashi
Photographer :Yusuke Sano
Producer / Account Exexctive:Yuki Yoshida(BAUS)
Project Manager : Koujirou Ichimura(BAUS)
Staff : Megumi Mochizuki(LIGHT THE WAY Inc.),Yuki Tokunaga(LIGHT THE WAY Inc.)

PROFILE
LIGHT THE WAY Inc.
アニメーションやモーショングラフィックスを中心に、アートディレクション、CI制作などを手がけるデザイン会社。論理的な情報設計と表現を高いレベルで両立することを持ち味に、多くのクライアントから支持を集めている。

※LIGHT THE WAYのHPはこちら
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