自己分析への疑問(物理の観点から)
就活では自分の特徴を知るために、自己分析をしっかり行うのが一般的です。自分の強みや弱み、幸せを感じるのはどんなときか、といったことを調べるためです。
自分のことをしっかり理解しておけば、自分に合った会社を選ぶことができ、自分の能力を発揮しやすくなるのは、間違いないと思います。
僕が疑問に思っているのは、「自己分析だけで自分のことを本当に理解できるのか?」ということです。
人間は、周りの人の影響を受けながら生活する生き物です。人間の性格の半分は遺伝子で決まるけど、もう半分は周りの人間関係で決まるそうです。
何が言いたいかというと、「自己分析での自分は、周りの人の影響を考慮できていないから、不正確なのではないか?」ということです。
実はこの考え方は、僕が研究している「強相関電子系(多体系とも呼ばれる)」から着想を得たのです。
では、どのような所から着想を得たのかについて、書きます。
物理の話になるので理数アレルギーが出る方もいるかもしれませんが、頑張って分かりやすいように説明するので、しっかりついてきてください。
1つの電子が分かればOK?
物質の性質は、物質中の電子の振る舞いが分かれば、ある程度理解できます。なので物性(物理学の中で、物質の性質を扱う分野)を研究している人たちは、物質の中の電子の状態を必死で調べようとしているわけです。
それで過去の物理学者たちは、物質中の電子という、とてもちっさーい世界のことを研究していました。そしてその努力の末、電子の振る舞いがだんだんと分かるようになりました。
しかしそれは、周りの電子と相互作用を及ぼさない電子の振る舞いしか、説明できていなかったんです。
電子はマイナスの電荷を持つのでお互いに反発し合うのですが、その相互作用の効果が考慮されていなかった。
つまり電子の相互作用が小さい物質はそれでもよかったんですが、相互作用が大きい物質ではその理論が使えなかった。
相互作用が大きい物質を研究しようとして生まれたのが、僕の研究テーマでもある「強相関電子系」という分野なんです。以前にも自分の研究テーマについて書いたので、載せておきます。
このような物質では、1つの電子の振る舞いを見ているだけではなく、周りの電子との影響を調べる必要があります。
相互作用の効果を考えると複雑になるので、多くの物理学者たちの頭を今でも悩ませているんですね。
物質の中には$${10^{23}}$$個の電子があって、そいつらが相互に影響を及ぼし合うんですから。考えただけで頭が痛くなります。
周りとの影響を考えると、一気に複雑化するんですね。「うーん、大変だ。」
で、この考え方が人間にも当てはまると思ったんです。
あなたは周りの環境によって決まる
もうここまで来ると読んでいる人は、ほとんどいないかもしれません。だって物理の専門的な話を、簡略して説明したから。初学者なのに、ここまで読めている人は相当な知性の持ち主だと思います。
先ほどは、電子の話をしました。今度はその電子を、人間に置き換えて考えます。
人間も電子と同じように、周りの人の影響を受けます。日々たくさんの人たちと、相互作用しています。
さて、ここからが本題。僕が自己分析に対して疑問に思っていることは、
「自分の強みとか適正って、周りの人によって変わるんじゃないの?」
ということです。
例えば、あなたの強みが「コミュニケーション能力」だとしましょう。会社員として重視される能力の中でも、必ず上位に来る能力です。
でもあなたが入る会社の周りの人みんなが、コミュニケーション能力が高いとしたら、どうなるでしょうか?
あなたの「コミュニケーション能力」は、強みではなくなります。周りのコミュニケーション能力の平均値が、高いからです。人間の特性は、周りの人との相対評価で決まります。
だから自分の強みを知るだけでは、自分がその会社で強みを発揮できるかは分からないと思うのです。
また今の自分の強みは、周りの人間関係によって成り立っている場合もあります。
例えば僕の場合でいうと、研究室での人間関係の影響を受けて形成される強みと、会社に入った後の職場の人間関係によって形成される強みが、異なるということです。
それは何度も言うように、人間は周りの人の影響を受けるから。
だから入社前の自分の強みと、入社後の自分の強みは変わると思います。
これらの理由から、僕は人間の強みや適正は周りの環境によって決まると思います。
電子と同じように人間は複雑なもので、その人自身を理解しても周りの環境を考慮しなければ、正確には理解できていないと思います。
かといって、「自己分析が必要ではない」ということではありません。
自己分析をしっかりした上で、希望している企業の職場の人間関係や社風を綿密に調べることが、大事だと思います。
そのためには僕も気になる企業の説明会を受けたり、インターンに積極的に参加しないとなぁ。
最後に
久しぶりに、理系の知識を実生活に応用した記事を書いてみました。
書くのが大変なので避けていたんですけど、たまに書いてみると楽しいですね。異なるものを、結びつけられた時の快感というか。
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