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降りしきる雨の中、届いた4つのエッセイ

 雨の音とともに、目が覚めた。また今日も雨か。朝なのに、部屋は薄暗い。この数日は、ずっと雨が降り続いている。

 重い上半身を起こし、Lの字になって、ベージュ色のカーテンを開ける。窓から外の様子を見ると、鉛色の重たい雲が空一面に広がっていた。そして僕はただぼんやりと、雨が水たまりに落ちていくのをながめていた。

 晴れの日ばかりではないことは、わかっている。でもやはり、雨の日が続くと気分は落ち込んでいく。

 僕はベージュ色のカーテンを閉め、もう一度布団に潜った。まぶたを閉じて静寂の中、雨の音だけが耳に入ってくる。このまま、眠りにつこう。どうせ外も雨だし、部屋も薄暗いから寝るのにちょうどいい。

✳︎




ピンポーン!

インターホンが鳴って、僕は眠りから覚めた。

「宅配便でーす」

 

 誰からだろう?僕は、何も宅配便を注文した覚えはないぞ。

 眠い目をこすりながら、急ぎ足で玄関に向かった。パジャマのままだけど、しょうがない。

 玄関のドアを開けると、そこには若い宅配のお兄さんがいた。そして明るい笑顔で、宅配便を渡してくれた。服と宅配便の包装が、雨で少し濡れていた。

「ありがとうございます」

 誰から届いた物かわからないけど、僕はとりあえず宅配を受け取って、薄暗い部屋に戻った。

 宅配物の中身が気になったので、部屋の電気をつけるより前に、すぐに梱包を開けた。 

 中には4冊のエッセイが、入っていた。中身はもちろん、雨で濡れておらず、綺麗な状態だった。



 その4冊のエッセイのタイトルは、『3,000万円のプレゼンテーション。』『転職活動中の私が、就活で病んでいた大学4年生の私に伝えたいこと』『自信なんて勘違いの賜物』『みんな私とおなじ。ただの人間。』。

 何が書かれているかわからないけど、とりあえず読んでみよう。

 部屋の明かりをつけて、ベッドで寝転がりながらエッセイを読んでいく。気持ちは沈んだままだけど、文章を読むことならできる。


『3,000万円のプレゼンテーション。』


 まず一冊目の『3,000万円のプレゼンテーション。』から、読む進めていく。この方は、札幌の保険会社で営業をされている方らしい。

 なんでプレゼンの話をエッセイにして、僕に送ってきたんだろう。僕は別に研究会で、プレゼンをする予定があるわけでもないのに。まぁ疑問は置いといて、とりあえず読んでみよう。

 なるほど。この方は今でこそ話すことに抵抗はないけど、最初からそうではなかったらしい。何度も人前で話す経験があって、話すことに抵抗がなくなっていったのか。

 ご自身のプレゼンの話を交えながら、人前で自信を持って話すことに苦手意識がある方に向けて、書かれたエッセイらしい。

 自分は今、就職活動真っ只中で、面接のときに自信を持って話せないのが悩みだったので、このエッセイを僕にも届けてくれたのか。



 このエッセイには、イトーダーキさんが「AIを使ったマーケティングの提案をしてほしい」という依頼を受けて、本番のプレゼンに向けてどんな努力をしていたかが書かれている。

 15分のプレゼンに向けて、何度も練習されたらしい。録画を撮り、自分の声を録音し、社長や上司、部下に見てもらいながら。

 なんと、その数82回。驚くべき数字である。何度もダメ出しをもらいながら、修正されていったそうだ。

 

 自分を振り返ってみると、「自信がない、自信がない」と弱音を吐いておきながら、イトーダーキさんほど練習してない。

 グジグジ言う暇があったら、練習できるではないか。82回やるほどのパワーはないかもしれないど、1人で動画を撮りながらの面接の練習は何回もできる。

 それでもうまく話せなかったら、その時に考えればいいのだ。できない自分から、目を背けてはいけない。ダメ出しされることを恐れていては、いつまでも上達できない。

 イトーダーキさんの話を読んで、すごく勇気をもらえた。でもやっぱり82回は、レベチだ。この方のバイタリティーは、本当にすごい。




『転職活動中の私が、就活で病んでいた大学4年生の私に伝えたいこと』


 2冊目の『転職活動中の私が、就活で病んでいた大学4年生の私に伝えたいこと』は、また別の角度から勇気をもらえるエッセイだった。

 楓さんの新卒時の就活の話と、1回目の転職の話が対比されながら、面接時の心構えについて書かれているエッセイだ。

 楓さん自身も現在、2回目の転職活動中らしい。僕も陰ながら、応援しています。



 このエッセイを読んでいると、新卒の時の楓さんの心境が今の僕ととても似ていて、共感しまくっていた。

 僕も面接に対して、怖いという気持ちがある。誇れるエピソードがなくて、会社員として雇ってもらえる想像ができない

 大したことがない自分を見せるのが怖くて、本音を出すのをためらってしまう。それが自信のなさを、助長してるのだと思う。

 そして自分も、本来の自分から目を背けて、会社ウケのいい自分をでっち上げようとしていた。そんなことをしても、むしろ自信をなくすだけなのに。

「やってきたことと、やりたいことを、正直に話せばいいだけなんだもの」

 楓さんのこの言葉、本来の面接の在り方として、核心をついているなと思った。そのために、内省するのだ。話を盛るためではない。



 そしてもう一つの、就活の結果は自分の人生の評価ではないというメッセージも、自分を励ましてくれた。

 転職活動と違って新卒の就活は、自分の性格に違い部分を強みとしてアピールするので、落ちた時に自分に価値がなかったと感じやすい。

 だけど、企業が求める人物像と、自分の性格が合うかどうかで合否が決まるので、そのことはちゃんと頭に置いておこうと思う。

 価値観が合わなかったのか、残念。次、切り替えていこう。

 そうやって割り切って、自分を否定しなように気をつけたい。自分を否定してしまっては、堂々と話せないし。話の伝え方は1回の面接ごとに、改善していくべきだけどね。


 自分はまだ余裕がないけど、楓さんの記事を読んでいると、穏やかになれた。自分も、転職活動を楽しむ楓さんぐらいの前向きなモチベーションで、これからの就職活動を頑張りたいと思う。





『自信なんて勘違いの賜物』


 3冊目の『自信なんて勘違いの賜物』は、自分の勘違いに気づけたエッセイだった。

 どんな勘違いをしていたかというと、自信を持てない自分を捨てる必要があると思っていたこと。

でもこのエッセイの、

変化しなきゃいけないのは、“仕事“という非日常の世界にいる自分で。
“プライベート“という日常の世界にいる自分は、別に変化なんかしなくてもいい。

を読んで、ハッとした。

 

 別に日常生活では、自信満々な自分にならなくていい。人間の性格は、そんな一気に変わらないから。

 だけど仕事では、自分が自信を持っているように見せた方がいい。本当の自分は、自信なさげであったとしても。

 リトさんは、自身の営業の話を書かれていて、「自信がなくてモダモダ喋っている営業からは、モノを書いたいと思わない」とおっしゃっていた。

 僕もそう感じるだろう。売る側が自信なかったら、買う側もその商品を買う自信がなくなる。

 cmで芸能人が、自信なさげに死んだ顔で商品を紹介していたら、誰もその商品を買わないだろう。たぶん、それと同じ。営業したことないから、間違っていたらすみません。

 

 これは別に、営業だけに限らないと思う。どの職業であったとしても、自分の仕事に自信を持っていて欲しいと、顧客側は思うだろう。

 自分を顧客視点にすると分かりやすいのだが、自分が何か商品を買ったり、サービスを受けたりするときに、その仕事を担当する人が自信なさげだったらちょっと嫌だ。

 「その仕事と誠実に向き合っているのかな?」って、思うからだ。いやいや仕事をしている感が、顧客側に伝わってしまう。



 これと同じことが、面接でも見られているのだろう。自分を商品として企業に売るときに、自信なさげに話していたら相手に不誠実だ。

 面接官側からすると、「この人はちゃんと自分と向き合い、私たちの企業についてしっかり調べてきたのか?」と思うに違いない。

 

 リトさんのこのエッセイを読んで、営業と面接の接点に気づくことができた。エントリーする企業へどのぐらい向き合えているかは、自信の高さに出るのだと思う。

 最初は勘違いであったとしても、その自信が板につくまでやれることはやろうと思う。リトさん、このエッセイを届けてくれてありがとう。





『みんな私とおなじ。ただの人間。』


 4冊目の『みんな私とおなじ。ただの人間。』は、面接官との会話不安を和らげてくれるエッセイだった。

 就活初期のmoriiさんと同じように、僕は企業の方と話すのがとても怖い
「自分は社会人として認めてもらえるのだろうか?」
 そうビクビクしながら話している。

 なんとなく学生生活を送ってきた自分が、「私はこんなことをやってきました!」と胸張って言えることもなく、そのまま就活の時期が来てしまった。


 

 就活が始まる前は、「自分のことを深ぼって質問してもらえるなんて、最高じゃん」とのんきな心構えでいた。

 けれど、いざ就活を自分がする立場になって、そんな余裕は一瞬で消え去った。

 自分の人柄や価値観が面接官に品定めされて、ダメだったらその企業から拒絶される。

 こんなつらいことは、ないだろう。自己紹介で恥ずかしさを捨てて、包み隠さず自分のことを伝えたのに、周りから拒絶されるみたいな感じだ。

 応募者が殺到するので、企業側も苦渋の決断で就活生にお祈りメールを送っているのは十分承知だけど、それでもつらい。

 

 そして、落とされたくないという思いから、話すことが怖くなっていく。相手に合わせようとしすぎて、ぎこちない話し方になる。

 頭に考えは浮かんでいるのに、言葉に出すのをためらってしまい、言葉数が減ることもある。これでは自分の考えが、うまく相手に伝わらない。

 



 だけど、moriiさんが社員の方から言われたこの一言が、僕の中で印象に残っていて、考え方に変化が出た。

その一言は、

「人事の人ってさ、所詮ただのおじさんなんだから、雑談すれば良いんだよ雑談。」 

というもの。



 そっか。自分は基本的なことを、忘れてたじゃん。

 面接官も当たり前だけど、緊張されている。僕と同じ、一人の人間なのだ。

 面接官もこの面接がうまくできるか、心配なはずだ。そんなときに、自然な会話ができる就活生が相手だったら、すごく楽だろう。普段の雑談みたいな、自然な会話を。

 だから、面接の時に普段よりうまく話そうと意識しすぎずに、等身大の会話を心がければいいのだ。すぐには慣れないと思うけど。

 それが、自然な表情と自然な会話につながる。


 otoさん、ありがとう。肩の力がすーっと、ぬけた。以前ほどの恐怖心も、なくなった。

 「ひとりの人間と会話をしにいく

 このことを意識して、面接に臨みたいと思う。




 この4つのエッセイを噛み締めながら読んでいると、いつのまにか時間が過ぎていた。

 ベッドから起きて、再びカーテンを開け、外の景色を確認する。あの鉛色の重たい雲は切れていて、その絶え間から光が差し込んでいた。

 そしてそこには、涼しげな七色の虹ができていた。また、雨に濡れたアスファルトの地面では、光が反射して輝いていた。

 

 雨も止んだことだし、外に出よう。服を着替えて、カバンに荷物を詰めていく。この4冊のエッセイも、カバンに詰め込んで。

 そして今日の朝、このエッセイを受け取った玄関へ向かう。靴ひもをぎゅっと結び、立ち上がって玄関のドアで一度、深呼吸をする。

 大丈夫。どこかにたどり着く。自信がなくなったら、その時はもう一度この4つのエッセイを読もう。

 


 長い深呼吸を終えて、僕は玄関のドアを見つめている。何度も見てきたドアなのに、いつもとは全然違う気がした。

 そしてドアを開け、僕は小さくて大きな一歩を踏み出した。

 


<あとがき>

昨日、自分の就活に対する悩みを記事にすると、勝手にリレーエッセイが始まりました。まさに、”勝手に”リレーエッセイ。

たまたまアップしたこの記事から、繋がっていくとは思っていなかったので、今も驚いています。

4人のメッセージを読んで、本当に励まされました。その恩返しをしたくて、今回の記事を書かせていただきました。

物語形式で書いてみたかったので、エッセイぽくないかもしれませんが、許してください。

雨は、落ち込んでいた時の気分を表しています。これ解説したら、ダサいやつですね。まあ、いいや。でもたしかに正直、ここ数日つらい気持ちが続いていました。


まだ就職活動に対する恐怖心はありますが、4人のエッセイを思い出して、立ち向かって行こうと思います。

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