心中(浅野浩二の小説)
中学校の時、同級生に、佐木、という男の子、と、佐藤、という、女の子がいた。
二人とも、内気で、弱々しい性格の子だった。
心無い連中は、二人を、いじめた。
佐木、と、佐藤、は、慰めあっていた。
すると、心無い連中は、そんな二人を、面白がって、ますます、いじめた。
二人は、強くて、心無い、人間の集団の中で、二人して、肩を寄せ合って、慰めあって、生きていた。
二人は、中学校を、卒業した。
二人は、同じ、高校に、進学した。
しかし、高校でも、二人は、いじめられた。
内向的な人間は、どこへ行っても、いじめられるのである。
それから、5年後、二人が、結婚した、ということを、聞いた。
とても、微笑ましく思った。
二人は別々の大学に進学し、そして大学を出て、それぞれ、どこかの、会社に就職したらしい。
二人は、高校、卒業後も、ずっと、文通をしていて、大学を卒業したら、結婚しようと、約束していたらしい。
私は、用事があって、結婚式に、行けなかったが、それが、とても残念だった。
だが、彼らの笑顔は、想像のうちに、ありありと、見えた。
彼らの、性格の弱さは、変わっていなかった、らしかった。
でも、弱い者、同士、いたわりあって、きっと、やっていけるだろうと、思っていた。
だが、それから、4年後、二人が、心中自殺したという、ことを聞いた。
詳しい理由は、わからないが、二人は、高校時代の、彼らを、いじめた連中に、高校を卒業した後も、つきまとわれていて、金をせびられ、サラ金に手を出してしまって、多額の借金をつくってしまったらしい。
それを聞いた夜、何とも、やりきれない、耐えがたい、気持ちになって、なかなか、寝つけなかった。
その夜、こんな夢を見た。
真っ暗闇である。一点の光もない。
だが、その闇の中に、一点、小さな光が、見えた。
それが、だんだん近づいてくるにつれ、それが、炎であることが、わかった。
それは、はげしく燃え盛る巨大な炎だった。
どうやら、ここは、地獄の中の、焦熱地獄らしい。
私は、しばらく、その炎を眺めていた。
すると、その炎の中に、人がいるのが、見えた。
二人いる。
二人は、抱き合って、目をつぶり、身を震わせながら、地獄の熱に耐えていた。
二人は、佐木、と、佐藤、であった。
その時、目が覚めた。
実に、おそろしくなった。
その時、私の心に、私の意志とは無関係に、一つの言葉が流れた。
「自殺者は救われない。命を粗末にした者は、永遠の罰を受けなければならない」
私は、夢が、正夢であるような気がしてならなかった。
それから、数年、経った。
もう、誰も、彼らのことなど、忘れてしまっている。
だが、私は、今でも、時折、ふとした、きっかけで、彼らを思い出すことがある。
その時、決まって、私の心に、一つの言葉が流れる。
「自殺者は救われない。永遠の刑罰を受けねばならない」
地獄の炎は、永遠に、彼らを焼き続ける。
二人は、それに、耐えねばならない。
目を閉じて、抱きしめ合ったまま。