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幼なじみの飛鳥#6【身を削れば】

ここんとこの悪夢の正体はアイツとの突然の別れだった。

待ち合わせ場所でそれを思い出してしまったところで、スマホが鳴る。

知らない固定電話の番号から、聞いたことの無い声が耳に届く。



「▲▲病院の者です。サイトウさんのお電話で間違いないですか?」

「はい・・・」

「交通事故にあわれた患者さんから伝言を頼まれてまして」

!!!

「今日は行けなくなったので、後で連絡すると・・・」
「あのっ!!」

「はい?」

「アイツはそこにいるんですかっ!!」

「は、はい;;;まだ処置中ですが」

「ありがとうございます!!」




通話を終える前に、もう走り出していた。

この辺では1番大きい病院だ。

タクシーを使う方が早いかもしれないが、そんな事を考える前に身体が勝手に動いていた。

伝言を頼まれたって言ってたから命に関わるような状態ではないんだと思う。

それでも怖くてしょうがなかった。

早く自分の目でアイツの顔を見たくて

自分の耳でアイツの声を聞きたくて

アイツの事ばかり考えながら

整えたばかりの髪を振り乱して夢中で走った。




病院に着いて、カウンターに詰め寄ろうとしたところで後ろから声を掛けられる。

『えぇっ?飛鳥ちゃん?』

振り返ると、頭に包帯を巻いて驚いた顔が目に入る。


『わざわざ来てくれたの?』

『ごめんね、連絡できなくて』

『ちょっと事故に巻き込まれちゃって』

『車同士が接触した後に歩道に入って来ちゃった感じで』

『幸い車の人たちも大きな怪我はなかったし』

『オレも怪我は大した事ないんだけど』

『スマホはダメになっちゃって』

『警察と話したり、一応病院で検査したりで、なかなか連絡できなくて』


なんやかんや説明されたけど、私の頭には入って来なくて・・・

ただ吸い寄せられるように目の前に立った。

「・・・大丈夫なの?」

『うん、骨には異常無し!』

『頭を軽く打ってるから、一応今日だけ入院って事になるみたいだけど』

「・・・死なない?」

『はは、飛鳥ちゃんを置いて死ぬわけないって』


・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

『飛鳥ちゃん、ちょっと向こう行こうか・・・』

「ん?・・・あぁあ」

突然世界がぼやけたのかと思ったら、

どうやら安心した途端に私の涙腺が崩壊していたらしい。



キュッと手を握られて、引っ張られるままにチョコチョコ移動する。

どこら辺まで行くんだろう・・・

あんなカウンター前で泣いてたら迷惑だもんな・・・


相変わらずぼやけた視界で認識できるのは、コイツの背中だけ。

そう思ったら我慢できなくなって、その背中にポフっと身体を預ける。

『えっ、飛鳥ちゃん?』

聞きたかった声で名前を呼ばれて、堪えていた気持ちが溢れ出す。

振り返られると都合が悪いので、背中にぴったりくっついたまま両手をお腹の方に回した。




「怖かった」

『うん・・・』

「いなくなんない?」

『うん・・・』

「心配させんな」

『うん・・・』

「勝手に事故に遭うの禁止」

『わかった・・・』

「勝手に死んだら死刑」

『おぉう;;;オーバーキル;;;』

・・・・・・

・・・・・・

「うぅぅっ;;よかった;;;ほんとに」

『うん・・・』

心配させた罰としてシャツの後ろをしっかり濡らしてやった。



罰ポイントを精算した後に、ゆっくりと身体を離す。

振り返ったコイツの様子をあらためて確認してみる。

大した事ないって言ってたけど、頭と腕に巻かれた包帯が痛々しい。

「ねえ、痛い?」

『飛鳥ちゃん見たら治った』

「そんなわけないじゃん」

真面目に心配してんのに、いつもの調子でふざけるコイツを睨み上げる。

『はは、まあ痛いっちゃ痛いけどね』

「そうだよね・・・」

私が待ち合わせに5分遅れてなんて変な注文をしなければ、

コイツは事故に遭わなかったかもしれない。

「あの・・・ごめ・・・」
『あぁぁー、痛いよぉー』

私の声をかき消すように大袈裟に痛がる。

『飛鳥ちゃんがチューしてくれたら、一瞬で超回復するんだけどなー』

「はぁあっ;;;」

『って事で、飛鳥ちゃんのぷにぷにの唇で治療を』

「するかっ、ばーか;;;」

『えぇー、ダメかー。チャンスだと思ったんだけど』

いつもの冗談みたいなやりとりで、なんだかんだ気持ちが落ち着いてくる。

本当に大事にならなくてよかった。

それでも今日は入院なのか・・・




『じゃあ飛鳥ちゃん、気をつけて帰ってね』

「うん・・・」

『明日の昼には退院できるみたいだから、そのままスマホ買いに行ってくる』

「うん・・・」

『復活させたら連絡するね』

・・・・・・

・・・・・・

「ねえ・・・」

『ん?』

「私も一緒に行っていい?」

『え?』

「連絡つかないの不便だし;;;」

「今日デートできなかったし////」

・・・・・・

・・・・・・

『えっぇぇ!!飛鳥ちゃんがデレてる;;;;』

「べっ、別に//////デレてないし//////」

いいじゃんか//////私だってデレたい時があんだよ;;;

『さては飛鳥ちゃんの偽物?』

「おいっ!!」

『ははっ、ごめんごめん。デートやり直そっか』

・・・・・・

「うん;;;」

自分で言いだしたのに、あらためて言われるとなんだか恥ずかしい;;

「そ;;;それにしてもスマホ壊れてたのに、よく私の番号分かったね;;;」

『そりゃ覚えてるよ飛鳥ちゃんの番号だもん』

「普通自分以外の番号覚えてないだろ」

『飛鳥ちゃんは特別っていうか別腹だからね』

「はぁ!?//////」

『飛鳥ちゃんに関する事は全部覚えてるよ!!』

「普通にきもいんですけど;;;」

『電話番号、誕生日、血液型、身長、体重・・・』

「いや、言った事ないし;;;」

『靴のサイズ、指のサイズ、バスト、ウエスト、ヒップ・・・』

「おいっ;;;やめろっ;;;」

『毎日よーく見て数値化すると小さい変化にも気づけるんだよねー』

・・・・・・

・・・・・・

『飛鳥ちゃん?』

「何が小さいだってぇぇ、ゴラァっ!!!」

バキィッ!!

がら空きの頬に拳を素早く打ち込むと、いつもの負け顔でこっちを見る。


『イッタタタ;;;飛鳥ちゃーん、けが人だよー』

「うるさい、このド変態がっ!!」


まったく心配して損したわ。

全然いつも通りじゃんか、コイツ・・・・

あれ?この感じって・・・

<飛鳥ちゃん、・・・ちょっと元気になったね>

昨日の朝言われた台詞を思い出す。

もしかしてコイツ私の為に、わざとやってる?


いや、考えすぎか・・・



そんな風にあれこれ考えていると、妙に落ち着いた様子でこっちを見ていた。

『飛鳥ちゃん』

・・・・・・

『今日は待たせちゃってごめんね、来てくれて嬉しかった』

・・・・・・

『それと言い忘れてたんだけど』

・・・・・・

『髪めっっちゃ可愛いねっ!!オレの超好みっ!!』

嬉しそうに目を細めてそんな事を言ってくる。

!!!

うう////

このタイミングでそんなのずるいじゃん//////

髪を褒めてもらえるかなーって、浮かれていた事なんて忘れてたのに。



いっつも変な事ばっかり言ってくるくせに、

いっつも私の事をちゃんと見てくれている。

その事が

嬉しくて・・・

恥ずかしくて・・・

ちょっとだけ悔しい。


私ばっかりやられてる気がするんだよなぁ//////

悪い気はしないけど、たまには一矢報いてやりたい。

珍しくそんな気持ちになって、ちょこちょこと距離を詰めてみる。

・・・・・

・・・・・

「私も言い忘れてた//////」

『ん?』

チョイチョイ手招きすると、屈んで片耳を向けてくる。

そんなガラ空きの頬に


チュッ//////

!!!

『えっ・・・』

素早く唇を打ち込んでやると、

何が起きたか分からない様子で頬を押さえてこっちを見る。

「どう?//////」

・・・・・・

「痛いの治った?//////」



・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

「じゃっ、じゃあねっ;;;;明日;;;」

恥ずかしさが一気にこみ上げてきて、逃げるようにその場を去った。




早足で病院を出ながら、さっきのアイツの顔を思い出す。

めちゃめちゃびっくりしてたなぁ//////

どうだ、今回は飛鳥ちゃんの勝ちだぞ//////

多少身を削ればこれくらいはできんだから//////

ふははっは//////

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・



って、いやいやいやっ;;!!!

何してんのっ、私!!?

自分のしでかした事を思い出して、その場にしゃがみ込む。

顔からぶしゅーと蒸気が出るほど、全身の熱が高まる。


うわぁぁぁーーー;;;

明日どんな顔して会えばいいんだよぉー;;;






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