幼なじみの飛鳥#1【忘れ物】
「おい、起きろ」
もうさっきからずっと起こしてるのに全然起きる気配が無い。
飛鳥ちゃんが起こしにきてやってんだぞ。
声をかけてるだけじゃ埒があかないと思い、近づいて布団を一気に引き剝がす。
「おーきーろぉー!!」
『えー・・・』
心底鬱陶しそうな声を出して、ようやく薄く目をあける。
もうやっと・・・
安心したところに、ぶわっと手が伸びてきて私の腰に抱き着く。
「お、おいっ!!」
そのままするすると手が下りてきて、お尻に・・・
へ!?
突然の出来事に身体が硬直して動かない。背筋がピーンとなって固まる。
驚きすぎると反応できないもんらしい。
「ちょっ;;;」
むにむにと何度か感触を確かめられてから、ようやく手を払って逃れる。
「ちょっっと!!な、何すんの!!!」
『えっ・・・・なんだ飛鳥ちゃんか。おはよう』
ボサボサの髪をかきながら、寝そべったまま起き抜けの顔で私を見上げる。
こいつマジか・・・・
「最っ低ー!!」
ゴツッ!!
額に拳をぶち込んでやる。まったくなんて朝だ・・・
登校中も私の機嫌は直らない。
『飛鳥ちゃーん、ごめんって』
・・・・
『もう機嫌直してよ』
「直るか!!普通に犯罪だから!」
朝からがっつりお尻を触られてそうそう無かった事にできない。
初めての経験過ぎて恥ずかしいのもあるし。
『それはほんとにごめんなさい、反省してる!』
「・・・はぁー」
肩を落として溜息をつく。コイツのこういう顔を見せられちゃうと・・・
まあ、わざとってわけじゃないんだろうけど、それにしたって寝起き最悪じゃん。
「もう起こさないからね」
『えー、そんなぁー。飛鳥ちゃんがいないと起きられないのよ、ほんとに』
「そんな事言って起きないじゃんか。今日みたいな事されても困るし////」
『それは・・・』
なんか自分の手をじーっと見てる。
「あぁぁぁー!!なんか思い出してんだろ!!!」
『いや、なんかいい感触だったなーって』
「死ねっ!!」
ゴスッ!
みぞおちに本日2度目の拳を打ち込む。
『うぅぅ、痛いよー』
「うるさいっ!!!」
『飛鳥ちゃーん・・・ほんとに反省してる。ちゃんと責任とるから!!」
「は?」
『結婚しよう。それで子供を作ろう!!』
「////お前は、もう喋んな!!」
バコッ!!
本日3度目の・・・
『痛いってー』
「こっちも手が痛いわ!!」
『じゃあ、やめればいいじゃん』
「ちょっとは反省しろーー!!」
なんで私はコイツの前でいっつも怒ってるんだろ。
なんでこんなに残念な奴をほっとけないんだろ。
幼なじみで別に特別かっこいいわけでもないし、頭がいいわけでもない。
子供の頃から一緒にいて、寝起きが最悪で・・・
でも一番残念なのはこんな奴の事がずっと好きな私だ。
どこが好きって言われても、どこも思い浮かばないし、説明なんてできそうもない。
それなのに好きな事は間違いなくて・・・これは重症だな。
「はぁぁー」
本日2度目の大きな溜息をつく。
『飛鳥ちゃん、そういえば今日はバレンタインですよ。
今年こそチョコもらえます?』
あっ!?
言われてようやく今日の目的を思い出す。
今日こそは幼なじみのコイツにチョコを渡そうと持ってきたんだ。
ちなみにまだ一度もあげたことは無い。
数年前から用意はするけど、勇気が無くて渡せない状態が続いている。
毎年欲しいみたいな事は言われるんだけど、
「あ、あるわけないでしょ////」
言葉では突き放すが、左手で鞄の中を確認する。
あれ?無いっ!!
鞄に入れていた袋が無いことに気づく。
家に忘れて来た?いやいや、何度も確認したし、
コイツの部屋で渡そうと思って一旦鞄から出したし・・・・
あっ!!
布団を引き剥がそうとした時に、床に一度置いたことを思い出す。
やっちゃった!!!
どうしよー、回収するのは難しそうだし。
一応渡す目的は果たせそうだけど・・・
なんとも間の抜けた渡し方になってしまった。
『飛鳥ちゃんどしたの?』
急に挙動不審になった私に不思議そうに声をかける。
「は、なんでもないけど・・・」
『なら、いいけど。もしかしてほんとにチョコもらえる?』
そんなに嬉しそうに言うなんてズルい・・・
「だから無いって言ってんじゃん」
ほんとに今は持っていないから嘘ではない。
『・・・じゃあ誰かにあげようとしてる?』
「は、はぁぁ?」
わかりやすく声が裏返る。
やば・・・
『誰にあげんの?』
コイツにしては珍しくグイグイくる。
「いや、もう渡してきたっていうか・・・」
正確にはアンタの部屋に置き忘れてきたんだけど。
『えっ、登校前に渡してきたってこと?』
////やば
「と、とにかくこの話は終わり。たぶん後でわかると思うから・・・・」
『んぅー?』
納得いかないという表情で私を見る。
『あのさ!!』
急に大きな声を出されてビクッとする。
「は、はい」
『相手が誰か知らないけど、オレの方が絶対飛鳥の事好きだから!!!』
!!!////
「は、はぁ!!急に何言ってんの?」
『とにかくそういう事だから!!』
そう言って先に歩きだす。
あぁー、こういうとこだ。
急に呼び捨てにされて動悸が止まらない。
いつもふにゃふにゃしてるくせに、たまに見せる真剣な表情にやられてんだ私は・・・
ずっと昔から・・・
『飛鳥ちゃん?』
振り返って私を見る顔は、いつもの柔らかい笑顔だ。
「あ、あぁ・・・」
ボーっと見て足が止まっていた事に気づいて、慌てて足を動かす。
今日家に帰って私のチョコに気づいたら、
今までの幼なじみっていう関係が変わるのかな。
ど、どうしよー////めっちゃ恥ずいかも・・・
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