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幼なじみの飛鳥#5【罰ポイント】

目尻を伝う冷たい感触に覚醒する。

あれ、私泣いてる?

なんでだろう。

とにかく気分が悪い。

悪い夢でも見ていたんだろうか。

何も思い出せないけど。

鬱屈とした気分で無理やり身体を起こす。

私の中で相当辛いと思うことが起きていたんだろう。

うわっ、目赤いっ;;

鏡を見るとちょっとじゃないレベルで泣いていたのがわかる。

最悪の朝だ。

こんな顔、アイツには見られたくないなぁ

はぁ・・・

深いため息をつき身支度を整える。



『飛鳥ちゃーん、おはよう』

「おはよ」

『今日も可愛いね』

「はいはい」

・・・・・・

『あれ飛鳥ちゃん何かあった?』

「・・・なんでよ」

『いやなんとなく』

やっぱりわかってしまうらしい。

それでも夢見が悪くて朝から泣いていたなんて情けない事をコイツに知られたくない。

という事で今日も低めのテンションで応対する。

「別に何にもないけど・・・」

『そっか・・・』

・・・・・・

『もし体調悪くなったらすぐに言ってね』

・・・・・・

『俺がおんぶするからね』

「・・・元気だし」

我ながら元気なやつの反応ではない。

・・・・・・

『えー残念、飛鳥ちゃんおんぶしたかったなー』

・・・・・・

『飛鳥ちゃんのむちっとした太腿をしっかり抱えて、可愛いお尻をそっと両手で支えて』

!!!コイツ///////

「キモ、絶対やだ」

『はい、どうぞっ』

なんて言って背中を向けてしゃがみ込む。

うっ;;;

弱っているからかだろうか・・・

その背中に身体を預けてみたくなってしまう。

・・・・・・

いやいや、それはさすがに意味が分からないし、説明がつかない。

衝動をなんとか抑えつつスルーして追い越していく。


『あっ、待ってよー』

コイツはいつも変わらないなぁ。

こういうところ本当にすごいと思う。

私も見習わないと。

理由がわからないことに落ち込んでいてもしょうがないんだし・・・

って理屈ではそうなんだけど・・・


『ねえねえ、飛鳥ちゃん』

「ん?」

相変わらず顔も向けない私。

感じ悪いよなぁ・・・

『オレめっちゃ良い夢みたんだ!!』

「へえ・・・」

『知りたい?』

「別に・・・」

『飛鳥ちゃんとデートした夢なんだけどさー』

はぁ、コイツ;;;

別にって言ったんですけど、人の話聞いてんのか!

『飛鳥ちゃんが「駅で待ち合わせね」って言ってさー』

『家から一緒に行けばいいじゃんって言ったら』

『「ちゃんとデートだって思ってほしいんだもん///////」って恥ずかしそうに言うのよ!!』

『ヤバくない?飛鳥ちゃんの可愛さっ!!』

そんなの私に言うなよ///////

「勝手に登場させて変な事言わすなっ;;;」

『そんで、チューした時なんてさー』

「はぁあ!!どーいう流れだよ」

『ごめんごめん、ちゃんと説明するね』

「いらんわっ」

『柔らかかったなー、飛鳥ちゃんのぷにぷにのくちび・・・』

ズオォンッ!!!

がら空きの脇腹にしっかり体重を乗せて拳を打ち込む。

『うぅっ;;痛いよぉー』

「マジでやめろっ!!」

まったく何考えてんだよコイツ・・・


『飛鳥ちゃん』

「なんだよ!!!」

今度はちゃんと顔を向けて睨みつけてやると、穏やかな表情でこちらを見ていて・・・

『・・・ちょっと元気になったね』

「は;はぁ////元から元気だし;;;」

『そっかそっか』

心が見透かされているようで、優しい目から視線を逸らした。



『飛鳥ちゃん、明日ほんとにデートしない?』

「な;なんだよ急に;;;」

『ダメ?』

「ダメって言うか;;;明日は髪切りに行くから・・・」

『え、飛鳥ちゃんがオレの好みの髪型にっ!!行く行く!!オレもついてっていい?』

「いいわけないだろっ;;」

『えぇー、彼氏同伴はありじゃないの?』

「かぁっ;;;彼氏じゃないし;;;」

・・・・・・

・・・・・・

「ちなみに・・・好みってさ;;;;」

『ん?』

「いや、なんでもない・・・」

もしかしてショートの方が好きとか;;;

そんな事ないよね・・・

『飛鳥ちゃんの髪、一番に見たいなー』

『デートもしたいしー』

・・・・・・

・・・・・・

「・・・・なら」

『えっ?』

「髪切った後なら・・・いいけど////」

『えぇっ!!デートしてくれんのっ!!?』

そ、そんな嬉しそうに;;;

「デートっていうか;;;ブラブラしようと思ってたから・・・別に一緒に来てもいいけど・・・」

『やったぁ!!デートだぁぁ!!』

「だ、だから;;;」

大袈裟だなぁ;;;

それにしても・・・

私ってほんと単純なんだなぁ・・・

眩しすぎる光にたっぷりあてられて・・・

いつの間にか心のモヤはいなくなっていた。


「じゃあ;;3時に駅前でいい?」

『はいっ!!朝から待ってます!!』

「やめろっ!!」

『だってぇ、飛鳥ちゃんとのデートだよぉ』

うぅ、そんなに嬉しそうに言われると・・・

でもほんとに朝から待ちそうで怖い。

「私より先に来てたらダメ!!」

『えぇー、飛鳥ちゃんを待たせるなんてありえないでしょ』

「とにかく私は3時に行くから、5分遅れで来て!!」

『えー』

「5分遅れジャストで来ないと帰るから」

『けっこう難しくない?それ』

「じゃあ、やめ・・」
『オッケーですっ!!』

朝一でデートをする事が決まったので、この日は一日ソワソワして過ごした。



ーーーーーーーー

うわぁ、まただ・・・

目を開けると、グラグラと歪んだ天井。

今日も泣いていた事に気づく。

何なら昨日よりもひどい状態だ。

相変わらず夢の内容は覚えていない。

それでもさっきまで内臓をぎゅうっと握られていたような嫌な感覚と、

言いようの無い喪失感が全身に纏わりついていた。

はあ・・・

いったいどうしたんだろうか・・・

今日はアイツとのデートなのに・・・

そう思ってアイツの顔がちらついた瞬間に身体がフッと軽くなる。

あれ?

大丈夫かも・・・

アイツと会ったら、私はまた元気になるじゃん////

その点については確信があった。



ーーーーーー

遅いなぁ・・・

髪がなかなかいい感じ仕上がって、満足だ。

これはきっと褒めてもらえるんじゃないだろうか。

どんな反応するんだろう。

『可愛すぎるぅ!!』とか、『結婚して!!』とか言うかな;;;

ふふふ。

会う前からもう褒められた気になっている。


朝あんなに鬱々とした気持ちでいたのに、今はこんなに浮かれちゃって;;;

やっぱり私って単純だなぁ・・・

それにしても・・・

待ち合わせに5分遅れて来てって言ったのは私だけど、

かれこれ20分遅れている。

さっきからずっと睨みつけているスマホには連絡の1つもない。

遅れるんだったら連絡ぐらいしてきそうなもんだけど・・・

時間間違えてるとかかな?

いや、アイツそーいうとこちゃんとしてるし・・・

こっちから連絡するのもなんか癪だなーと思いつつ、

「おーい」とだけメッセージを送って返答を待つ。

なんだよぉ・・・飛鳥ちゃんを待たせやがって

これは罰ポイントだぞ。



それから10分ほど経っても、既読もつかない。

さすがに心配になって電話をかけると、電源が入っていないようでコールも鳴らなかった。

どうしたんだろ・・・

ここまで連絡がとれないなんて。

来る途中に事故でもあったんだろうか?

その考えに至った瞬間、ここんとこの悪夢がぶわぁっとフラッシュバックする。


^^^^^^

私は病院にいた。

アイツが交通事故にあったと聞いたからだ。

どうせいつもの感じで、事故っちゃったんだよーとか笑って言うのかと思ってたんだけど。

私が駆けつけた時には、もう笑ってくれなかった。

・・・・・・

あまりにも突然で、あまりにもあっさりとしたお別れ。

私の中にはアイツの笑顔がそのまま残ってるのに・・・

私の中から出て来て目の前で笑ってくれる事はもうないんだ。

あんなに何度も私の名前を嬉しそうに呼んでくれたのに・・・

もう二度と・・・

・・・・・・

・・・・・・

ふざけんなぁぁ、ばかぁぁぁっ!!


何も言わずに急にいなくなるなんて、あんまりだ。

あまりの身勝手さに怒りを覚えて、悪態をつく。

それから思い出すのはアイツの笑顔と、素直じゃない自分への後悔ばかり。

途方も無い喪失感に見舞われ、どれだけ大切な存在だったのかを思い知る。

・・・・・・

なるほど心に穴が開くっていうのはこういう事か。

アイツがいない人生なんて、私にとっては意味も価値も魅力も無い。

なんならいっそ・・・

そういう発想さえ出てきてしまう。

でも、それはアイツに怒られるかなぁ・・・

・・・・・・

勝手にいなくなんないでよ。

いつもみたいに名前を呼んでよ。

その後は壊れたロボットみたいに、怒って泣くを延々と繰り返す。

ここんとこの悪夢はそーいうやつだった。


^^^^^^

悪夢の内容を思い出すと同時に、鈍い胸の痛みに立っていられなくなる。

まるで心臓の肉を400グラムだけ上手に切り取られたみたいだ。

そんなタイミングで手の中のスマホがぐわんぐわんと大きく鳴動する。

着信画面に表示されていたのは、

知らない固定電話の番号だった。


【続く】




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