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怪談と(もしかして)の心理 辰吉の肩毛

天才ボクサー 辰吉丈一郎の逸話

彼が少年の頃、近所の洞窟にオバケが出るという噂が立った。どうも女性のオバケらしい。
怖いもの知らずの辰吉少年であるから
オバケ退治に仲間を連れて洞窟探検に出かけた。

洞窟を奥深く進む少年たち
辰吉少年はもちろん先頭だ

洞窟の闇の奥、、、
果たして、それは いた
発光するそれは、確かに女性に見えた

みな一目散に逃げ出した
必然、先頭の辰吉少年は、しんがりになる
必死に逃げる辰吉少年

その肩を、背後から誰かが叩く感触があった。
帰宅した辰吉少年の肩にはアザがあり、しばらくするとそこから長い毛が生えてきた、という。

辰吉少年は長じてボクサーになる。
その肩には長い髪のような毛が生えており
それが生き生きしている時は
彼の試合の調子はすこぶる良く
また何かの拍子にそれが抜けてしまった時は
ヘナヘナになってしまった、いう。
彼が普段から、その長い肩毛を気にするように
なったのは言うまでもない。

この不思議な話を最初に聴いたのは、ダウンタウン松本のラジオだったと思う。

まるで寓話の主人公のような話だ。
痣(アザ)から生えた髪の毛によって鬼神の如き力を宿すのだが、その引き換えに代償を支払う。
ボクサー辰吉は絶頂期に網膜剥離を患った。
まるで烙印のようじゃないか。

身も蓋もない話をすると、
この(肩毛が抜けたら良くない事が起きるんじゃないかしら?)というのは予期不安になる。
まだ起きてもない事を、さも起きたかのように
人は感じてしまうのだ。
不安の先取りだ。
でも、こういう事ってよくあるでしょ?

特に、人は反復に弱いのだ。
反復強迫という用語があるくらいだ。

例えば、1人暮らしの男が帰宅したら
床に長い髪の毛が落ちていた。
男はこう思うだろう。  
(たまたまだろう)
 
しかし、翌日帰宅した男は
また一本の長い髪の毛を拾った。
男はこう思うだろう。
(この部屋には誰かがいるかも知れない)

辰吉には後日談がある。
取材に来た芸人にこの事を聞かれた辰吉は
「かまへんで。あげるわ」と
肩毛をプチっと抜いてくれたらしい。

本人は今となってはそんなに気にしていないかも知れない。あるいは勝負師として、いわゆるジンクスを乗り越えたのかも知れない。

この(かまへんで)精神って
不確実な世を生きるには、とっても大切なのだ。







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