トマス/臨床心理士

急性期病院の臨床心理士です。 noteは一服するためにボチボチ書いてます。 閲覧ありが…

トマス/臨床心理士

急性期病院の臨床心理士です。 noteは一服するためにボチボチ書いてます。 閲覧ありがとうございます。

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病むにやまれず

今私はお布団で絵本を読んでいる一歳半の男児の横でこれを書いている。 妻は遅めの風呂に入りに行った。子供は今夜泣きそうな気配を出しているので、あやしながら、愛でながら、これを書いている。 絵本を指差して子供がとう これは❓ バナナ これは❓ リンゴ 今日の私は、婦人科病棟で切迫早産の母にならんとしている患者さんと会い、急性期病棟で四肢麻痺のリハビリ患者さんに声をかけ、もう辞めようかという職員と言葉をかわし、小児科で受験生と作戦会議をし、入院で混乱しておられる高齢の患者さん

    • 鼻くその味 

      母が看護師だったので、 子供の頃から留守番が多かった。 外来を終えた母は、一旦帰宅すると大急ぎで夕飯を作って「今日はヤシン(夜診)やから」 とまた出かけた。 鍵っ子であった自分は小学校から帰ると、門扉の横の鉢植えの底を手で探って母が隠した鍵を見つけて家に入った。 もし鍵がなかったらどうしようと いつも心配だった。 鉢植えの裏側には、ダンゴムシやミミズやハサミムシが静かに暮らしているのを知ってから、 1人になると鉢裏の小宇宙を眺めて過ごした。 橋げたで拾った仔猫を、田圃

      • 春になると母は

        「最近のツバメは小さくなったねぇ」とこぼす。 母は70まで看護師をして、最後は院長に慰留されながら身を引いた。もう危ないわ、と。 瀬戸内の海辺にある旧家に生まれた母は 3歳になるといきなり祖母に波止場の突端から 海に放り込まれて溺れながら泳ぎを体得した。 祖父は終戦直前に斬り込み隊で戦死しており 母は自分の父というものを知らない。 戦後、なぜか二体帰ってきた遺骨をおもちゃに 潮が引いた浜辺で遊んだという。 祖母は苛烈な人で、女手一つで女児ばかりを5人育て上げた。終戦直

        • 再生

          生きた言葉

          人が傷つくのも人からだけれど、人が回復するのもまた人だ。こんな風に言葉をかけられるのは素晴らしい。

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        病むにやまれず

          文化系世界最強バンド R.E.M.

          世の中には、なんでこんなヘンテコなのに なんでこんなに人の心を掴むのだろう? というバンドがある。 アメリカはジョージア州アセンズという片田舎で 結成された R.E.M.は、世界的な人気を集めた。 良心的な楽曲と難解な歌詞 聴き取りにくいが深いボーカル 忘れ難い普遍的なメロディ 大昔は、早稲田の大隈講堂にも来たらしい バンド名は、レム睡眠(REM)に由来する そんなR.E.M.には名曲が沢山ある そのどれもが映画のエンディングテーマのようだ その中でも異質な曲が Wh

          文化系世界最強バンド R.E.M.

          オバケ〜 幻視 錯視 座敷童子

          もうすぐ2歳になる息子 誰に似たのか、よく本を読む 本といっても図鑑や絵本だ 因みに彼の愛読書は『おーい カバくん』だ (これはなに?)  絵本のイラストを指さす息子 これは メ(目) (これは?) これは クチ(口) 彼は世界の輪郭に少しずつ触れてゆく   図鑑になると大変で、あらゆる事象を指さすので、僕も世界の謎をひとつひとつ伝えるような気分になってくる。向こうは真剣そのものだ。 (これは?) これは オバケ いわゆるお化け👻(カーテンを被ったようなヤツ)のイラスト

          オバケ〜 幻視 錯視 座敷童子

          怪談と(もしかして)の心理 辰吉の肩毛

          天才ボクサー 辰吉丈一郎の逸話 彼が少年の頃、近所の洞窟にオバケが出るという噂が立った。どうも女性のオバケらしい。 怖いもの知らずの辰吉少年であるから オバケ退治に仲間を連れて洞窟探検に出かけた。 洞窟を奥深く進む少年たち 辰吉少年はもちろん先頭だ 洞窟の闇の奥、、、 果たして、それは いた 発光するそれは、確かに女性に見えた みな一目散に逃げ出した 必然、先頭の辰吉少年は、しんがりになる 必死に逃げる辰吉少年 その肩を、背後から誰かが叩く感触があった。 帰宅した辰

          怪談と(もしかして)の心理 辰吉の肩毛

          立ち上がれ 藤浪晋太郎

          どこを歩いても 大谷翔平くんである WBCも勝った 今年は本塁打王も夢じゃない 投げても素晴らしい また打った ほら投げた 高校時代から立派な目標を立ててた 玉拾いはする 礼儀正しい おまけに通訳まで良い人だ 患者さんにも大人気 ありがたい話だ。世の中明るくしてくれる。 でも、みなさん 誰か大事な人。忘れてはいませんか? そう 藤波晋太郎ですよ 大阪桐蔭高校出身 元 阪神タイガース 現 オークランドアスレチックス所属 また打たれた ブーイングされた 投げ方がどうの

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          始まりの坂本龍一 あいてるドアから失礼しますよ

          僕にとっての坂本龍一さんは テクノでも映画音楽でも、偉大な音楽家でもなく フォークソングの人でした。 フォークシンガー友部正人さんの初期のアルバム 「誰もぼくの絵を描けないだろう」に 若き日の坂本さんのピアノ演奏があります。 僕が高円寺のアパートに暮らしていた頃、 小さなスピーカーから流れたピアノが実に見事で印象深くて(このピアノは一体誰なんだろう?)とクレジットを見たら坂本龍一とありました。  多分これは彼の最初の公式音源で、この頃はまだ学生さんか駆け出しぐらいだった

          始まりの坂本龍一 あいてるドアから失礼しますよ

          うなぎなるもの 村上春樹

          雑誌「精神療法」に興味深い記事があった。 特集は「エナクメント」 意味としては「治療中に起きる予期せぬ出来事」(それが功を奏したりする)くらいのものなんだけれど、ちょっとわかりづらい(精神分析はまあそうなんだけれど)。 この、治療者と患者さんの2人だけじゃない瞬間の大切さ(或いは2人の関係をやり通した時にどうしようもなく到来するものの不確実性)について、上手いこと言い当ててるのは 精神科医やカウンセラーなんかではなくて 別ジャンルの小説家村上春樹さんらしい。 この辺りは

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          私が召される時は 

          とある神父さんから聞いた話。 神父さんは、日頃から何人かの信者さんと ある約束をされている。 実際に、「その時」は来る。 神父さんは、彼女の病床にゆく。 約束した一節を彼女の耳元で唱えるために。 「その時はね、トマスくん 彼女がどんな状態であってもしっかりと聞こえてるのがわかる。 人の命の振動が伝わる(サウンド)距離が 君にわかるか? それはおよそ60センチくらいなんだ。 不思議なもので、病室では親が亡くなるというのに息子さんは本人に近づかないで遠巻きに見てるんだ

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          上岡龍太郎さん

          横山ノックさんへの素晴らしい弔辞 ご冥福をお祈りします。

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          繊細の王様 ポップミュージックは何故かくも明るいのか

          イギリスにXTCというバンドがいる(いた)。 フロントマンは、アンディ・パートリッジという。もうすっかり禿げてしまった。 この人は、ライブ恐怖症という理由から 長らく舞台で人前に立つ事がない。 では、とても陰鬱な曲ばかりか?  と言うと、まるで逆で ポップの極みのような素晴らしい曲を沢山描いている。おまけに歌詞は捻りまくっている。 エルトン・ジョンの顔にポール・マッカートニーの才能が乗っかったような男 アンディ・パートリッジの人生は 踏んだり蹴ったりのようだ。 おまけ

          繊細の王様 ポップミュージックは何故かくも明るいのか

          体への手紙 腰に願いを

          ロールレタリングという心理療法がある。 珍しく日本で生まれた心理療法だ。 (他に内観療法や森田療法がある) ロール(役割) レタリング(手紙を書くこと) なので 自分から誰かに宛てた手紙を書く作業 を通して、心の作業をする(気付きを得る) ことが、大切になってくる。 実際には、相手に手紙は投函されない。 言わば、「心の中の他人」に向かって その人を思いやって してもらった事やして返した事 謝りたい事や もう過去になったけれど終わっていない事を 胸に照らして、自分の言

          体への手紙 腰に願いを

          心を何に喩えよう

          心を何に喩えよう ある人は言う 心は豆腐みたいなものだ、と それは、そっと手のひらに乗せるよう大事に扱うべきものだ 力を込めて掴んだらクシャリと潰れてしまうから、と 心を何に喩えよう  ある人は言う 急性期の心は 水をいっぱいにいれたコップをそうっと持って 歩く感覚だ、と 回復期の心は 塗りたてのペンキを扱う感覚だ、と 心を何に喩えよう ある人は言う 心は天気のようなもの、と (今の気持ちを天気で喩えたら?) 雨雲でいっぱいです (一雨降れば、晴れ間

          心を何に喩えよう