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#13 あとがき          ~慢性骨髄性白血病患者の皆さんへ~

 私は、平成29年10月から治療を開始した慢性骨髄性白血病患者です。

 慢性骨髄性白血病の発症率は、およそ年間10万人に1人と言われています。つまり、世の中にほとんど患者がいない珍しい病気です。そして、患者が少なければ参考になる闘病記も少なくなります。この「慢性骨髄性白血病は完全寛解したけれど」は、新たに患者になられた皆さんへ少しでも支援になればと思って執筆しました。

 20年ほど前までは、慢性骨髄性白血病を発症すると命を失なう可能性が非常に高い状況でした。今は分子標的薬が開発され、この薬を飲み続けていれば、ほとんどの方が生存できる病気になりました。素晴らしい医学の進歩だと思います。

 ところが、慢性骨髄性白血病の治療薬である分子標的薬には大きな問題もあります。

 一つ目は副作用の問題です。副作用の発生には個人差があり、ほとんど副作用を感じずに薬を服用できるケースがあれば、副作用の発生が著しく薬の服用が困難になるケースもあるようです。また、私のように副作用の影響が大きく、仕事の継続や日常生活に影響が出るケースもあります。

 副作用は、それを軽減させる薬を服用すると症状が落ち着いてくるケースがあります。ただ、副作用の発生数が多いと多種の薬を服用することになります。副作用を軽減させる薬から副作用が発生することもありますので、なかなか難しいところです。

 二つ目は高額な医療費の問題です。分子標的薬は非常に高額であり、例えば「スプリセル」と呼ばれる分子標的薬を一日服用すれば19,000円程度になります。健康保険で3割負担だとしても一ヶ月に190,000円程度の負担になります。病気の進行状況に応じて薬が増量されれば、さらに高額になります。

 高額な医療費を、高額療養費制度で健康保険の3割負担より少ない支払額にすることは可能です。それでも69歳以下で一定の収入がある人は一ヶ月で85,000円程度になってしまうでしょう。多数回該当という制度を用いても44,000円です。ちなみに年収が約770万円を超えると倍以上の支払額になります。いずれにしても毎月支払う額としては高額です。

 分子標的薬は継続的に服用することで白血病細胞の発生を減少させる薬です。分子標的薬を服用しなければ白血病細胞は増加していきますので、原則的に一生飲み続ける必要があります。ですから、発生する副作用には一生つきあわなければいけませんし、高額な医療費にも同様です。

 私は、副作用の対応で血液内科を含め5つの科を受診しました。頭が副作用で霧に包まれているような状況のときに、これだけの科を受診すると病状を適切に把握できなくなります。そこで精神科医師のカウンセリングを活用して、病状を整理して把握するお手伝いをしていただきました。

 高額な医療費については、当初とても苦しみました。この医療費がずっと続くのかと思うとゾッとしました。ただ、私の場合は妻にしっかりとした収入があったことと、治療の3年目から分子標的薬の服用を中止できたことに助けられました。

 令和4年12月現在、私は妻の扶養に入っています。ですから、健康保険や年金に係るお金を支払っていません。以前の私なら妻の扶養に入ることは耐えられなかったと思います。でも収入がなければ支出を減らすしかありません。自尊心なんて言っていられません。

 患者さん御本人は御存知かと思いますが、分子標的薬は副作用で気分障害などの精神疾患を誘発することがあります。そんなときに継続する副作用や高額な医療費のことを考えると、自分の生きている意味や価値を自問自答しがちです。自ら命を絶つことも合理的な選択なのではと考えてしまいます。

 正直、私もそう思っていた時期がありました。でも、分子標的薬の服用をやめたらスッとなくなりました。精神的な具合の悪さを感じるのは「病気のことを気に病んで」ではなく、もしかすると分子標的薬の副作用のせいなのかもしれません。

 慢性骨髄性白血病患者の方は、それぞれが辛い事情をお持ちのはずです。自分の思い描いていた人生になっていないことも多いでしょう。でも、思い描いていた人生でないと言うことは、別の人生を歩めるチャンスが生まれたとも考えられます。そんな簡単な話ではないことは重々承知していますが、お互いにその時点での最善策を探していきましょう。

 なぜ私が執筆活動をすることができるようになったか。それは痛みで打てなかったパソコンのキーボードが打てるようになったからです。生きていれば少しずつでも状況の改善が見込めるときが来るかもしれません。そして、少しでも明るい未来を期待して一日一日を生きていきましょう。

【完】


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